1-4『恵良菫』
第三十九話『演劇版ツンデレラ〜魔女の魔法とツンデレの呪い〜』
彼は突然やってきた。
「邪魔するぞ」
入室するとすぐにリビングの椅子に腰掛けた彼、
「お前ら、お遊戯会に出てくれねぇか?」
「お遊戯会?」
「ああ、うちの娘たちが通ってる幼稚園でお遊戯会があるんだが、せっかくだからと文化祭の有志バンド的に有志演劇をすることになってな」
有志演劇…⁉︎
「だから頼めねぇか? 俺、園長に借りがあって断りずれぇんだわ」
「ということで、みんなで演技の練習をしよう!」
蒼空と蒼桜ちゃんを家に呼んで、誠司さんとの会話をざっと話す。
「それ、誠司さんの問題だろ! なぜ僕らに押し付けられてるんだ?」
蒼空が文句を言う。
「誠司さん、去年やって子供たちを泣かせたんだって。演目は『ナンパ男と上京少女』」
「その演目で何故園側が許可した⁉︎」
てかオリジナルでやったのかよ。
「ううん。元ネタあるよ。『ロミオとジュリエット』」
「なんか面影あるか⁉︎ で、なんで子供たち泣いたの?」
「ナンパの演技でぐいぐい攻めてくる誠司さんの圧で
「円花ちゃんじゃなくて
蘭さんには二人の交際に反対する、上京少女母の役があったからだとか。
「なら、楽しい演目を考えないとですね」
「あ、演目なら誠司さんがもう決めてるんだって」
「「は?」」
「まだ題名しか聞いてないんだけど『ツンデレラ』ってのをやるんだって」
「ねぇ蒼桜」
「うん、不安しかないね」
二人の会話に、わたしはただただ苦笑い。
「あ、それと役が多いから、友達たくさん誘ってくれ。多いに越したことはねえから。だってさ」
二人の目が
数日後、モモと
「みんな、ちゃんと台本読み込んできた?」
ツンデレラ役:
「まぁ、なんとか自分のセリフくらいは覚えたけど」
王子様役:
「なんで私がこんな役を…でも、菫さんがやるくらいならやりますよ…」
継母役:市東蒼桜
「ウチセリフ少ないから全然辛くなかったよ。アオもでしょ? 楽ならいいじゃん」
魔女役:
「まぁ、身の丈に合ってるってことだろ」
ナレーション:
そして、わたしたちは辛い練習を重ねた。
「モモ、シ○テムコールでカボチャは馬車にならない!」
「痛い痛い痛い痛い痛いっ!」
「誰だよこんな小せえマジモンのガラスの靴用意したの」
「二人はダンスしました。ってナレーションが言うんだから、わざわざ本当にダンスしなくてよくない?」
そして、本番の日。
『次は、有志団体「
「みんな、準備はいい?」
「うん」
「はい」
「もちろん」
「おう」
「みんな、楽しもう! ウィーアーHIYRI!」
「「「「ウィーアーHIYRI!」」」」
さぁ、始まりだ!
『昔々あるところに、ツンデレラという娘が住んでいました。彼女は継母たちから嫌われていて、召使いのような生活を送っていました』
「ツンデレラ! あんたまた掃除サボったね? 何回言ったらわかるんだい!」
(ごめんなさいごめんなさい。こんなこと本当は言いたくないんです。本心じゃないんです)
「ご、ごめんなさい。別にあなたのためじゃないですけど、すぐにやり直します」
「そうかい。それが終わったらこの服とこの服とこの服、仕立て直しといておくれ。お城の舞踏会に着ていきたいんだ」
(ごめんなさいごめんなさい。私より菫さんの方が舞踏会に行くに相応しいってわかってます。でも、台本に書いてあったから…)
「でもお継母様、それならば一着でよろしいのでは?」
「五月蝿いね。あんたは言うことを聞いてればいいんだよ。何着も仕立てるのはどれが一番似合うかわからないからだよ。当日やっぱりこっちが良いと思っても、仕立ててなきゃ着れないだろ?」
(ごめんなさいごめ…以下略)
「そうですね…わかりました」
『数日後、遂に舞踏会の日がやってきました。継母たちは朝早くからお城へ向かい、ツンデレラは一人留守番をすることになりました』
「嗚呼、皆舞踏会へ行ってしまった。別に行きたかった訳じゃないけど、なんで連れて行ってくれなかったの? わたしがお継母様の本当の子供じゃなかったからなの? わたしが醜いからなの?」
「ツンデレラよ、諦めていいのですか?」
「誰?」
『現れたのは魔女でした。金髪をたなびかせながら、呪文を唱えます』
「エクスプ○ーーージョンっ!!!」
(それも違うっ!)
