第十九話『現場は脱衣所、被害者二人:菫』

 脱衣所を現場とした事故から一日経った。わたしはモモを誘って近所のファミレスに来た。

「それでスミレ。話って何?」

 モモはジュースを一口啜って切り出した。

「あんまり大きな声じゃ言えないんだけど、蒼空に裸見られた」

 そして吹き出した。

「…ゴホッゴホッ。ヤったの?」

「それはまだ」

 モモはそれを聞いて少しホッとした表情を見せたが、まだ理解ができないと更に詳しく訊いてきた。

「何があった⁉︎」

「そう、あれは雨が降った昨日のこと」

「あ、昨日なんだ」


 勉強が一段落した。そろそろ蒼空そらが帰ってくるだろう。さてと、今日の料理当番はわたしだし、そろそろ作ろっかな〜。

 味噌汁を作っている時だ。きっと、動画を撮っとけば奇跡の瞬間としてそういう映像番組に送れたと思う。

「キャッ!」

 なんということでしょう。鍋から出ていたお玉がわたしのエプロンの紐に引っかかって、勢いよく引っ張られます。その際にちゃんとお玉としての役割を果たしたお玉は、味噌汁をすくってそのままわたしにかけたのです。

「あっつい!」

 洋服が汚れた。床も汚れた。何より熱い。最悪だ。

「お風呂入ろ」

 わたしは服を脱いで、床を拭いて、それからお風呂へ。元々入る気はなかったからお湯は張ってなかった。だからシャワーだけぱぱっと済ませて浴室を出る。


「なるほど。玉から放たれた熱い液体を身体中に浴びて、その後のことを考えると必要だと思ってシャワーを浴びに行ったのね」

「言い方」

「それで?」

「後は読者さんが知ってるのと同じ展開」

「ウチは知らないから教えてよ!」

「はいはい」


「「あ」」

 わたしの裸を蒼空に見られた。恥ずかしさよりも先に、蒼空が失神するのではと思った。きっと、蒼桜あおちゃんに蒼空の体質について話を聞いてたからだと思う。妹の下着姿で気絶するんだ。年頃の女子の裸を見たらどうなるか計り知れない。

 だけど、わたしの心配とは裏腹に、彼は気絶しないで浴室に逃げ込む。冷静な判断だ。

「み、見てないから! だから訴えるのはやめてくれ!」

 その声を聞いて、やっとわたしも冷静になれた。えーっと、お風呂から出て、そしたら蒼空に裸を…

「今ちょっと落ち着いて話せないから後でゆっくり話し合おう!」

 冷静でいられた時間、およそ0.5秒。きっと顔は真っ赤。

 わたしもそこから逃げ出す。身体は拭き終わってたから、服を着て椅子に座る。

 蒼空が出てくるまでの間、少しでも落ち着こうとしてずっと羊を数えていた。

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