叔父の自分探しの旅が終わらない
たけのこ
第1話 第一章 そうだ自分を探しに行こう
らしいと言うのは3年前から俺の実家に住んでいるのだが、姪とは幼少の頃遊んだ記憶はあるが、それ以来会ったことがないのでたぶんそうなのだろう。
そうすると今俺は何処にいるの?という話になってくるのだが、これもまた確かなことが言えなくてというか正直に言うと只今迷子中なのだ。
ここが何処なのか誰か教えてくれ。
事の始まりは3年前になる、一回り年上の姉が関西の方の人と結婚しているのだが、その旦那がアメリカに長期に渡って転勤になり、姉も旦那に付いていくと言うのだが、姪は日本の学校に通いたいらしく、その流れで姪だけ日本に残り俺の実家に居候することになったらしいのだ。
夕食を家族で囲んで食べながら、母親がそんな事を言っていたのだがその当時の俺の耳には全くといっていいほど入ってなかっただろう。なんせその当時の俺はかなりの重度の思春期症候群だったのだ。
そんな名前の病名が在るのかは知らないが、たぶん誰もが一度は考えた時期があるであろう『なぜ自分は生まれたのか?自分が生きている意味は?』と物心ついた時期から22才になってもずっと考え続けているのだ。
小学生の低学年の時に学校のバス遠足があったのだが、その時の俺は楽しみにし過ぎての寝不足と若干の緊張からバスに酔ってしまい気分が悪くなってしまい、窓側に座っていた友人に席を代わってもらったのだ。ほどなく気分も落ち着きウトウトし始めた頃に、バスとトラックが出会い頭に衝突し、そのトラックの積み荷のコンクリート片のような物がバスのフロントガラスを突き破り、隣の友人の頭部に直撃し帰らぬ人となってしまったのだ。
運良く死なずに済んだ俺はお通夜に亡くなった友人の母親や妹からお前が席を代わらなければ死なずに済んだのにと言われたりもしたが、友人の棺にすがり付いて泣きわめく友人の母親と妹を見ながら『なぜ彼が死んで俺が生きているんだろう?彼が死んだ意味は?俺が生きた事に意味は在るのかは?』と死に強く囚われてしまったのだ。
そしてその時から時々頭にコンクリート片をめり込ました血まみれの友人の幻覚が現れては、俺の隣でその答えの出なさそうな問いを問い続けるようになった。
それを払拭しようと実家の道場の稽古や、学校の部活の空手等に明け暮れたが消えていくことは無かった。そしてその問いは大学生になっても未だに強く問い続けてしまっているである。
「生きる意味ってなんだろうな?」
「はぁ?意味?............うーん、オッパイだな。」
「.........」
一度高校生の時に友人に問いかけてみたが、何とも奥深い答えが返ってきてそこから延々と友人のオッパイ談義が始まったので、安易にこの問いは他者に問いかけてはいけないのだと悟り、大学生になってからは無難な生活を送りながら、時々友人の幻を見たりして再び自分の中で自問自答する日々が続いた。
そんな中でも陰湿な問いを常々考えてる可笑しな自分を気にかけてくれる女子がいたりして、恋愛関係に発展したりもするが、楽しく会話してたりそれこそセックスしてる最中にでも急に血まみれの友人が現れたりするもんだから、急に素に返る俺に彼女も何を考えてるのか良く解らないと段々心が離れていき、挙げ句の果てには昔熱いオッパイ談義に花を咲かせてた友人に寝取られてしまうという何とも情けない恋路もあった。
けして彼女を寝取られたからではないのだが、それ以降より一層自分の生きる意味を強く考えはじめて、ついには自分探しの旅に出るという何とも青臭い暴挙に出てしまったのだ。
両親にしばらく帰らないことを告げ、大学を休学扱いにし単身でポルトガルまで飛び、そこからヨーロッパを横断し、トルコを南下しパキスタン→インド→ネパール→ブータン→ミャンマー→中国→韓国→日本と大層な計画を建てて出発した。一年かけて徒歩やヒッチハイク等で多少のトラブルは有るものの概ね順調に進み、旅の終わりが見えかけてきた中国に入り、ヒッチハイクで東へ進んでいたのだが、そこで国民感情の悪化からなのか只単なるイタズラからなのか、とんでもない山奥まで連れていかれてそこで下ろされてしまったのだ。
まぁ殺されるよりマシかと考えて取り敢えず東へ進むことにしたのだ。虎なりパンダなり出てきそうな山を手持ちの鉈で掻き分けて進むも日も暮れだしたので、その山の中腹にぽっかり開いた洞窟を見つけ、そこで一晩過ごすことにしたのだが、眠りに入ろうとしたその時に、急に大きな地震が起こり真下に出来た地割れに飲まれて落下してしまったのだ。
「ッゴホッゴホッゴホ! ハァハァハァ...............ふぅ.........死んだかと思たけど、何とか生きてるみたいだな。......ここは一体......」
天井を見上げると遥か上に落ちてきたと思われる穴が見え、その下に大きな地底湖があり、そこに落下して何とか辛うじて岸までたどり着いたのだが...
