第6話『恋愛は避ける物か追う物か』
「ふぁぁあ。おはよう、
「ああ、おおそう」
「なに『おおそう』って」
「造語。お早うの反対語」
漢字で書くとお遅うだ。決して多そうではない。
「え? なんでわざわざそんな事言うの? おはようでいいじゃん。習ったでしょ? Doで聞かれたらDoで答えるって」
え? こいつ何? 朝の挨拶を英語の疑問文と同列視してるの? この前誰にも負けたくないって言ってたけど、君常識で世界中のみんなに負けてるぞ。
まあいい。今はこの女に真実を突きつけてやろう。
「おい、時計見ろよ」
彼女は掛け時計(恵良家物置出身)を見て言った。
「After noon⁉︎」
こいつ英語好きなの? 英語圏行けよ。てか無駄に発音いいな。あぁ、これも努力の賜物か。
「イェス」
「あ、無理に発音しなくていいよ。てか、英語下手すぎでしょ」
しばこうかなこいつ。
「で? 起こした方がよかったか? モーニングコールぐらいならしてあげられるぞ。でも毎日は無理だ。なんとかしてくれ」
「あー、うん。ごめんね。大事な予定がある時だけ頼むよ」
「そうか。それで、今日は何か予定あるのか?」
「今日は買い物に行こうと思ってたの」
「ラン…ジェ…ショップ⁉︎」
僕が恐れおののいていると、彼女は笑って首を横に振る。
「違う違う。しばらくは良っかな。あん時買ったのもまだ使ってないし」
「使ってないのか。勿体ない」
下着は意外と高いと聞いたことがあるが、そんな贅沢な使い方して良いのだろうか。
「それはほら、蒼空があんなの選んじゃったから、勝負する時にしか着れないよ」
僕は一体何を選んだんだ⁉︎
恐れおののいた。
「あー、下着の話はやめよう。そうだ、着替えてきたらどうだ? いつまでもパジャマなのは良くないだろ。てか、男子がいるんだぞ? 着替えて降りてくればよかったじゃないか」
「ああ、これ? だって蒼空、薄着でも欲情しないじゃん?」
おお、分かってるな。僕は女子がどんな格好をしていてもただ少し卑猥だと思うだけで全然気にも留めない。
「今日は家具とか家電を見に行こうと思って。ほら、大事な家電とかは前に揃えたけど、緊急性のないのはゆっくりで良いって話したじゃん? だから、そうゆうのも買っちゃいたいの。
「分かったよ」
僕が一回ご飯を作ったら、[美味しいから料理当番やって]と頼まれてしまった。その後の交渉で何とか交代制にしたのだが、一週間の内、月・水・金・日が僕の当番になった。週四だ。一日おき交代をずっと続ければいいと言ったのだが、[えー。何曜日か決めておいた方が覚えやすいじゃん]と言いくるめられてしまった。[なら君が週四でやれよ]とも言ったのだが、逃げられてしまった。あの女、最初からこれが狙いだったらしい。菫さん、マジ策士。
「君負けず嫌いだったよな? プライドはいいのかよ。今のところ英語の発音くらいしか僕に勝ててないぞ」
「いいんだよ。あなたはわたしの信念を知ってるでしょ? あなたに意地を張るのはもういいかなーって思ったの。それで、できた?」
「ああ。はい、野菜パスタ。時間がないからあまり豪華なものは入っていないけど」
「蒼空が作ると何でも美味しいからOKです!」
「そですか」
褒められ慣れてないからつい素っ気なくしてしまってけど、めっちゃ照れる。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
目指すのは市内のショッピングモール。市内といってもそれなりに遠いので、バスを使いたいのだが、
「歩くの気持ちいね!」
「そうだね」
この女が、この女が歩きたいとか言い出したから。
「ほんと美意識高いよな。休日もウォーキングとか。ただでさえ出るの遅かったのに」
「いや、それはごめんて。でも違うの。これは美意識とかじゃなくて、ただ蒼空とゆっくり話したかっただけんだ」
「僕と? 何で」
「知ってる? わたしたちの同棲の話って、春休みにあがったんだよ?」
「そうなのか」
「でも、それなりに上手くいってる」
「うん」
言い出したのは蒼桜なのにな。まぁ、お互いの性格がうまく噛み合ったんだろう。
「で、実は同棲するか最後まで悩んだ」
「そうか」
だろうな。僕もだ。僕が卑猥なことを克服するためだとしても、他人を巻き込むのには躊躇いがあった。
「蒼空は、後悔してる?」
ああ、本題はそれか。後悔? そんなの決まってるだろ。
「してないよ。寧ろ『同棲もの』の小説みたいで楽しいよ。昔読んだことがあったけど、こうなるまでは結構好きなジャンルだった」
「あ、それわたしも思った!」
我ながら、まるでライトノベルの主人公のような生活。でも同棲ものとは違う。
同棲するキャラクター達には愛がある。好きという気持ちを持って、生活している。
一方僕達には言葉には表せない信頼と理解がある。
似たようなシュチュエーションでも気持ちが違う。
彼女の好みは僕ではないし、僕は好意に応えられない。それでいい。それがいい。
僕達はずっと、こうあるべきだ。
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