第三十八話『嵐の後の静けさ』
夏休み最終日。
宿題はもう終わらせてある。わたしは計画性のある女の子ですから。
ピンポーン
そんなことを考えているとチャイムが鳴った。
今日は、
「
「おとおさん⁉︎」
円花ちゃんは嬉しそうに玄関へと駆けていった。
扉を開けてそこにいた誠司さんに抱きつく円花ちゃん。誠司さんは彼女の頭を撫でながらわたしに訊いてきた。
「どうだった?
「性的接触なしで子供が生まれるなら、最高ですね」
はは…
「トラブルもたくさんありましたけど、楽しかったですよ」
「そうか。T○L○VEる続きだったか。でも楽しかったなら何よりだ」
「「発音がちょっと違う!」」
思わずツッコんでしまった。でもあながち間違ってないかもしれない。
「名作だろ」
「誠司さんの本棚にもあるんですか?」
「当然だ。俺の本棚には胸に修正が入ってない漫画しか置いてないからな」
ダークネスもあるぞ、と誠司さん。
「それは、教育上良くないのでは…」
「それでもいいんだよ。エロい漫画は面白いからな」
「そういう問題じゃ…」
「女の子の前でする話じゃないと思います」
誠司さんは目を丸くすると笑って言った。
「ははっ、悪かった。菫ちゃん。君は隠してるだけでこういうの好きだと思ってたんだが。TLとか読むクチだろ?」
うぐっ…
この人にはバレてたか。類友ですね。
「好きな作品は?」
「『
「エロ度は? 10を最大として」
「8? ですかね」
「あれは1だろ。坂町より上の作品なんてゴロゴロあるぞ。そんなんで本番平気か? 俺の『「俺だけを見ろ」二人目の夫は実は野獣でした』貸すぞ。読んで耐性つけろ」
坂町読んだことあるんだ。それにTL持ってるんだ。
「よろしくお願いします」
「おう、今度持ってくる。そうだ、お前もなんか読むべきだな」
蒼空は、急に自分に振るな、と嫌な顔をした。
「蒼空には最近わたしのTL貸してるんです」
それを聞いた誠司さんは興味深そうに蒼空を見た。
「へぇーこいつに?」
「はい。自分から貸してほしいって頼んできて、ちゃんと読んで感想も聞かせてくれるんです」
「お前、本当に蒼空か?」
「蒼空です!」
「誕生日は?」
「7月31日」
「俺の誕生日は?」
「決まってません」
うん、正解。そもそも誠司さんに関する資料がほぼないんだよね。この人そのうちキャラブレするかも。
「そんなこと思うなよ。俺はお前らと違ってキャラが立ってるからブレたりしねぇよ。とりあえず俺の誕生日は3月6日な。今俺が決めた」
誕生日ってそうやって決めるものじゃなかった気がする。
「気にすんな。さて、そろそろ時間だな。円花も、楽しかったか?」
「うん」
「また来たいか?」
「うん!」
「だそうだ。また連れてくるから、その時は面倒みてくれ」
「わかりました。任せてください」
「また来てね、円花ちゃん」
「うん!」
「じゃあな」
そのまま二人は帰り、久々に二人だけの時間になった。
誠司さんが手土産として置いていったお菓子を二人で食べながらその時間を満喫する。
「円花ちゃんのお世話、大変だったねぇ」
「ああ、十文字家の教育が心配になるくらいにな」
「でも、いないといないでちょっと寂しいね」
わたしは円花ちゃんが座っていた椅子を眺める。
「まぁ別に、従兄妹なんだしまた来てもらえば会えるよ。すぐにってわけにはいかないけど、約束はしたし」
「そうだけどさ…」
わたしが唇を尖らせるも、蒼空は笑って言った。
「僕は、菫と二人きりの時間も落ち着いてて、結構好きだけどね」
それってどう言う意味、と思ったけどすぐに理解した。
ああ、これは蒼空の仕返しだ。
わたしは少し前の夜、蒼空の部屋から聞こえてきた会話を思い出す。
『でも! 菫が僕を好きなんてあり得ないんだよ。それなら、あったかいものが好きな方がまだありえる』
『おにぃ、不可能な物を全部無くして最後に残ったのは、どんなに信じられなくても真実なんだよ』
『菫が背中やあったかいものを好きになるのは不可能なのかよ…』
『不可能なの。少なくとも、エロいお姉ちゃんがおにぃのことを好きになる方がありえる』
『そっか、そう言う考えも…』
蒼空は、わたしが言った『好き』の方向を探してる。
今のはただ、わたしとの落ち着いた時間が好きってだけ。きっと他意はない。
「ごめん、いつかはっきりさせるから」
蒼空は訳がわからないと首を傾げたが、今はそれでいい。
あと少しだけ、時間が欲しかった。
1-3END
【次章予告!】
初めまして。十文字円花だよ。
ここまで付き合ってくれてありがとね。これからも末永くよろしく!
そうだ。付き合うと言えばおにぃとエロいお姉ちゃんは付き合うのかなぁ。
そこは自分の目で確かめてね?
ということで1-4『恵良菫』近日公開!
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