第40話 ゴズ(竿無し)
「◎▲♯▽★#§!」
「なっ!?石?土塊しかも速い!! って外れた?のかな」
あまりの出来事に気を取られて、周囲の土が集まりソフトボール大の土塊を宙に浮かべて放ってきたのに反応するのが遅れてしまったが、幸いにも土塊は私に直撃することなく私の直ぐ隣に着弾した。
こいつ、私の気を逸らすためにわざわざクルクル回って股間をちらつかせていたのか?何という策士。
と思ったらよろめいて倒れてしまった。只回りすぎて目が回って狙いを外しただけみたいだ。
ゴブリン兄だと思ってたやつがオカマゴブリンだった。確かにかもし出す雰囲気は何処と無くオネェっぽい。それ自体は一瞬気を取られたが、まぁいいとして...腰簑を捲り上げて竿の無い股間を此方に向けて倒れるのは止めてほしい。
倒れたオカマゴブリンまで10mもない程度で、残された玉の方も粉砕したくなる衝動に駆られるも、如何せん体がとてつもなく重い。
「この体が重いのは時間が来れば解けるのかしら、それともあのオカマを倒さないととけないのかしら。まさか一生このままってことはないわよね。」
大人が二人分ぐらい肩車しているような重さで、立ってるのも辛いのはさることながら、人よりも強さを求めて生きてきた男勝りな性格とは言え、体重が100kgオーバーというのを気にするくらいは乙女ではある。
「ぐぬぬぬっ」
一歩一歩地面を踏みしめてゆっくりと、目を回して倒れている小さいオカマのゴブリンに近づく。だが怪獣が歩いているかのような不格好でもどかしいスピード。
オカマゴブリンがふらつきながらも起き上がり、鬼のような形相でドスンドスンと近付く私を見てビクつくも、直ぐ様先程のソフトボール大の土塊を放ってきた。
「ふぐっ!」
流石にこの重さでは避けることはおろか、腕も重いので手で捌くことも出来ない。できること言えば、歯をくいしばってこの重い腕を持ち上げて、ピーカブースタイルのように顔の前で壁を作ることくらいだ。
重い体重が幸いして、物凄いスピードで飛んできた土塊にぶつかっても吹き飛ばされることはない。只、至近距離で思いっきり石を投げられている様なもので、顔をガードしている腕は勿論、腹部や下半身の被弾は避けれないので物凄く痛い。
何十もの土塊が次々と襲ってくるが、それでも必死に耐えて摺り足でじわりじわりと距離を詰めていく。
「#З▽♯▲◎」
「ふぎゃ!!」
土塊による腹部へのダメージがいよいよ危なくなって息をするのが辛くなってきたため、最大限に体を丸めて摺り足で進んでいたら、上からバランスボールくらいの土塊が落ちてきた。一度倒れると起き上がれそうにない体重なので、必死の思いで耐える。
コントに使われるタライのように、繰り返し繰り返し何度も私の頭や背中に大きい土塊が落ちてくる。
コイツ絶対殺す。
意識が飛びそうになるのを、怒りで無理やり覚醒させつつ、一歩一歩距離を縮めていく。
「♯▽§$▲&£★▽*§」
「なっ!」
「♯▽§$▲&£★▽*§」
「にゃっ!?」
土塊の攻撃では歩みを止めれないと判断したのか、また更に体を重くする魔法を何回も重ね掛けしてきた。
後もう少しで手が届こうかという距離だが、先のゴブリンにかじられた傷や土塊を受けて負った傷から出血しすぎたのか、朦朧としてきて視界が歪む。
ダメだ、もう足が重すぎて一歩も進まない。オカマゴブリンまでギリギリ手が届かないくらいの距離が残っている。
ピーカブースタイルで身を丸めて動かなくなった私に、興奮しているオカマゴブリンが前のめりで、涎を撒き散らし杖を振り回しながら呪文を唱え、容赦なく土塊を何度も打ち込んでくる。
そしてオカマゴブリンが半歩前に出そうなところを視界の端に捉える。
今だ!
「調子に乗るなぁぁ!マッハパンチィィ!!」
もう腕が重すぎて前に出すことも困難な私に唯一できること、それは真下に振り下ろすしかなかったのだが、数百kgまで増えさせられた体重を乗せて真下に繰り出された全力のマッハパンチは地面に当たった瞬間に、地面を大きく陥没させて揺らした。
興奮気味に半歩移動しようとしていたオカマゴブリンは、一歩二歩とよろめいて私の胸元に飛び込んできた。
これがイケメンなら嬉しかったかもしれないがコイツは醜い竿のないゴブリン。だけど私は遠距離恋愛で久しぶりに会った恋人同士かのように、ガッチリと抱擁しニヤリと眼下のオカマゴブリンに向かって微笑んだ。
この距離では流石にパンチも打てないし、拳骨を落としてやろうかと思ったが腕もそこまで上がらない、もちろん蹴りも出せる距離ではない。残された攻撃手段と言えば...
「はぁ~しんどいわね。せいのぉー!うりゃっ!」
そのまま幼児くらいの大きさのオカマゴブリンを抱き抱えてのボディスラム、と言っても只前に倒れただけなのだが、それでも体重数百kgのボディスラムを体をガッチリと抱き抱えられているオカマゴブリンは逃れるすべもなく下敷きになる。
メキメキ...ボキボキ...グチャ...
骨折や内蔵がつぶれる生々しい音が体全体から伝わってくる。何とも言えぬ気持ち悪さが込み上げてくるが、我慢して堪える。オカマゴブリンが私の背中を引っ掻いたりタップしてくるが、やがてその力も弱々しくなっていき、遂には動かなくなった。
酷く不格好な勝ち方だ、技もへったくれもない。命が尽きる音を体で感じながらそう反省するも、改めて魔法という物の凄さを身に染みた。身体能力も体格も技量も圧倒的に劣っていただろう相手にこうも苦しめられるとは。
「あっ体が軽くなったわ、死んだのかな。現役女子高生に熱く抱かれて逝けるなんて本望でしょ、ってオカマだから関係ないのかもね」
《ピコーン!千歳ダンジョン初、ネームドモンスター『ゴズ』の討伐を確認しました。スキル『重力魔法』を賦与します。》
魔法キタァー!!
《ピコーン!レベルが上がりました。》
《ピコーン!レベルが上がりました。》
《ピコーン!レベルが上がりました。》
・
・
・
ふぅ、やっと頭の中のうるさい音が止んだわね。
頭の中の声が止んだところでオカマゴブリンの亡骸を解放して立ち上がるも、見てはダメだ見てはダメだと思いながらも、ついつい下を見てしまった。
「おえぇぇ⤵⤵⤵」
自分が殺ったとは言え余りにも惨たらしい死体。
そうか...コイツはゴズという名前なのか...魔物にも名前がある奴がいるのね。
もっと綺麗な勝ち方が有ったのではと考えるが...いや、やはりあの時の私の持ち札ではあれが最適解だろう。なりふり構ってられないほどゴズは強かったということだ。見た目はアレだけど。
「ガッギャャャァァァァァ!!」
玉を潰されて気絶していたゴブリンの意識が戻ったみたいで、ペシャンコになったゴズを見てこれでもかというほどの大きな声をあげていた。
「そう言えばまだいたわね。玉無しの方が。」
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