第5話 ラナ・ダーファング

 俺の頭を鷲掴みにして軽々しく持ち上げる狼マザー。流石に歴戦の勇者なのだろうか、その迫力と殺気は半端ない。蛇に睨まれたカエルや狼に食べられる赤ずきんちゃんの心境だよ。


 「うぐっ......や、やぁ狼マザー、やっとお前の足下までこれたよ。後ろで高見の見物なんぞいい気なもんだな、俺なんか食っても美味くねぇぞこのファッキングクソ狼。」


 押し潰されそうな殺気に対抗するための小さな虚栄心からか、これまでの理不尽な暴力への苛立ちからか、中指を突き立てて挑発した。


 「ガプッ!」


 ボキッムシャムシャムシャ


 「え?............あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!痛ってぇぇぇぇ!!!!腕がぁぁぁぁぁ!!このヤロウ俺の腕を食いやがったぁぁぁ!!!!」


 ファックなんてやったこともない事するんじゃなかった。痛みと出血で意識が朦朧としてきた。クソ!不味そうに咀嚼してやがる。


 「うぐっはぁはぁ......俺を食うのは...あまりお薦めしないと言ってる...だろうに...はぁはぁ......なんせ3日ほど...便秘だからな......あまり......美味しくないと思うぞ.........代わりといちゃ何だが......これをやるよ。」


 「ムシャ!?」


 ポケットからシュールストレミング缶を出すも吹き飛ばされた時にナイフを手放してしまい缶が開けれない。そもそも今となってはナイフ持つ左手すら無いのだが。


 「しまったな......缶が開けれないや............あぁここに......鋭利な物があるじゃないか。」


  今まさに俺の左前腕をムシャムシャと咀嚼している狼マザーの上顎から伸びた口に収まりきらないほどの鋭い牙、そこにシュールストレミング缶を下からブスッと刺した。缶詰の中で長年発酵を続けてきたシュールストレミング缶にはガスが溜まりそれが抜けると同時に中の液体も勢いよく飛び出し、狼マザーと俺の顔面や周りに集まっていた狼男にも降りかかった。


 「ワフ?   ............ガガガガガガガガガァァァァァァァァァ!!!!」


 「オエェェ!!くっさ~!!オエェェ!!」


 「グガガガ!!!!」


 「アガガガ!!!!」


 俺の頭を掴んでいた手は解かれて、ボトっと落とされるも着地の姿勢を取る力もなく地面に叩きつけられる。余りの臭さと腕が食いちぎられた痛みと出血で意識が飛びそうになる。


 歯を食いしばり力を入れて身を起こすと、狼男達は皆泡を吹いて倒れている。だが、狼マザーは倒れることなくそこに立っていた。


 「あれを間近で浴びたのに...立ってられるのか......俺の負けだよ、一思いにやってくれ.....................ん?」


 何時までも微動だにしない狼マザーを変に思い見上げると、狼マザーは牙に缶詰を刺したまま仁王立ちの姿勢で気を失っていた。そのまま少し押してやるとドスーンと倒れるも意識が戻ることはなかった。


 「まさか立ったまま気絶するとは、敵ながら天晴れな奴だな。でもこれも殺るか殺られるかだ、悪く思うなよ。しかし一つでこれだけの威力とは、シュールストレミングボムは失敗して良かったのかもな。」


 ズボンのベルトを外しそのベルトで左上腕にきつく縛り止血を試みるも、中々血は止まらないず、気が遠くなってきたがここで気を失ってはダメだと、残り僅かな力を振り絞り落ちていたナイフを拾う。気絶している狼マザーの胸の上に跨がり、勢いよくナイフを降り下ろすも硬い毛と硬い皮膚と大きなおっぱいが邪魔で中々奥まで刺さらない。


 「どれだけ硬いんだよ、ナイフの方がボロボロだな。何か良いのは......あれは使えるかな?」


 仲間に食べられて無惨な死を遂げた狼男の骨に目をやり、そこに残ってる牙や爪なら刺さるんじゃないかと考えて取りに行こうと立ち上がろうとしたときに狼マザーが目を覚ました。

 胸をナイフでチクチク刺してたのが良くなかったのだろか、しかしまだ強烈な臭いのダメージは残っているようで目が虚ろだった。


 「うおっ!もう目覚めやがったのか、もう少し寝とけ...」


 そう言い放ち、牙に刺さってた缶詰を狼マザーの鼻の上に載せて意識を刈り取る。


 「ふぅ危なかった~他の狼男達も...起きられると面倒だし...あまり悠長にしてられないな。」


 狼マザーによって空けられたシュールストレミング缶の中身であるニシンの身を狼男達の各々に鼻の上に載せていく。6匹の巨大な狼男達が仰向けに倒れてる鼻の上にニシンが載ると言う不思議な光景を見ながら作業を進める。


 「これで起きてもまた気絶するだろう。.........オエェェ!!臭っ臭っ!.........腕が痛ぇよ畜生」


 再び狼マザーの上に跨がり、拾った狼男の20cmほどの牙を狼マザーの胸に力一杯突き刺す。ナイフよりかはスムーズに刺さり、そこからナイフで傷口を広げて手を突っ込んで、先程狼マザーが食べていたような石を取り出す。食べられた狼男の石は野球ボールくらいだったが、狼マザーのはソフトボールくらいあり、色もより深みのある黒である。その石を取り出した瞬間に胸が上下するが止まるのを俺のお尻に感じることができた。


 「死んだか...」


 《ピコーン!人類初モンスターの討伐を確認しました。スキル『狼娘娘ロウニャンニャン』が賦与されます。》

 《ピコーン!初討伐がネームドモンスター『ラナ・ダーファング』という偉業を確認しました。スキル『アイテムボックスEX』が賦与されます。》


 「は?」

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