幕間『脇役達の暗躍』

市東いちとう蒼桜あお


 大変誠に非常にこの上なく不本意ながら、夏休みが終わって、週休二日の二学期が始まった。

 貴重な休みの片方を利用して、私はファミレスに来た。

 食事のためではない。会議のためだ。ドリンクバーで時間を稼ぐなら一番安くて長居できるから。

「お待たせしましたー」

「遅いぞ、市東次女」

「すみません。でも、ちゃんとゲスト連れてきたんですから許してくださいよ」

 四人がけの席にはもうじんさんと桃葉ももはさんが座っていた。

 私は本日のゲストである円花まどかちゃんを先に座らせると、隣に腰掛けた。

「では、『市東すみれを生み出す会』定例報告会、始めましょう!」

 四人分のドリンクバーを取ってきて、一口飲んでから話題を切り出す。

「まず、ゲストの話を聞きましょう。円花ちゃん。この前あいつらの家行ってたよね? どうだった?」

「うん、楽しかったよ。でも、いつも通りだった」

「なるほど、良くも悪くも進展なしか」

 仁さんは頷く。

「プールで会った時の感じだと、スミレにしては珍しく押しが弱いって思った。あの子、かなり丁寧に攻めていきたいみたい」

 それは私も感じていた。

「そんだけ市東が好きってことだろ。恵良は失敗を恐れて勇気が出ない。だから成功の確率を上げて、告白の後押しをする。それが俺らの仕事だ。違うか?」

「その通りです。直近の目標は菫さんに告白させること。そしてその時に蒼空兄にOKさせること。その二つです」

「あのね、おにぃが話してくれたことがあるの。聞いてくれる?」

 そして彼女はとある夜の会話を語り出した。


「おにぃは屁理屈ねてたけど、あたしはおとおさんに教わったことをちゃんと伝えたの。『不可能な物を全部無くして最後に残ったのは、どんなに信じられなくても真実なんだよ』って」

「それで?」

「納得いかないみたいだった」

「告白を成功させるためには、恵良が市東のことを好きだって自覚させなきゃダメっぽいな」

「昔から自分に自信がないんですよね。多分告られたことないからだと思うんですけど」

「じゃ、告れば?」

 桃葉さんが言い、静寂が訪れた。

 口火を切ったのは仁さんだった。

「…誰がするんだよ。ここにいるのは親類二人に同性一人。やるならお前だぞ」

「…別に、ウチはいいけど。告った後に、冗談だって誤魔化せばいいんでしょ?」

「まぁ誤魔化すのに桃葉さん程の適任はいないでしょうけど…」

「そんなことしたら告白がトラウマになる可能性があるな。実際に恵良が告った時も冗談だって疑われかねない。あいつの自信のなさを助長するだけだ」

「それもそっか、じゃあ褒めるのは? ソラの長所を褒めて褒めて褒めまくる」

「そんなことしたら、裏があるって誰だって思う。お前のアイデアは副作用が強すぎるんだよ」

「じゃあどうしたらいいの⁉︎」

 桃葉さんはテーブルに突っ伏し、仁さんは私を見た。

「市東次女。どうしたらいいと思う?」

「ふ、振らないでください。円花ちゃん、どうしたらいいと思う?」

「おにぃは、告白が本気だって伝わればOKすると思う。事前にやらなくても、エロいお姉ちゃんが本気で告白すれば十分。だから今は、エロいお姉ちゃんをどうやって触発させるか、告白の言葉をどれくらい本気っぽくおにぃに伝えられるか、が問題だと思う」

 一番年下が一番まともかもしれない。

「つまり、今俺たちが対処すべきは市東ではなく恵良ってことか?」

「うん」

「…一理あるな。十文字長女、それについて何か意見あるか?」

 円花ちゃんは嬉しそうに、堂々とその案を発表した。

「おとおさんが言ってた。女を落とす最も効率的な事は、『愛して、放置して、あせらせる』だって」

「愛して?」

「放置して?」

「焦らせる?」

「うん! 『その気にさせて、放っておいて他の女の子と仲良くして、取られるかもってって思った女は簡単にオレの虜だ』って。あ、昔ナンパばっかりしてた頃の話ね。今は違うよ」

「誠司さん言いそう…」

 本当にあの叔父には呆れしかない。

「でも、悪くないアイデアだな。金子、お前市東と仲良くしてこい。恵良が嫉妬するくらいの感じで」

「ラジャー」

 桃葉さんは敬礼をする。

「私は何をすればいいですか?」

「お前は俺と一緒にデート及び会場のセッティングだ。『ダラダラ長引かせない』がこの作品のコンセプト。この章で決めるぞ」

「はい!」

「あたしは?」

 仁さんは少し悩んでから言った。

「市東はお前相手なら相談しやすいのかもしれねぇ。なにしろお前が『市東菫を生み出す会』のメンバーだって知らないはずだからな。お前は俺らの計画を近くで見守りつつ、必要な時は情報収集してもらいたい。できるか?」

「うん! 任せて」

 これにて、定例報告会は幕。次は、ハッピーエンドの後に集まれるよう祈った。

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