第7話 痛覚耐性取得
「知らない天井……」
手を上げて天井にかざしてみるも、肘か先がなかった。
そうだった俺の左手は狼マザーことラナ・ダーファングというネームドモンスターに食われたんだったな。
「腕が無いのを見て生きていることを実感できるとは、なんとも皮肉だな。」
『おはようございますご主人様。』
そう言えばこの頭の中の声も夢じゃなかったんだな。狼マザーを倒して獲得したスキルの一つでナビゲーターみたいな物だと思うがいまいちよく解らない。綺麗な女性の声で高性能なんだろうけど嫌われてるのか、俺への当たりが結構きつい。
「おはよう
『はい、ご主人様が眠られてから16時間ほど経っており、現在の時刻は午前2時でございます。』
「そんなに寝てたのか~左腕は......血は止まっているし、傷口も皮膚ができている。これもスキルの影響なのか。」
『はい、スキル《回復EX》によって常人の何倍もの速度で肉体の損傷や疲労を回復します。ですが欠損は回復しませんので、いくらご主人様が究極のマゾであって補食されたいという特殊性癖でも時と場所を選ばれることを進言いたします。』
「いや、これは好きでやったんじゃないからな!確かにやらなくても良かったかもしれないけど、でもあの犠牲がなかったら一突きで心臓を抉られてたかもしれないだろ。それに缶詰め攻撃も普通には当たらなかったと思うぞ、狼達は俺より数段速かったからな。だから咀嚼するのに気を取られてたから牙に刺せたって言うことにしといてよ。」
『畏まりましたご主人様。肉を切らせて骨を断ったと言う事にしておきましょう。それはそうとお食事にしましょう。まだまだ圧倒的に栄養が足りてません。ちょうどそこの階段を上がった所に水場があります。そこで肉の処理等を行いましょう。』
「あぁ俺が落ちてきた所だな、了解。て言ってもあの狼達ももう16時間も経ってんだろ、さすがに生レバーは恐いんだけど。」
『心配無用ですご主人様。スキル《アイテムボックスEX》は時間停止付きで容量はレベルに応じて増えていきますが、現在はこの部屋位の収納能力があります。なので収納されたファイティングウルフの肝等は生食可能です。』
「どれだけ生食を食わしたいんだよ。」
『いえ、そう言うわけではないのですが、あちらに転がっているバーナーの燃料はもう有りませんので火を起こす手段が無いのです。なので必然的に生食でしか食するものが有りません、あぁ!失礼しました。ニシンが有ります。まだ3缶ほどその衣類の焼け焦げた中で、内圧が高まって暴発まで秒読み段階ですがまだ間に合うでしょう。』
「うぇぇ!?収納!!」
危なかったぁ、あの臭いをまた嗅ぐ勇気も体力も無いぞ。もうあれは俺の手に負える物じゃないからな、アイテムボックスの中で永久死蔵してしまおう。
『ご主人様、何を生意気に選り好みしているのですか。ご主人様は今は栄養補給が第一優先です。あまり我が儘を言って困らせないでください。後、ご主人様はスキル《悪食》《回復EX》を所持しておられているので、腐った物は勿論寄生虫に寄生された物や排泄物まできちんと栄養に変えてしまう歩く残飯処理機と化しております。目につくものを何でも良いのでそれこそ排泄物でも良いので早く排泄物を探して口に投入してください。』
「何で排泄物押しなんだよ。ホントにお前俺を敬う気持ちなんか無いだろ。」
『お前ではありません、
「それそんなに拘るとこなの?」
『さぁご主人様!ニシンかウ○コかどちらを食されますか?それともウ○コの上にニシンを乗せて食されますか?』
「どっちも食わねぇよ!一応女性の声なんだからウ○コを連呼するの止めような。」
『興奮したんですか。』
「するか!」
無駄に体力を使わされてようやく俺が落下してきた地底湖のある部屋に辿り着いた。血液も栄養価が高いので血抜きはせずに、内蔵を取り出し地底湖の浅瀬に沈める。こうして冷たい水に浸して体温を下げることによって菌の繁殖を防ぐことができれば、血が残っていても臭みはある程度押さえれるのだ。
『全部私の受け売りなのに、よくそんなどや顔で語れますね。』
「だから思考を読むんじゃないよ全く。何か俺の顔への言及が多いけど、今不細工なのは鼻が折れてるせいだからな。」
『............プッ』
「え!?今笑った?笑っただろ!」
『失礼しましたご主人様。只、魚人オアンネスのような面構えのご主人様が、鼻が曲がろうが上を向こうが大差ないのに何を気にしておられるのかと思うとつい可笑しくて。』
「そのオアンネスがどんなモンスターか知らないけどひどく中傷を受けてるのは伝わってくるよ。」
『近い内に会えますよ、楽しみですね。』
「運命の人みたいに言うの止めろ。」
『それはそうと鼻骨の骨折はもう仮骨形成しているので、そのまま放置しておくと曲がったまま治癒してしまいます。まぁ先程も申し上げました通り、ご主人様の鼻がもげようが消し飛ぼうがご主人様の涌き出る魅力に何ら変わりは御座いません............ッ』
「全く褒められてる気がしないのは何でだろう。まぁいいや、また痛い思いするの嫌なんだけどな。」
実家が接骨院だったので、毎日骨や筋肉や関節の模型や医学書に囲まれてきたので自分の鼻が今どのようになっていて、放置するとどういう後遺症が出てくるかは何となく想像できた、そしてその治療法も。だからこそ気が進まない。
《回復EX》のおかげで仮骨形成までは通常2週間程度掛かるのが1日足らずで、ここまで治ってきているのだ。たぶん明日には完全に曲がった状態で治癒してるだろう。幸い肋骨の方は可笑しな転位は無さそうだったのでこれは放置で良いだろう。ここは覚悟を決めるか。
「よしやるか!」
『やりましょう!!』
何か嬉しそうだなコイツ。
方法は至ってシンプル、骨を掴んで再び骨折させて元の位置に戻すだけ。
「ふぅ............」
『ワクワク......』
「.........」
『ドキドキ......』
「.........」
『まだかなまだかな...』
「うるさいわ!!何で待ち遠しくしてるのが声に出てるんだよ!」
『はっすいませんご主人様。ご主人様の痛みを想像するあまり、つい...』
何で俺の痛みを想像してワクワクドキドキするんだよ、このドS娘が。
「ふぅ.........ふんっ!!グァッ!!!!」
痛ぇぇぇ!腕を食いちぎられた時はアドレナリンがドバドバ出ててそこまで痛み感じなかったけど、今回は超痛い。気が遠くなりそう。
《ピコーン!一定期間内に規定閾値を超える痛みを規定回数受けて生存を確認しました。スキル『痛覚耐性Lv1』が賦与されました。》
『やりましたねご主人様。』
......ほんと頭の中で嬉しそうな声を発しているコイツをどうにかしてぶん殴る方法は無いだろうか?
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