幕間『ヘッドハンティングは突然に』

金子かねこ桃葉ももは

 

 電車を降りて、家に向かって歩く。今日は楽しかった。それは間違いない。でも不満だ。不服だ。納得いかない。

 二人をお化け屋敷に入らせた。その選択は間違ってなかったと思う。でも、なんで二人の仲が悪くならないの? なんでスミレはソラに幻滅しないの?

 ソラがスミレに釣り合ってるのか、まだ分からない。ホントは、釣り合ってないと思うけど、二人を見てるとウチが間違ってるように感じる。

 スミレの願いはなるべく叶えてあげたいけど、もし騙されそうな時は助けてあげたい。

 今回は、どっち?

 どっちであってもウチは、二人がくっつくのは認めたくない。

 だってスミレは…

「初めまして、金子桃葉さん。突然失礼します」

 ウチの歩みを止めたのは、まだ中学生くらいの女の子と、その兄らしき男子だった。

「推測してるとこ悪いが、俺はこいつの兄貴じゃねぇよ。こいつの兄貴の友達だ」

「ダメですよ仁さん。突然『作者権限』使ったら、戸惑っちゃいますって」

「お前が言うな」

 男子が女の子の頭に手刀を食らわせる。この距離感。やっぱ兄妹…いやカップル?

「お前はそれじゃなきゃ男女が一緒にいちゃいけないんだと思ってんのか? 俺たちはそうだな…同志ってところだ」

 同志。

「酷いですよ仁さん。それで、金子桃葉さんでよろしいですよね?」

「ウチは、金子桃葉だけど、何か?」

 そう聞くなり、女の子はテンション高く答えた。

「菫さんのド親友の桃葉さん…金子さん? モモさん」

「なんでもいいよ」

「桃葉さんに、お願いがあります」

 ウチにお願いね。名乗ってもないのにうちの名前を知ってたり、スミレのこと知ってたり、心を読んだりする奴らがお願いなんて、そうとう切羽詰まってんのかな。

「協力者は多いに越したことはない。そう言う話だ。金子、お前『市東菫を生み出す会』に入らねぇか?」

 市東菫。スミレがソラに嫁入りしたら、そうなるんだろうけど、つまりそういうことか。

「それは、どういう会なのかな? そこのジンとやらに手刀を食らうの?」

「やることは簡単です。蒼空兄に卑猥なことを克服させて、菫さんとくっつける。そのために色々お膳立てする会です。知ってますよ? 二人っきりにするために、お化け屋敷に入れたんですよね? お化け屋敷はラブイベントの宝庫ですからね、さすがです。で、そういうことをするのが本会の目的なので、桃葉さんには十分に素質があるかと」

 なるほど。それで目つけられたわけか。

「それに、お前恵良と小さい頃から仲良くしてたんだってな。市東の過去はこいつが知ってるが、恵良の過去を知ってるやつが生憎いなくてな。それも、お前を選んだ理由だ。まぁそれはともかく、あの気遣いは素晴らしかった。是非、市東菫を生み出す会うちに入ってくれないか?」

「あれは…そういう意味でやったわけじゃない」

「え、じゃあどういう意味で?」

「人の本性は極限状態で表れる。もし二人きりのお化け屋敷で、スミレを置いて一人で逃げたり、ビビってスミレにしがみついたりなんてしたら、さすがのスミレも幻滅すると思ったんだけど…ダメだったみたいだね」

「スミレさんが、幻滅…? なにがしたいんですか?」

 女の子が首を傾げる。心は読めるのにそれはわからないのか。よくわからない力だな。

「ウチはスミレとあいつの恋路を妨害したい。ウチとあんたらの利害は不一致なわけだ。だから、ウチはその会に入らないよ」

「…ぇ、なんでそんなことするんですか?」

「ウチがスミレのこと好きだから」

「へ?」

「ソラなんかにスミレはあげない。スミレはウチと結婚するんだ」

「えぇぇぇぇ!!」

「おい、市東次女。道端で叫ぶな。それと金子、足止めして悪かったな。お前の考えはよくわかった。やはり、お前がウチに必要な人材だったってこともな」

「ふっ、どういうこと?」

「詳しくはそのうち話そう。どうせすぐにまた会える」

「あっそ」

 やっぱり、スミレは誰にも渡さない。だってスミレは、男子に染まるのが禁忌とさえ思えるほど純粋で優しい子だから。

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