第二十四話『新キャラに必要な三つのこと』

 太陽は沈み、夕方を告げるチャイムが鳴ったのを合図に三人は帰った。だけど家主であるわたしたちは、その後も勉強を続けた。

 カリカリ

 カリカリカリ

「あ、消しゴムある?」

「ああ。はい」

「ありがと」

 カリカリ

 ゴシゴシ

 カリカリカリ

 ………

「蒼空。ここなんだけど…」

「ああ、ここは…」

 アルカリカリカリ

「ああ、ありがと」

 ガチャ

 カリカリ

 カリカリ

 どうしよう。何か起きないとこのままペンの音だけで一話が終わるよ…

 カリカリ

 ダッダッダッ

 カリカリ

 カリカリカリ

 ボキッ

 バン

 静かな部屋に扉を開く騒音が響いた。

「おにぃは女の子と夜のお勉強会二回戦なの?」

 びっくりして顔を上げたら、そこには、小学生くらいの女の子がいた。

「元気あるね。今日の晩ごはんはなんだったの? うなぎ?」

 ふと蒼空を見たら、なんか不思議な顔をしてた。まるで、幽霊でも見てるみたいな。

 大丈夫。たとえ今が夜でも、この女の子にホラー属性はないはず。きっと話のジャンルが変わるなら、蒼桜ちゃんが教えてくれるだろうし、もし変わっても一話限りのはずだよ。寝て起きたらラブコメだよ!

「女の子は何考えてるの? 下着の色迷ってるの?」

「え?」

 この子は一体何を言ってるんだろう。ホラーじゃないけど、ジャンルの切り替えレバーが動いた音がした。具体的には、ラブコメの先。

「それにしても、あのおにぃが女の子と同じ部屋で二人っきりだったからびっくりした! 草食だと思ってたのに、やっぱりおかうさんの言ってた『男はけだもの』は正解だったんだね。明日の朝ごはんは赤いご飯でいい? あたしもこの前、四人目と五人目の妹が生まれた時に食べたの!」

 なんか、だんだん分かってきた。

「ちょっと待とうか。円花まどかちゃん」

「おにぃ、あたしのことは気にしないで続けて」

「気にするだろ。すみれ、この子は十文字じゅうもんじ円花ちゃん。僕の従兄妹だよ。十文字家の長女なんだけど、今妹が四人、弟が二人いて、父親は仕事母親は育児で忙しいからたまに市東家うちで面倒見てたんだ。でも、こっち来るのは初めてだよね? どうやってきたの?」

「おとおさんが、生で見てこいって言って連れてきてくれた」

「何を?」

 興味本位で訊いた。

○○○○○○○ピーーーーーー

「え?」

「だーかーら! ○○○○○○○ピーーーーーーだってば!」

 それが間違いだった。

「そんなの、や、やらないからね⁉︎」

「でもおとおさんは、若い男女が二人きり、ピッらねぇわけねぇだろって言ってたよ」

「菫、分かった? これが十文字家の教育方針だよ」

「…蒼空。分かったけど、何がしたいのか分からない」

「僕もだよ。ただ、僕だったら家出してた」

 たしかに、そうなってたかもしれない。


「それでこっちは、『女の子』じゃなくて恵良えら菫さん」

「女の子じゃない…男の娘⁉︎ え! 男の娘のエロお姉ちゃん!」

「円花ちゃん…」

 蒼空が呆れた声を出す。いや、まあ。うん、そのはい。…大丈夫です、ヨ。

「大丈夫? エロいお姉ちゃん。元気出して! 眠い時は、○○ピーのことを考えるといいんだよ!」

 エロいお姉ちゃん(嘲笑)が落ち込んでると、円花ちゃんがそう励まして(?)くれた。それに対してエロいお姉ちゃん(棒読み)はただ愛想笑いを浮かべることしかできなかった。そもそも、エロいお姉ちゃん(涙目)には彼女の話を聞く元気も残っていなかった。

「す、菫? 蒼桜が言ってたよ。自分の命とキャラは自分で守れって。おーい」

「いいんだよ。こういう前後とのつながりが少ない一話完結の話って、いくら暴れても後遺症残らないから。寝て覚めたら元通りだよ」

「菫、そんな考えじゃだめだ。円花ちゃんの話はあと二話続くぞ」

 わたしは絶望した。

「だめだよおにぃ。女の子を○○○ピーにするときはもっと強引にいかないと」

「君ちょっと静かにしてて!」


 新キャラに必要な三つの事。

 それはきっと、インパクトと可愛さと、下ネタなのかもしれない。

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