第四十四話『よく考えたら男1女3で密室』
水族館のデートを経て、そろそろ告白しなきゃいけないなという思いが芽生え始めた。例えるならそう。期限遠いしへーきへーきと思ってた課題が明日提出まで迫ってたみたいな感じ。まさに今の作者さん。
とはいえ告白未経験なわたしは、どうしたらいいのかわからない。下駄箱にラブレター? それとも、放課後の体育館裏? 夕陽差す放課後の教室、二人きり。風が吹いてカーテンがあおられ、彼女の頬が赤らんで…なんでもないです。
とにかく、わたし一人じゃ無理だから、人を頼ることに。こういう時頼れるのは、やっぱり彼か。
その旨を連絡すると、カラオケボックスに呼び出された。
「なんでここなの?」
わたしも友達とは来るけど、話したいだけならカフェとかでもいいだろうに。
「こいつの発案だ」
仁くんは蒼桜ちゃんを指さす。
彼女は現在進行形で熱唱している。ノリノリで絶好調って感じ。
ちなみに蒼桜ちゃんに歌下手属性はない。
適当に選んだ流行りの曲で80点台前半出せるくらい。
「ふー、もうちょっと歌えたかな。あ、次桃葉さんの曲ですね。菫さん、曲入れ終わったら仁さんに渡してください」
やっぱりカフェの方がよかったと思う。ただの会議をこんなにイベントっぽくしちゃったものだから、蒼空がいないのが可哀想すぎる。
「恵良は相変わらず優しいな。でも、ただの会議だって侮るな。お前が市東に告白する計画の最終フェーズ『告白』のための会議だ」
「……えぇえっ!」
仁くんは分かっていたように耳をふさぐ。見回すと、他の二人も同様だった。
「市東次女。お前の判断はやはり正しかった。成長したな、お前も」
「はい。今まで菫さんと接して、驚いたときに叫ぶのは学習済みです。まぁ、肝心な部分は成長しませんが…」
誉められた蒼桜ちゃんは胸を見下ろす。もはや恒例行事だけど、もしかしなくてもわたしが叫ぶのも同列だったりする? ちょっと仁くん…視界の端で地味に頷くのやめてもらえる?
「別に恥ずかしがる事じゃねぇよ。自分のことを一番知ってるのは自分じゃないって話だ。まぁ、たとえ本人であっても自らのことを100%知れないなんて、少し考えりゃ分かることだけどな。自惚れんなって話だ」
まるで自嘲したみたいに言う彼の話に、わたしは口を挟むことができなかった。
「…はぁ、悪りぃ。変な空気にしちまったな。それで、計画についてなんだが、とりあえずそれはお前の歌が終わってからにしよう。お前の歌、楽しみにしてるぜ」
わたしはマイクを握る。蒼桜ちゃんはタンバリンを持ち、モモはこっそりと録音アプリを起動した。バレてるんだからね。まぁ許すけど。
「♪〜〜」
尺がもったいないので打ち切ります。はい、終わり終わり! 見せもんじゃねぇぞ、なんちゃって。
「さて、空気も変わったところで、話の続きを…」
「何言ってるんですか仁さん。次は仁さんの曲ですよ。ほら、立って立って」
「なんで恵良の時よりはしゃいでんだよ」
「だって、菫さんが上手いのは当然なんですよ。こんな完璧美少女に歌下手属性つくわけないんですよ。それに比べてほら、別に作者権限なかったらモブ止まりだった仁さんがどれだけ下手なのか興味湧くじゃないですか」
「下手前提やめろ。それに歌下手な完璧美少女もいるだろ。ギャップ萌えみたいな」
それって完璧って言えるのかというわたしの思考を置き去りにして、曲が始まる。
「そんないいわけはいりません。ほら、Aメロきますよ」
「……♪〜〜」
沈黙。モモはドリンクを取りに行き、蒼桜ちゃんはスマホをいじり始めた。わたし? わたしはちゃんと聴いてるよ。仁くんの上手くも下手でもない、練習いっぱいした曲なら80に近い70点台をとれるような歌を。
いや、別に下手じゃないんだけど、蒼桜ちゃんが無駄に盛り上げたせいで中途半端になんかしらけちゃっただけだから。そんな恥ずかしそうな顔しないで仁くん。悪いのは蒼桜ちゃんだから。
終了。
「お疲れさまでした。
「…あぁ。しばらくお前と金子の二人で歌っててくれ。俺は恵良と話してるから」
あ、逃げた。でもそれでいいと思うよ、今回ばかりは。
「それで? みんなの計画してる最終フェーズってどんなの? 内容次第では乗るけど、もちろんその逆も」
「分かってる。ちょっと耳貸せ」
蒼桜ちゃんとモモのデュエットにかき消され、わたしにしか聞こえないその計画は、ユーモアと驚きのある、告白だった。
「どうだ?」
「勝算はあるの?」
「それはお前への好感度次第なのは当然っちゃ当然だが、好感度メーターカンストの状態で普通に告っても失敗するだろうと俺たちは見ている。告白もこんくらいやんなきゃダメだっつうのがこっちの案だ」
「…客観的に見て今の蒼空の好感度はどのくらい?」
「マックス100として60くらいだな。100はむずくても90はほしい。まぁ上がる可能性も下がる可能性もどちらも十二分にある。今後も俺らでできる限りイベントをつくって、好感度を上げられるよう全力を尽くす。後はお前がオトせるかどうかだ。他に質問は?」
「ない」
「この作戦に賛成してもらえるか?」
「うん。乗った」
この瞬間、市東菫を生み出す会は、ようやく本人の公認を得た。
遅すぎるよ。まぁ決定的にマイナスになることしてないからいいけど。
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