第七話『注意事項をよく読んで、正しく使いましょう』
彼女が家に来るのは、わたしたちがこの家に住んでからは初めてのこと。
その襲来は突然だった。蒼空のバイトのシフトを前もって調べて、彼のいない時を狙ってわたしに会いにきた。
「
「あ、いえお構いなく。ちょっと菫さんと話がしたいだけなので」
彼女の名前は
「でも、お客さんに何も出さないってのも気が引けるんだよ」
「そうですか。菫さんはとっても素敵な考えをお持ちなんですね。でしたら、コップ一杯のお水をください」
それでいいのかと思ったけど、言われたとおり水を渡す。
わたしたちはリビングテーブルに向かい合って座る。彼女はお水を少し飲むと、話を切り出した。
「それでは今日来た理由をお話ししますね」
なんだろう。同棲はやっぱり取りやめとか?
「
「な、何⁉︎ 突然何⁉︎」
「何って、プロフィールですけど」
「恋愛小説の題名詐欺が悲しかったことは誰にも言ってないのに…」
蒼桜ちゃん…もしかしてストーカーなの?
「これが今日菫さんに伝えたかったこと。『作者権限』です」
「……………」
えーっと、耳がおかしくなっちゃったのかな? 『作者』って聞こえたけど…聞き間違いだよね。『
「『作者権限』というのは、作者さんが私に与えた権限です」
「そもそも作者さんって?」
「それは、禁則事項です」
禁則事項って…まぁ分かるけどさ。
「そもそも、そこ触れなきゃ説明できなくない?」
「冗談です。作者さんはこの世界を創造した人です。その存在を知っているのはここじゃ私と
「待って、メタ発言やめて。柳瀬さんって誰? わたしの知らない人出さないで!」
軽くパニックだ。情報量が多すぎる。もう一回最初から聞き直したいし、それができるならそうすべきだと思う。
「私がメタ発言できるのも、パロ発言できるのも、全部『作者権限』のおかげなんですよ? 作者さんに私達の生い立ちを教えてもらえるからメタれますし、作者さんが読んでる物語を教えてくれるからパロれるんです」
私普段本読みませんから、と蒼桜ちゃん。
「先ほどの菫さんのプロフィールは作者さんから教えてもらいました。あ、大事な情報を言い忘れてました。
「蒼桜ちゃーん? 言って良いことと言っちゃダメなことがあるんだよ?」
「良いじゃないですか。他に誰か聞いてるわけでもないんですから」
ダウト♪
「ねぇ蒼桜ちゃん。今言ってたよね? 作者さんがいるって、じゃあいないの? 読者さん」
「さ、流石菫さん。飲み込みが早いです」
「で、いるの?」
圧をかける。
「は、はい。います」
「聞かれたの?」
「おそらく」
「どう責任取るつもりかな?」
「い、良いじゃないですか。恥ずかしがるような小ささじゃないです。私なんてBですよ⁉︎
開き直ったこの子。
別に小さくて悩んでるとかじゃないんだけど、ほら、恥ずかしいじゃん。好きな人以外に知られるのって。
「好きな人なら良いんですね? 分かりました。でしたら蒼空兄に…」
「やめて⁉︎ …って、心読んだ⁉︎」
「『作者権限』です」
もうこうなるとただの便利能力に見えてくる。使い方が悪いけど。
「ねぇ蒼桜ちゃん。なんで蒼桜ちゃんにその権限があるの? わたしには使えないの?」
「何か知りたいことがあるんですか? なんでも訊きますよ。蒼空兄がお風呂でどこから洗うかですか? それとも好きなおかずですか?」
「蒼桜ちゃんがほんとにBカップなのか」
「………………」
「どした?」
「…………………………むり、です」
「なんで? てういか、訊くまでもないよね。把握してるでしょ?」
「…………B…寄りのA……で、す」
ねぇ、カメラどこ? こっち? おーい。読者さん見てるー? 蒼桜ちゃんは、実は〜Aなんだってー!
「スリーサイズバラされたせいでテンションがおかしくなってますよ。謝りますからもうやめましょう。これ以上はお互いに傷つくだけです!」
「う、うん。そうだね!」
蒼空が帰ってきたらリビングに死体が二つ…事件以外の何でもない。
「それでは、今日は菫さんに作者権限の説明をしたかっただけなのでもう帰りますね。では菫さん。あなたの武功を期待してます。私と違って大きなものをお持ちなんですから。手っ取り早く誘惑しちゃってくださいよ。夜○いしかけて、その武器であーこーしてあげれば陥落ですよ。応援してます」
って言い残して蒼桜ちゃんは帰った。
なにも、強調しなくてもいいじゃん。
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