第二十七話『場にいる名前に十文字とつくキャラクター1人につき下ネタの割合+10%(パッシブスキル)』

 目が覚めると、隣に蒼空そらが寝ていた。慌てて服の乱れを確認して、心の乱れを整理して、自分から誘ったことを思い出した。

 しかし、更にその先を誘えなかったのは思い出さないことにした。一緒に寝たのに何もなかった。そんなわけないじゃないか、うんうん。

 昨日のことなんてどうでもいいのです。わたしは今を生きる女になる。

 今日は休日、予定はない。だから、もう少しこのまま彼の横にいても許される…

「エロいお姉ちゃん、起きて! おとおさんが来た!」

 後五分でいいから許してください。

「あ、忘れてた。おにぃとエロいお姉ちゃんは一緒に寝てたんだったね! おとおさーん!」

「ちょっと待って!」

 止めるも虚しく、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

円花まどか、その寝たはどっちで解釈すればいい」

「おとおさんの好きな方「マジで⁉︎で解釈していいよ

 誠司せいじさんが畏敬いけいの目でわたしを見てくる。彼も蒼空がどんな人かは知ってるのだ。

「誤解です」

謙遜けんそんするな、俺もいつか蒼空にそういうやつが現れてくれると思ってたからな。兄貴も女に興味はないって顔してたのに、いつのまにか月詩つくしさんと結婚してたし。遺伝かね」

 変なところが遺伝したものだ。

「それにしてもこんなに騒がしくしてんのに蒼空はまだ起きねぇのな。そんなに激しかったのか?」

 だから誤解なんですって…

 わたしは蒼空の耳元で囁く。

「ほら、起きてるんでしょ?」

「むにゃむにゃ、ぐーぐー」

 誤魔化す気ないでしょ。

「蒼空クン、ここが誰のベッドか忘れちゃったの? 寝たふりしてまで女の子のベッドに顔を埋めてわたしの事を感じたかったんだ。かわいー」

「いらいら、ぐーぐー」

 この男、意地でも起きないつもりか。

「おとおさん、エロいお姉ちゃんがおにぃのほっぺにチュウしてる」

「悪い円花。お前にはまだ教えてなかったな。あれは、耳を甘噛みしてるんだ」

「あまがみ?」

「難しい話はおいおいするとして、好きを伝える手段の一つだと思っとけ。全年齢だからどこで誰にやってもいいぞ。ただし好きな相手ならな」

「わかった!」

 わかりました誠司さん。あなたいつもそうやって教育してるんですね。だから円花ちゃんみたいなモンスターが生まれたんですね。

「コツは、力加減だ。慣れてないうちは唇だけで噛むといいぞ。あとは派生で手や○○を噛むこともある。ちなみにらんは俺のために自分の手で甘噛みの練習をしたことがある。その時の動画がまだ残ってるけど、見るか?」

「おかうさんの甘噛み動画! それも盗撮したの?」

「もちろんだ。昔の蘭は恥ずかしがり屋だったからな」

「今なら目の前でやってくれそうだけどね」

「あぁ、あいつもだいぶ俺色に染まってきたな」

 俺色に…

 蒼空色に…?

すみれ、今晩どうする?』

『やらなくていいよ。別にエッチなこと好きじゃないし』

『わかった。菫も僕色に染まってきたね』

 そんなのナシだよナシ! お話が終わっちゃう。

「そんなことより今は、どうやってこの二人にバレないように警察に通報するか考えないと」

「こんなでも一応親戚だからやめてくれ」

 目を閉じたまま蒼空が小さく呟いた。


 わたし達は朝食を食べながら会話を楽しんだ。訂正、楽しくはなかった。

「円花ちゃんの兄弟ってみんな仲良いの?」

「うん、きょーつうの趣味があるから。おかうさんが言ってた。ごーコンではそれが自分と相手を繋ぎ合わせてくれるんだって。兄弟も一緒だね」

 はは、共通の趣味下ネタね。

「そうだ! 今度みんな連れてくるね。きっと楽しいよ」

「この家じゃ入りきらないかなぁ」

「なら、俺らの家に来いよ。歓迎してやるから」

 これの、4.5倍かぁ…

 遠慮したいけど、こんなでも一応蒼空の親戚。嫌われて結婚を反対されたら困る。

「はい! 喜んで」

 蒼空が、マジかという目でわたしを見た。

「それは良かった、蒼桜あおに言われたから会ってみたけど、いいやつで安心したよ。君になら蒼空を任せられる。(色んなことで)」

 最後にボソッと付け足したそれが真意ですか。わたしもです。

 ちょっとめんどくさい所あるけど、わたしの計画のためにもこの人と仲良くしておくべきだろう。

「こちらこそ、こんなに良くしてくださる叔父さんに会えて嬉しいです」

 蒼空が、頭おかしくなったのかという目でわたしを見た。


 ご飯を食べ終わると誠司さんは帰る支度を始めた。

「円花、帰るぞ」

「えー、もっといたい。エロいお姉ちゃん達と遊びたい」

 円花ちゃんは駄々をこねた。こういう所は年相応なんだけどなぁ。

「また今度連れてきてやるから」

「ほんと⁉︎」

 嬉しそうに瞳を輝かす。

「ああ、二人にしっかりお礼を言えたらな」

 こういう所はお父さんっぽいんだけどなぁ。

「上目遣いで、可愛げにな。そうだ、パパママって呼んでみろ」

 前言撤回。どんな所も誠司さんだ。

「パパ、ママ。お泊まりさせてくれてありがとね。楽しかったから、また来たいな。いいでしょ?」

「いいよ、ぜひ来な。明日、明日にする? 明日とかどうかな?」

 蒼空がわたしを裏切った家族の仇を見るような目で睨みつけたけど、無視した。

 ママというパワーワードには、勝てなかったのだ。それに、蒼空がパパでわたしがママ。言い換えると、蒼空はわたしのパートナーということになる。

 その幸せだけで、彼女の誘いを受けるのには十分だった。

 因みに、夏休み中ずっと泊まることが決定した。

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