第九話『彼女にとっては他の何よりも重い罰』
彼女はリビングでテレビを見ていた。わたしたちが部屋に入ると、彼女は嬉しそうに笑い、言った。
「あ、
「ちっとも良くない!」
「少しも良くないよ!」
「…ぇ?」
二人に同時に責められて、困惑する
わたしの気持ち、ちゃんと教えたのに、踏み躙って……蒼空に嫌われるところだった!
蒼空の、アレを、見れたことがプラスでも合計するとマイナスだよ!
「僕の下着を菫の部屋のベッドに置いたのはお前で間違いないか?」
「……その、えっと…」
蒼桜ちゃんは必死に言い訳を考えて、目を泳がせている。
「はっきり答えろ」
「……はい、私がやりました」
「なんでこんなことをした?」
蒼桜ちゃんは言わなきゃダメ? って顔で問うてくるけど、蒼空の圧に負けて渋々口を開いた。
「……私の、ため。です」
「僕のためじゃなくてか?」
そもそもこの同棲は蒼空がエッチなことを克服するために行っている。だから自分のためにやったのだと思ったのだろう。
わたしだってそうだ。『蒼空兄のためにやってあげたんだから、大目に見て』って言うんだと思ってた。
でも蒼桜ちゃんはそれを否定した。そして、ゆっくりと自分の胸の内を語り出した。
「蒼空兄がアセクシャルになってから、私はずっと不安だった。私が憧れてた『お義姉ちゃん』は、空想上の人物なんじゃないかって」
感動的なシーンになるって勝手に思ってたけど、不純な動機だった。
「そんな時に、菫さんに会ったの。蒼空兄にエッチなことを克服させられるかもしれない人に」
ここで物語が繋がるのか。
「初めて菫さんを見た時、綺麗な人だな、こんなふうになりたいなって。恋とかそういうんじゃなくて、ただ親愛っていうか、敬愛っていうか、そういう方向で菫さんのこと、好きになっちゃって」
ここにきて衝撃の事実。それっぽい予兆はあったけど、言葉にされると重みが違う。押し潰されそう。あと、ちょっと恥ずかしい。
「私の憧れてた『お義姉ちゃん』にぴったりで、蒼空兄と菫さんを付き合わせよう、結婚させよう、って一人で勝手に決めて、実行した。そのためには、蒼空兄に女性慣れしてもらいたかったから、見たり見せたりしてほしかった。だから下着選ばせたし、脱衣所で鉢合わせさせたし、下の名前で呼ばせたのもその一環」
同棲させたのも全部、と蒼桜ちゃんはため息混じりに笑った。まるで自分の行為を嘲るような笑みだった。
「焦って頑張った結果が空回り。結果蒼空兄の意志にも菫さんの意志にも反しちゃった。どうする? 今回の件でやりすぎはダメだって学んだ。反省したよ。本当にやられたら困るけど、煮るなり焼くなり好きにしていいよ。それなりの罰は受けるつもり」
蒼桜ちゃんは両手を上げて降参の意を示した。そして蒼空が罰を決めるのを静かに待った。
「…なら、しばらくここに来るな。家で遊んでろ」
「え? それをされると私の出番が! 私の役割が!」
さっきまでかっこよかったのに。覚悟を決めた顔してたのに。往生際が悪いなぁ。
「諦めろ。そうだな…1-2が終わるまでうちの敷居は跨げないと思え。あ、でも出演するのは自由だぞ」
そんなぁ、と崩れ落ちる蒼桜ちゃん。
しかし目はまだ諦めてない。じっとわたしを見つめる。きっと、助けてください。庇ってください。って言ってるんだろう。でもね
「わたしも怒ってるんだよ?」
「はぃ…」
「でも、電話くらいはしてあげる」
それを聞いてばっ、と顔を上げる蒼桜ちゃん。ふふっ、可愛い。
「とりあえず今日は雨だから菫の部屋に泊まってけ。朝起て、朝食食べて歯磨いて身支度を整えたら出てけ」
蒼空ったら、ほんと優しいんだから。
翌朝
「お邪魔しました」
「また来てね」
「謹慎明けたらな」
そうして蒼桜ちゃんを見送って、また二人だけの生活が戻ってきた。
「そうだ蒼空」
「なに?」
「昨日はわたしが見ちゃったんだし、お詫びと言ってはなんだけど、わたしのも見る?」
「見ない」
即答されると悲しいんだよ?
「多分耐えられない」
え、それって…
「嘔吐か、良くて鼻血が出る。耐えられる気がしない。てか、もしかして蒼桜の差し金か?」
なんだ、そういう意味か。
「違うよ。わたしの意思。わたしだって、蒼桜ちゃんと同じだもん」
「なんだ? お義姉ちゃんが欲しかったのか? ならなんで僕にする? 姉がいる男子なんて結構いるだろ」
鈍感系主人公ってヒロイン的には困るなぁ。同じなのは
でもまぁいい。覚悟してなさい。わたしがいつかわたしだけの力で、あなたをオトしてみせるんだから。
1-1END
【次章予告!】
市東蒼桜です。
二人の家に菫さんの親友の
桃葉さんは蒼空兄と菫さんの関係を快く思っていない様子。
一方で私に協力するのはもう一人の『作者権限』所持者。
付き合いたい菫さんとそれを阻止したい桃葉さん。そして自分を巡ってそんな争いが起こっていると知らない蒼空兄。三者の思惑が混ざり合う、次章1-2『
この未来は、既成事実です!
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