第四十九話『菫と菫恋』

 目を開くと、まるでまだ閉じているかのように、辺りは真っ暗だった。でも、わたしが目を開いてる証拠として、わたしの体だけがわたしの網膜に映った。

「ここは…」

「おっ、やっと目開けた。こんばんは、元気?」

 目の前に、少女。それも、見た目がまんまわたし。

「んー。わたしは『すみれ』とはちょっと違うかな。わたしのことは『菫恋すみれ』って呼んでよ。菫ちゃん」

「すみれ…?」

 突然現れたそっくりさんな新キャラに、わたしは目をぱちくりさせる。

「そう。わたしは『菫の恋愛感情』の菫恋。ここしか出番のない哀れなモブキャラ。あなたがわたしの言うことを聞かないから、夢に出てきちゃった」

「夢に…」

 なるほど、これは夢だったのか。それなら色々説明がつく。

 ってなるかぁっ⁉︎

「わたしたちのジャンルはファンタジーじゃないのに、ファンタジー使っちゃダメでしょ。ちゃんとジャンル変更を申し出ないと」

 夢枕なんて、リアルじゃ滅多に聞かないよ!

「でも菫ちゃん。わたしたちはファンタジーじゃないけど、フィクションだよ。宇宙でバンバンやる話は『SF』でしょ? いいこと教えてあげるよ。SFは、サイエンス・ファンタジーじゃなくて、サイエンス・フィクションの略なんだよ。つまり、SFフィクションがバンバンやっていいなら、こっちもバンバンやっていいと思うんだ」

「多分SFで重きを置いてるのはSサイエンスの方だと思うんだけどな…」

 細かいことはいいの! と菫恋。

 ほんとかなぁ? まぁ、それを納得したとしても、わたしの恋愛感情が擬人化して出てきたのを納得するわけにはいかないけど。

 ただ、菫恋ってネーミングセンスだけは、ちょっとだけわたしっぽいって思った。

「とりあえずこれは夢だから、起きたら『ゆ、夢か…』って言ってね」

「それ、明晰夢めいせきむ見た後に言う言葉じゃないよね?」

【明晰夢:夢を見ていると自覚できる夢の事】

 これでまた一つ賢くなれたね。

「そっか。ともかく、菫が起きる前に話しておかなきゃいけないことがあるんだ」

 話しておかなきゃいけないこと…

 ここからシリアスかな。

「蒼空のことなんだけどさ。菫恋的には、早く蒼空と付き合いたい。なんなら○○ピーとか○○ピーとか○○○ピーーなんてのもしたい。って思ってるんだけどさ」

「な、ななななななな何で知ってんの⁉︎」

 シリアスじゃなかった。

「わたしはあなたの恋愛感情だからね。あなたが考えてることも、それが恋愛に関することなら、全部お見通しだよ。でさ、なんでそんなに恋焦がれてんのに告んないの?」

 こ、告る。

「そう。告る」

「やんなきゃだめ?」

「ダメ。せっかくわたしが出てきたんだし、今日は菫ちゃんの本音を全部カミングアウトしてくのでそのつもりで」

 そして彼女は、菫ちゃんだってわかってるでしょ? の前置きから早口で語り出した。

「菫ちゃんは、蒼空と付き合いたい。だけど、男側から告られるって幻想も捨てきれない。それはわかる、わたしだもん。でもさ、相手は蒼空。そんなことはほぼあり得ない。鈍感系主人公を相手にするなら、時間をかけるか自分から行くかしないとダメ」

「あぁ、もう全部言ったじゃん。わたしの恋愛感情は読者さんにもバレてないと思ってたのに…」

「いやいや、モロバレだから」

 うぅ、菫恋ちゃんが言うんだからそうなんだろう。それに、わたしも心の底では気づいてたってことなんだよなぁ…

「もう待てないのは明白。それなら選択肢は一つでしょ? 起きたらやるべきことは、今から一個ずつ指示するから、それに従って。わたしは、二人が付き合ってくれるのが1番の幸せだから」

「ありがとう、菫恋あいぼう

「こちらこそ、あいぼう

 感謝の念を込めて、気が向いたらまた出演できるよう作者さんに進言するよう蒼桜ちゃんに進言しとくね。


 こんな夢を見た。

 もう一人の自分が現れて、手玉に取られながら本当の気持ちを突きつけられる。

『一章終盤はもう来ていたんだな』とこの時始めて気がついた。


 そのまま勢いに任せて身体を起こす。

「ゆ、夢か…」

 お決まりのセリフを吐いて、はい心の声をどうぞ。

「蒼空と半分の語り部話の一個を無駄にしたぁ!」

 わたしが語り部の話、残り0。

 一章、残りは全部蒼空語り部です。悲しいけど、作品のため、告白のため。

 また、二章で会いましょうね! 絶対!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る