第35話 ダンジョン発生

 令和〇年3月半ば、この日、北海道千歳を震源地とした震度5強の地震が発生した。幸いにも人的被害も物的被害も殆ど無かった。しかし世間は驚愕し、世界の終わりではないだろうかと言う叫びが飛び交った。なぜならこの日同時刻に地震が起きたのは北海道だけではなく、日本全国いや全世界の至る所で同時発生したのだ。

 各々が震度5から6の地震がこれだけの規模で起こると、世界終末論者が世界各地で沸いて出て、人々を煽り暴徒化し、各街を荒らしている様なニュースが流れた。

 日本も都会の一部ででそういう様なや輩が出たらしいが、規律を重んじる国民性なのかそれとも単に冷めているだけなのか、海外ほどその暴動に乗っかる者も少なく一日と経たずして鎮圧されていった。

 ここ千歳の街は駐屯地が多いと言う事もあって、みんな不安に思うことが少ないのか暴徒と言う輩が出ることはなかった。

 だが学校は丁度テスト期間も終了した直後とあって、授業ももう終わっているので大事を取って休校になり、そのまま春休みを向かえる事となった。


 「お待たせーおはよー!あずきちゃん、スダチカ!」


 「おはよう!芽依ちゃん!」


 「おはよう黒川さん。」


 「昨日凄い揺れたね!みんな大丈夫だった?」


 「私の家は千佳ちゃん人形の首がもげた位かな。」


 「ちょっと、なんで私の人形が有るのかも謎だけど、なんで地震の揺れで首がもげるのよ。最初から取れてたんでしょ、普段から私の人形はどんな扱い受けてるのよ!」


 「えへへ聞きたい?えーとね、釘ととんかちを使ってね~」


 「えへへじゃないわよ!それ只の藁人形じゃない!!ったく、道理で最近寝苦しいと思ってたのよね。」


 「えへへ」


 「黒川さんの家は大丈夫だった?」


 「私の家は飼ってる犬と健兄ちゃんが家の中で失禁したくらいね。」


 「健太郎さんはオシッコなんかしません!!」


 「するわよ、アイドルじゃないんだから。本当にあれに何処がいいんだか。」


 「なっななっ何言ってるんでしゅか!!」


 あの事件の後、私達は五里の残党等の報復に備えて、個々の強さを身に付けると言うことで、格闘技研究会という部にすらなっていない所に所属したのだが、この格闘技研究会の部員が一つ上の先輩一人しか在籍していないらしく、しかも現在1年間の停学を食らっている最中で会ったことがないので実際どんな人かもわからない状態だ。

 一体何をすれば一年間もの停学という処分になるのか見当もつかないが、仕方がないので野外活動として週の半分くらいはおじいちゃんの道場や裏山の訓練場を貸してもらい、日々トレーニングを積んでいるのだ。

 柳流道場としても女の子が3人いるだけでも門下生達の気合いが段違いに上がったり、おじいちゃんの機嫌が凄い良くなったり、それこそ門を叩く人が増えているのでwinwinとも言えるのだ。

 因みにスダチカはあの事件で目の前で助けてもらったからか、健兄ちゃんのことが気になるらしい。


 こうして私達3人は今時の女子高生とは思えないような激しい訓練の毎日を送っていたのだがそれなりに成果はあった。

 危惧していた五里グループの残党どもが何回か襲ってきたのだが、見事に3人で撃退することができたのだ。あずきちゃんのような小動物のような子が、背中から伸縮式の警棒を取り出してくるんだから向こうもビックリしただろう。


 そんなこんなで地震のあった翌日も、大した被害もないのと学校が休みになったことで朝から裏山に集合したのだけど...