「......この壁...明らかに人工物だな。昔の遺跡かなんかかな?光源はこの苔みたいな物か?」
辺りを見回すと体育館程の広いドーム状の空間だった。壁はゴツゴツした岩肌ではなく綺麗に加工された煉瓦のような物だった。その壁の到るところに光る苔が群生し薄暗い程度の明かりを保っていた。
「ハッ!リュックは?」
リュックはその体育館位の大きさの空間の半分程を占めている地底湖にプカプカ浮いていた。早速泳いでリュックを回収し、無駄に広い空間の壁際に陣取り、衣類や荷物を干して乾かす。
「よし、荷物の中身も濡れているけど大丈夫そうだな。携帯食料は3日分位しかないけど、それまでにここから出る方法を探さないとな。取り敢えず.........寝るか。」
限界だった。長旅の疲れもあるが、騙されて捨てられ、山の道なき道を鉈で掻き分けて進み、やっと一息つけると思ったら、大地震からの地割れに落下で死にかけたりと、肉体的にも精神的にも限界が来ていて、今後の方針やこの空間の安全性の確認等まだまだやることがあったが、寝袋の暖かさで襲ってくる眠気には勝てなかった。
「.........知らない天井.........はぁ~やっぱり夢じゃなかったのか。」
意識が覚醒し夢であれと願いながら目を開けるも、ひたすら高い天井を見つめて呟いた。自暴自棄に近いケセラセラな旅だと自覚はしていたが、この状況はどうにもなりそうになかった。
しばらく仰向けのまま思考を放棄していたが、それでもお腹は減るらしくいい加減起きようと身を起こして寝袋から出て乾いた衣類を着て改めてあたりを見回した。
「......こんな所に遺跡なんか聞いたこと無いしな~やっぱり未発見の遺跡なのかな、古代のウィルスとか蔓延してないことを祈るしかないな。...ん!?奥に出口?いや階段か。」
何か脱出する手立ては無いものかと壁づたいに歩いていたところ、地底湖と反対側の壁際に下へ続く階段があった。奥を除いても光苔の数が足りてないのか、辛うじて足元が見えるくらいの光量しかなく、先は何も見えないのだが微かに階段に吸い込まれるような風を感じることが出来た。
あの広い空間から出れなくて餓死するという最悪の可能性は少し低くなっただろうけど、先の見えない階段に背中を押すような風がどうも俺を更なる絶望に誘う手で引っ張られてるような気がしてならなかった。
「進むしか無いんだろうけど......取り敢えずメシ食って荷物まとめるか。」
地底湖の水はかなり不安だったけど、携帯バーナーで煮沸しコーヒーを入れて飲んでみる。
「...うん、未発見の遺跡で閉じ込められて飲むコーヒーは格別だな。」
一人でボケてみるも、ツッコミが返ってくるわけでもない、むしろ返ってきたら逆に怖いわと、現実逃避しながらお菓子みたいな携帯食料を食べる。
はぁこの携帯食料が尽きる前に出れるだろうか。普通に考えても大昔の遺跡っていってもそんなに大きいはずがない。最大でもピラミッドより大きいってことはないだろうし、3日も有ればどこかしらの出入口には着くだろう。完全に埋まってなきゃだけど。
しかし、何か嫌な予感と言うか不吉な感じがするんだよな~。
おっとイカンイカン、ネガティブな思考は体と頭の動きを無意識に制限させてしまう。この旅の最中でも危機的な状況は何度も会っただろう。財布やパスポートをスられたり、食中毒で死にそうになったり、騙されて臭い缶詰めを大量に買わされたり、それこそ拳銃を突きつけられたり、ギャングの紛争に巻き込まれたりもした。だが持ち前のケセラセラ精神と保護欲を掻き立てまくる愛嬌と、適度なごますりと少々の暴力で何とか切り抜けられてきたではないか。まぁ大半は暴力で解決だったかもしれないが...
今回は愛嬌や暴力で何とかなりそうにもないが...
「よし行くか!こんな冒険も旅の醍醐味だろ!もしかしたらどえらい人の墓だったら宝も有るかもしれんし、ちょっとテンション上がってきたな!」
不吉な予感を払拭するように強引にテンションを上げて薄暗い階段を下りていく。クネクネ曲がりながら100段くらい下りていくと、明かりが見えてきて奥が先ほどの部屋ほど大きさではないが、教室ほどの大きさの部屋になっているようだ。
恐る恐る部屋を覗くと犬がいた、しかも二足歩行!
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