第12話『もう3年以上遊園地に行けていない為、実際のものと異なる場合がございます』

「ねぇ蒼空そら。待ち合わせはここでいいんだっけ?」

「うん。そのはずだけど…」

 今日行くのは『夢指むさしテーマパーク』という名前の遊園地。

 家族連れからカップルまで人気だ。近所なうえにそれなりにアトラクションが多いので昔から遊園地と言ったらここだった。

 待ち合わせに指定した遊園地の最寄駅前の広場ですみれと二人、桃葉ももはを待っていた。

「ねぇ蒼空、モモのこと嫌い?」

「え? あ、いや。苦手だけど、嫌いじゃないよ」

 突然の菫の問いに、多少戸惑いながらも答える。

「……そっか。蒼空ああいうタイプ苦手なんだ」

「まぁ、好んで仲良くしたいとは思わないな。今日だって菫が間にいたから来ただけだし」

 僕の言葉に菫は少し不満そうな顔をするが、笑顔になると言った。

「でも、わたしの親友なんだ。蒼空にも仲良くしてほしいな…」

「…わかった。善処するよ」

「ありがと!」

 菫は嬉しそうに笑う。本当に大切な友人なのだろう。


 そのタイミングで電車がホームに入り、その電車に乗っていたであろう人たちが一斉に改札から吐き出された。その中に見知った金髪を見つけた。

「おーい! スミレ、ソラ! 待たせちゃったね。ごめんごめん。行こっか」

 普段は降ろしている髪は一つに括られ肩にかけている。控えめながらも外出を意識した化粧に、さりげないアクセサリー。今日は動くことを意識したのか、服はカジュアルなものに纏めている。

 って、なんで僕はただの友人Aの容姿を事細かに説明してるんだ⁉︎ 別にヒロインってわけでもあるまいし…

 と僕は心の中で弁解し、その間も桃葉は先へ進む。その後ろ姿をボーッと眺めていた菫は

「……あれが、プロ」

 と呟いた。あぁ、見ちゃってごめんね。

 

 ゴールデンウィーク真っ只中の遊園地。当然のように混んでいた。人気アトラクションは並ぶと時間がかかるから、その時その時で空いているものを見計らって乗っている。

「これ、空いてるね」

「うん。バイキングだね」

「ま、また酔う系…」

 しかし何故だろう。そうやって選んでいると、僕の苦手な酔う系のアトラクションになるのだろう。

 さっきだってコーヒーカップに乗ったが、同乗者二人が容赦なくハンドルを回した。

「ねぇ、桃葉。やっぱり一番端っこだよね?」

「わかってんねぇスミレ。じゃあソラ、一番端の席取られる前に乗っちゃお!」


「ちょっ、後何回続くぉわっ」

「サイコー! 終わんなきゃいいのに」

「ねーーー!! イェーイ!」

「も、限界だっ、下ろして…」

 ギリギリ吐かずに済んだ。


 しかし、二人がお菓子を買っている間、僕はベンチで休んでいた。

 こんなはずじゃ、もっと酔いにくいアトラクションを選んで乗っていれば、こんなことにはぁ…

 怨嗟の思いを浮かべつつ、僕は二人が来るのを待った。

「おかーさん。あの人、せっかく遊園地来たのに寝てるよ」

「そうね。疲れちゃったのかしらね」

「えー。変なのー」

 寝てないし、変な人じゃない…多分。え、変な人に見える?

「お待たせ。ちっちゃい子は正直だね」

「うるさい…」

 ようやくポップコーンを抱えた菫が戻ってきた。

「桃葉は?」

「まだLANE見てない? なんか、チュロス売り場の近くに空いてるアトラクションがあったから、次そこにしようってきてたんだけど」

「あっ、ほんとだ。またネガティブな…」

「そうなるならなるべくLANEは控えてほしいんだけどね…」

「まあ、行く? 今度はもう酔う系じゃないよな…」

「多分?」


「おー、やっと来たー! あのね、人数制限はないんだけど、流石にチュロス持ったまま入んのも失礼だと思うからさ、ウチがお菓子全部持ってるから二人で入ってね。絶対ね。じゃっ!」

 と早口で言うと、彼女は両手に二刀流の剣士のようにチュロスを構えながら去っていった。

「ジ・イ○リ○ス!」

 何やってんだか…

「まぁ、そういうことらしいし、入る?」

 酔う系のアトラクションじゃなければ僕は乗り気だ。大分酔いも収まってきたしな。ただ、立場が逆転した。

「ねぇ、蒼空。やっぱり別んとこにしない? ほら、まだ乗ってないのいっぱいあるし、モモだけ除け者にするのもやだしさ」

「桃葉はチュロスを独り占めしたいだけだと思うよ」

「た、たしかに。でも! でぇも! やっぱりあそこはやめよう。うん! 絶対!」

 そのアトラクションの名はお化け屋敷という。


 菫の叫び声を聞いて、辺りの客たちがひそひそと話しだす。

「なにぃ? ケンカ?」

「あれよあれ。痴話喧嘩ってやつ」

「ああそれ、わたし聞いたことある」

「いやねぇ、最近の若い子たちは」


「うん。ちょっと音量下げよう。入るかどうかはもう一回桃葉に相談して決めようか」

 あんなこと言われては恥ずかしいだけだ。僕は菫の口を押さえて説得する。てか、あの人たち何? ご近所のオバサンだけで来たの?

「むぐ。むぐぐ。ほはそらふひくち。口!」

「あ、ごめん。じゃあ、LANEしてみるね」


蒼空{ねぇ桃葉。菫があそこ入るの嫌がってるんだけど…)

モモ{スミレは昔から怖いの苦手だからね。でもソラがエスコートしてあげてよ)

蒼空{…うーん。どうしても?)

モモ{嫌? やっぱりダメかな。お願いだから二人を困らせちゃったとはいえ、ウチのこと嫌いにならないで。でも、ウチは二人に入ってほしい)

蒼空{まぁ僕は嫌いにならないけど、菫がどうだろう)

モモ{スミレなら頼めば入ってくれるって! 多分…てかこれグループだよね? なんでスミレ会話に入ってこないの?)

蒼空{菫は今、照明の柱に掴まっててスマホをいじれる状態にない)

モモ{そっか。じゃあ楽しんでね)


「だってさ。行く? どこかから見られてそうだし」

 僕が見せたスマホの画面を、親の仇のように睨んだ菫は、こう叫んだ。

「うんっ!」

 そして、僕らはお化け屋敷に入っていった。

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