第40話『オタクのおうちデートの典型(偏見)』
チャイムが鳴ったのでインターホンを覗く。画面に映る金髪を見て面倒なのが来たと思ってしまった。まぁどうせ相手するのは菫だ。二階の彼女は気づいていないようなので、出迎えまでは僕がやるか。
「はい」
『あ、ソラ?』
「うん。今日は菫に用? 遊ぶって話は聞いてなかったけど」
『あー、違うの。今日はソラに用があってさ』
あの菫LOVEガールが僕のためにこの家を訪問? 帰りはタクシーでも呼んだほうがいいだろうか。
「…わかった。とりあえず上がって。今鍵開ける」
『はーい』
ガチャ
「お邪魔しまーす」
鍵を開けると同時に扉を開けられた。壊れるからやめろと言う前に手も洗わずに階段を登る。
僕に用があると言うからリビングで対応しようとしていたのに。やはり菫の部屋か?
「でもそんなのどうでもいい。とりあえず手洗え! コンプラ的に良くないんだよ」
渋々手を洗った桃葉をリビングチェアに座らせる。
「ソラの部屋がいい」
「なんで?」
「そー言われるってわかってたから強行突破したんじゃん。手洗ったんだからソラの部屋でもてなして」
幼児退行した桃葉のトリセツを持っていない僕は、渋々桃葉を部屋に入れた。
密室、だな。
「いいのか? 出入り口は一つだけ。今僕が君を襲ったら逃げられないぞ?」
「へーきへーき。どうせ襲わないんでしょ? むしろソラが気をつけるべきかも。襲っちゃうぞ?」
桃葉はベッドに座ると、狼のように指を曲げる。
「はぁ、それで? 何の用できたの?」
「あ、忘れてた。これ届けに来たの」
彼女はカバンから封筒を取り出すと僕に渡した。
中身は、水族館のペアチケットだった。
「たまたま福引きで当たってさ。スミレはウチじゃなくてソラが好きって話したじゃん? ほんとはウチがスミレと行きたかったんだけど、スミレのために、ソラに譲るよ」
「本当にいいの?」
「いいって言ってんじゃん。あ、もし恩返しがしたいんだったら、一個お願いがあるんだけど」
ここからが本題か。いいだろう。それ相応の礼はするつもりだが。
「本貸して?」
…本?
「何するつもり? 本でピラミッドを作るなら絶対に貸さないけど。それともドミノ?」
「ウチを何だと思ってんの? そんなんじゃないよ。ウチはただ
「又貸しあんまりしたくないんだけど。あとそれなら菫本人に言えよ。多分貸してくれるぞ」
「そーなんだけど、好きな人と好きな物を共有したいって、本人に言えないじゃん」
何でもいいから適当な理由をつければいいだろ。
「ウチバカだからそんなの考えられないし。正直に生きたいんだよ」
そこまで言われたら、チケットの件もあるし断りずらい。
「ここのは読み終わって今日か明日あたりに返そうと思ってたやつ。好きなの読んでいいよ。ただ、大切にね」
もしもの時は、好きな人の件は抜いて僕から菫に説明しよう。
「はーい!」
そう言って桃葉はしばらく悩んだのち、とある漫画を取った。ガッチガチのTLだ。
それを見届けた僕は、黙って読んでいた少女漫画に目を下ろした。
数分経ってわかったことがある。同じ部屋で女子がTLを読んでいると、読書に集中できない。
密室、二人きり、TL読書。
何個か前に読んだやつにそんなシーンがあったな。その後は…ご想像通りの展開だったけれど。
生憎僕はそんなやつじゃない。予想外の展開に持っていきたいのだが、どうすればいい?
「ソラ」
「何? もう帰る?」
「帰んないよ。ここ、よくわかんないんだけど…」
「どこ?」
そう返すと、桃葉は突然立ち上がり、椅子に座る僕の背中に乗ってきた。
僕の顔を桃葉の腕で挟み、本が視界に入る。
背中に柔らかいものが当たって、形が歪んだ。
その上、本の内容が、詳しい描写は控えるが、メインシーンだった。
「ここ、ヤバくない?」
「うん、ヤバイのは伝わったから座れ」
「えー、いいじゃん」
「誘ってるようにしか見えないんだけど」
「…え、マジ? これダメ? そう見えるんだ。平気だと思ってた。ソラが耐性ないだけじゃないの?」
「その発言痴女疑われるからやめとけ」
悪いが耐性はある。僕の背中はもっと大きなものを長時間のせたことがあるからな。まぁ、大きさが全てではないけれど。
いわゆる作品の濡れ場についてもある程度の耐性がついてきた頃だ。
「じゃあもうちょっとしたら帰る。ここで電話していい?」
九月はまだ暑い。エアコンの効いている部屋から追い出すのも酷だろう。
「いいよ」
桃葉は喜んで誰かに電話をかける。その声が少しだけ聞こえた。
「フェーズ2完了。……と計画についても、問題なく。あとは当日だね」
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