 「無い!無いわ!私のサムがいなくなってるわ!」


 「黒川さんあなた丸太に名前つけてるの?」


 「サダチカ!あなた何でそんなことを...」


 「何で私が丸太なんか取らなきゃいけないのよ!って言うかこの辺ってもっと木が生い茂ってた筈なのに、それに何か地面が盛り上がってるような気がするんだけど...」


 「おーい!こっちこっち!何か洞窟があるよ~」


 あずきちゃんが盛り上がった地面を超えて何かを発見したようだ。


 「こんな所に洞窟なんてあったかしら?まさかサダチカあなた...」


 「そうそうウッカリこんな所に洞窟作ちゃったテヘ、って私は神か!!」


 「うふふ、ツッコミには地震の影響は無かったようね。」


 「さっきから何言ってるのよ、もういい加減にしないと怒るわよ。」


 「これは昨日の地震で出来たのかなぁ?」


 「洞窟って地震で出来るものなの?」


 「取り敢えず、入りますか。」


 「え!?入るの?結構深そうよ。」


 「そこに穴があったら入れてみたいのが人の性でしょ。」


 「卑猥よ黒川さん...」


 「芽依ちゃんエッチです~」


 「さぁつべこべ言ってないで行くわよ。サム~今行くからな~」


 訓練場にポッカリ空いた洞窟に入っていくのだが、中は思いの外深く携帯の灯りを用意していたのだが、それも要らないくらいに明るかった。

 幅は10mほど有ろうかと思われるほど広、天井も5mほど有りそうで、その先は果てしなく続いているのではと思うほど見通せなかった。


 「壁についてる苔が光っているわ」


 「何だか気味が悪いよ~」


 「これはまさか...いやあり得ないか...」


 「スダチカ、何か知ってるの?」


 「いや、よくラノベ何かで洞窟が急に出来て、それがダンジョンになっていて、中はどういう訳か明るくてモンスターが出てきてってのが定番に......って黒川さんあなたそれ何を持ってるの?」


 「いや、地面に落ちてたんだけど、何だろこれ?大きいゼリー?中に有るのはサクランボかしら?何か変な臭いがするわね。」


 「あわわ!芽依ちゃん手が溶けてるよ!煙出てるよ!」


 「うぉ!」


 慌てて手を離すも、手は少し爛れていてヒリヒリした。しかも手を離したゼリー状の物体は体全体を使って飛び付いてきて、私の胸元にに飛び込んできた。


 「わっ!何これ?生きてんの?あ!?ジャージが!私のオッパイが無い!?溶かされた!!クソっ調子に乗るな!てぃっ!!」


 急いでゼリー状の物体を胸から剥がして、そのままサッカーのGKのごとく天井に向かって蹴り上げた。ゼリー状の物体は勢いよく洞窟の天井にぶつかり落ちてきたが、微動だにしなくなった。


 「死んだのかな?」


 「私のオッパイを返せ!」


 「元からでしょ。」


 「うるさい、このオッパイお化け!」


 「なっ!なんですって!!」


 「ねぇ、そんなことよりさぁこれってスライムじゃない?」


 「スライムってクリクリした目があって、たまに仲間になりたそうに見つめてくるアレ?でもこれ全然可愛くないんだけど。」


 「リアルにするとこんな感じじゃないかな、あ!動いた!ゴラァ!」


 あずきちゃんが咄嗟に容姿に似合わぬ声をだし、そのバスケットボール大のスライムもどきに警棒を降り下ろした。何だかレゴブロックの人形が棒を振っているかのような、全く腰の入ってない降り下ろし。やばい、超可愛い。


 「あれ?少し抵抗は感じるけど、すり抜けちゃうな~」


 「あのサクランボが心臓なんじゃない?うりゃ!」


 そう言って降り下ろすも水の中に漂うサクランボは、警棒が体内に入ったことで微妙に動くので中々当たらない。剣の達人何かであれば関係なく切れるかもしれないが...


 「千佳ちゃん何してるの?」


 「いや中身が水ならこれで何とかなるんじゃないかと思って。」


 「へぇ~よくそんなん持ってきてたね。」


 「私はここに来るときは怪我することが多いから常に持ってきてるわよ。因みにあずきも持ってきてるわよ。」

 

 そう言ってスダチカが手に持ったのは応急手当用のコールドスプレー、ゴキブリなんかはそれで動きを止めたりするって聞くけど、バスケットボール並みの大きさのスライムもどきを凍らせれるのかしら。


 「スダチカ飛び掛かってくるかもしれないから気を付けてね。」


 「そっそうね。じゃあ、あずきも一緒に吹っ掛けてよ。2本の方が凍るのも速いでしょうし。」


 「了解!私2本もってるから芽依ちゃんもやる?」


 「わかったわ!」


 3人でスライムもどきを囲んでコールドスプレーを吹き掛ける。何ともシュールな絵柄。


 「何だか動きが鈍くなってきたような気がするね。」


 「何だか苛めてる気分ね、スライムが不憫に見えてきたわ。」


 「そう?私は3人でこうして囲んでると、線香花火でもしてる気分だわ。」


 「あはは、それはそうかも。うわ!もうカチンコチンだよー」


 確認のため警棒でつつくも、確かに氷をつついているようだ。試しに手で持ってみるも、先ほどの手を溶解するような感覚はない。


 「どうしよっかコレ?保健所にでも持っていった方がいいのかしら?」


 「それまでに溶けちゃうわよ、クーラボックスにでも有ればもつかもしれないけどって黒川さんまた煙出てきたわよ!」


 「のわっ!」


 手の体温で溶けてきた部分から、また手の皮膚を溶解し始めてきたので、思わずまた手を離してしまい、スライムもどきを床に落としてしまった。


 「あ!?しまっ!」


 見事に粉々になってしまった。


 『ピコーン!人類初パーティーにてモンスターの討伐を確認しました。スキル《アイテムボックスEX》を賦与しました。』


 「「「!?」」」

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