第十一話『意外な一面』 

 過去を振り返って見てみると、蒼空と出かけたことは多々あれど、遊びに行ったことがないことに気づく。

 そして先日、桃葉ももはから遊園地に誘われた。

 桃葉と三人とはいえ、蒼空と遊びに行く最初の機会。

 無碍むげにするわけにはいかないのだ。


 ということで、目一杯おしゃれしていこう。服とかメイクとか工夫できる部分は沢山あるはずだ。

 だからまずはメイクの練習。高校がメイク禁止だし、好きな人そらがいるとはいえ自分の家でメイクする気にはなれなかったから、全然練習してない。

 昔はお母さんにマニキュア貸してもらったりしたんだけど、それとは訳が違う。

 気合いを入れて、化粧台の前に座る。買っておいたメイク道具を手に、メイクを施していく。


 数分後、出来上がった顔を鏡越しに見てびっくりした。

「誰?」

 残念ながら、褒め言葉じゃない。鏡に映るわたしは、お世辞にも可愛いとは言い難かった。

 ここでようやく理解する。

 わたしはメイクが下手なのだ。

 すっぴんとこのメイクを天秤にかけると、すっぴん側に大きく傾いた。

 やらない方がマシ、である。

 どうしようか。と悩んでいるとLANEの通知が来た。遊園地グループだ。


モモ{日付は5月5日、場所は夢指むさしテーマパークでいいですか? ダメ?)13:38


 モモって、なんでか知らないけど、LANEだとおどおどするんだよね。


モモ{平気? ねぇ、平気? 早く返信してくれないと不安になっちゃうよ。既読スルーやめて…)13:38

ヴァイオレット{平気だよ)13:39

モモ{良かった。ところで既読がスミレの分しかつかないんだけど、ソラってもしかしてウチのこと嫌いなのかな…だから着信きてるって分かってて無視してるのかな? ねぇスミレ。隣でしょ? 聞いてきてくれない?)13:39


 普段は物静かな人が、LANEだと饒舌になるってのは結構ありがちだけど、モモのこれは異常。前に聞いた話によると、面と向かって話せば、相手の顔とかで何考えてるかわかるけど、LANEだとなにもわからないから不安になっちゃう、だっけ。


ヴァイオレット{蒼空って基本マナーモードにしてるから、気づいてないだけじゃない?)13:40

モモ{そっか、なら行ってLANE見るように伝えてくれない?)13:40

ヴァイオレット{…ごめん。無理)13:40

モモ{え、無理ってどういうこと。もしかしてスミレもウチのこと嫌いなの? ウチのためにソラに会いに行くのすら億劫なくらいに嫌なんだ。ごめんね。ウチが勝手に友達だと思ってたけど迷惑だったんだね。今まで勝手に迷惑かけてごめんね。ソラもスミレもウチのこと嫌いなのに、無理に遊園地なんて誘っちゃってごめんね。やっぱソラに話さなくていいや。遊園地の話自体なしにしよっか。これからは嫌なことあったら正直に言っていいからね。あ、もうこれからなんてないか…はは)13:40


 どうしよう。ただわたしの顔が人に見せられるようなものじゃないだけなのに。弁解する前に次のが送られてきちゃった。てか、フリック入力速いな。

 それに弁解しようにも蒼空にはこの事実メイク下手を知られたくない。

 だからわたしは蒼空のいない、モモとの個人チャットを開いた。


ヴァイオレット{ごめんね。そういう意味じゃないの。今メイクの練習してて、顔が悲惨なことになってててね? 蒼空はおろか人には見せられないから断っただけで、そんなつもりはなかったの)13:42

モモ{嫌いじゃ…ないの?)13:42

ヴァイオレット{もちろん)13:42

モモ{よかったぁ! じゃあ、5月5日に)13:42

ヴァイオレット{うん。楽しみにしてる)13:43


 さて、一件落着かな。




 一方その頃市東蒼空


モモ{え、無理ってどういうこと。もしかしてスミレもウチのこと嫌いなの? ウチのためにソラに会いに行くのすら億劫なくらいに嫌なんだ。ごめんね。ウチが勝手に友達だと思ってたけど迷惑だったんだね。今まで勝手に迷惑かけてごめんね。ソラもスミレもウチのこと嫌いなのに、無理に遊園地なんて誘っちゃってごめんね。やっぱソラに話さなくていいや。遊園地の話自体なしにしよっか。これからは嫌なことあったら正直に言っていいからね。あ、もうこれからなんてないか…はは)13:40


 ようやくLANEに気づき、自分がすぐに見なかったせいで関係性が荒れていることを理解した。どうするべきか焦った彼はわたしの部屋へと駆け込み、わたし(メイクver)と遭遇することになる。

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