『すると、みるみるうちにツンデレラのボロボロの服が美しいドレスになり、庭に植えてあったカボチャは大きな馬車になりました』
「これで舞踏会に間に合います。さぁ行きなさいツンデレラ。王子様との出会いが待っています」
「ふん、別に行きたくて行くんじゃないんだからね。魔女さんに命令されたから仕方なーーく行くんです」
「それとツンデレラ。その魔法は、12時の鐘が鳴り終わると解けてしまいます。そして、あなたがツンデレ発言をするたびにマイナス一時間。気をつけるのですよ」
「先に言ってください!」
「とにかく、気をつけるのですよ」
「わ、わかりました…」
『今まで継母たちにこき使われ続けたツンデレラはその度に、あいつらのためなんかじゃない。命令されたから仕方なくやったんだ。と自らに言い聞かせてきました。それを何年も続けるうちに、彼女は息をするようにツンツンする少女になってしまいました。そんな彼女にツンデレするなというのは、一種の拷問でした』
「なんとか間に合ったわ」
『ツンデレラがお城に着いたのは、夜9時過ぎのことでした。魔法が解けるのは11時。あと2時間で王子様を探さなくてはなりません。憧れだった王子様とのひと時を手に入れるべく、彼女は走り出しました』
「どこ、どこなの王子様。王子様!」
『広い城内を走り回って彼女の足はもう限界でした。しかし10時を回った頃、彼女は王子様を見つけるのでした』
「王子様!」
「あなたは?」
「わたし、遠くの町のお屋敷に住んでいるツンデレラといいます。お会いしたかったです、王子様」
「そうか。それは嬉しいな。ツンデレラさんのように美しい人にそんなふうに思ってもらっていたなんて。立ち話もなんだ、踊ろうじゃないか」
「そんな、わたし踊れません。それに、少しお話しできただけで充分…」
「僕がまだ満足していないんだ。付き合ってくれよ」
「…はい」
『二人は楽しくダンスをしました。ツンデレラにとってそれは最高の時間でした。しかし、それを良くないと思っている人もいたのです』
「ツンデレラめ、私を差し置いて王子様と踊るなんて、許さない。こうしてやる」
(全略)
『継母はツンデレラと王子様に近づくと、踊っているツンデレラの足を引っ掛けて転ばせました』
「キャッ!」
「ツンデレラ!」
「痛てて…」
『衝撃でガラスの靴が脱げてしまいました。王子様はさっと立ち上がると、ツンデレラに手を差し出しました』
「手を」
「そんなのなくても立ち上がれますが、お言葉に甘えて使わせていただきます」
『その瞬間、ツンデレラの服はボロボロのものに戻り、化粧も髪もいつものようになってしまいます。ツンデレラがツンデレ発言をしたことによって、魔法が解ける時間が10時になってしまったのです』
「そんな。見ないでください」
『ツンデレラは一目散に逃げ出しました』
「本当のわたしを見て、王子様はきっと幻滅したでしょう。もう、あわせる顔がない」
『ツンデレ発言なんてしなければよかった。とツンデレラは悔やみます。でも、もう遅いのです』
「そんな! ツンデレラ、行かないでくれ」
『ツンデレラは逃げ出し、その場にはガラスの靴だけが残りました』
「この国中に指令を出せ! このガラスの靴にぴったりの足を持つ女性を見つけ出すんだ!」
『そして、王子様はガラスの靴を頼りにツンデレラを探し始めました』
『数日後、遂にツンデレラの町にも王子がやってきました。ツンデレラはそれを物陰から見ていました。自分がツンデレラだとわからないように、フードを深く被って』
「嗚呼、王子様。また彼と踊りたい。でも、彼はこんな
「そこの方、どうかこの靴を履いてはくれないか」
『ツンデレラは王子様に見つかってしまいます。王子様の命令に逆らうわけにもいかず、
ツンデレラはガラスの靴を履きました』
「なんと、ぴったりではないか。まさかお前がツンデレラか…顔をよく見せてくれ」
『王子様はツンデレラの被っていたフードを取りました』
「王子様…」
「ツンデレラ、会いたかった。どうして逃げたりなんてしたんだ」
「わたしは見窄らしい下町の女です。王子様に釣り合うわけがない。あの日は魔女の魔法のお陰で身分を偽って王子様にお会いすることができましたが、魔法が解けた以上、王子様のお側にいることなどとてもできませんでした…」
「そうか…」
『王子様はしばらく考えていましたが、笑うと言いました』
「ツンデレラ。お前の過去の身分など関係ない。僕と共に城に来てくれ。上等な服を用意しよう。君が着飾れば美しいことを僕は知っている。どうかな?」
『ツンデレラは「わたしはそんなつもりはなかったのですが、王子様がどうしてもと言うのなら、そうしてあげてもいいですわ」と言おうとしましたが、飲み込みました』
「はい、喜んで!」
『ツンデレのままでは、成長できないと気づいたのです。こうして、ツンデレの呪いから解放されたツンデレラは、王子様と幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』
【おまけ】
『ナンパ男と上京少女』プロット
起
上京してきた少女とナンパ男が出会い、ナンパする。
そのままホテルに行って○る←園長の判断によりボツ。←一番の見せ場なのにボツとかありえねぇ。生で見せられないならA○の上映で手を打とう。by誠司←ボツ
承
お互いのことが忘れられない二人。再び出会い、上京少女の方から逆ナン。
紆余曲折あって付き合う。
転
上京少女母、交際に反対。
「ナンパなんてする不誠実な男となんて認めません!」
結
上京少女、猛反発。
一方ナンパ男は自分が不誠実なせいだと知り、誠実になろうとナンパをやめる。
しかし、ワイルドな彼が好きだったのにと悲しむ状況少女はナンパ男を突っぱねる。
仕方がないので不誠実に戻ったナンパ男は、上京少女を連れ出し、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
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