第十四話『策は失敗し、本音は夕闇に飲まれる』

「…ん」

 長い眠りから覚めると、医務室であった。

「あ、起きた? ごめん、手離しちゃって」

 隣のベッドに寝転がっていた蒼空そらが話しかけてくる。

 そういえばわたし、お化け屋敷で…

「ううん、平気。あ、そうだ蒼空。ところでモモは?」

「ああ、桃葉ももはには連絡したからもうすぐくると思うよ」

 その瞬間、医務室の扉が勢いよく開く。

「スミレーっ! 平気? いつまで経ってもLANEに返信がないから何かあったのかって不安だったけど、無事でよかったー!」

 倒れたことが無事なのかは知らないけど、モモは心配してくれていたらしい。

「ごめんモモ。心配かけちゃって」

「全然平気、元気なら何よりだよ」

 モモがわたしを抱きしめてくる。わたしも彼女を抱きしめ返した。

 それを見て何を思ったのか、蒼空は突然立ち上がると

「あーえっと、ほら。起きたんだし、先生に報告してくるね。問題なければこの後も遊べるだろうし」

 と捲し立てて部屋を出た。

 わたしは、モモとの抱擁ほうようをやめると、彼女にお化け屋敷での出来事を説明した。

「スミレがそんなに怖がってるのに、手離すなんて酷くない?」

「そうでもないよ。蒼空はしっかりわたしをゴールまで連れていってくれようとしたし。そもそもお化け屋敷を目閉じてやろうなんて考えがおかしかったんだよ」

「いや、スミレはいつも正しいよ」

「ううん。それは違うよ」

 わたしが正しいときはあるけど、いつもじゃない。今回わたしは間違えた。

「モモはさ、わたしが全て正義みたいに思ってるけど、そんなことないんだよ。わたしだって間違えるし、蒼空だって正しい時もある。わたしを庇って蒼空を頭ごなしに否定するんじゃなくて、もっと彼を見てあげてほしいな」

 そう言うと、モモは不満そうに訊いてきた。

「でもお化け屋敷でソラはスミレの手を離したんだよね?」

「うん」

「幻滅とかしなかったの?」

 まさか。その程度で幻滅するほど、わたしの恋は弱くない。馬鹿にされちゃ困る。

 モモはやっぱり、不満そうな顔を浮かべた。

 何か不満なの?

 そう訊こうとしたけど、蒼空が丁度戻ってきたから、訊けなかった。

 

 医務室を出て、もう一度遊園地を堪能する。三時間も無駄にしちゃったけど、楽しい一日だった。

 一番の思い出は、ジェットコースターでの写真の蒼空の顔。後生大事に保管しようと思う。


 空が暗くなり、わたしたちは遊園地を後にした。駅でモモと別れて、二人で歩く帰路。

「ねぇ、今日の職員さん、みんな同じ声だったね」

 蒼空が話を振ってくる。

「ついでに、今後出てくる店員さん系の人はみんな同じ声だからね」

「マジで⁉︎ なんでそんなこと知ってるの?」

 蒼空が食いついてくる。

「蒼桜ちゃんがね、『遊園地に行くメンバーに作者権限持ってる人がいないので、これ持っていってください。使えそうなメタ発言まとめておいたので』ってこのメモ帳くれたの」

 と、わたしはカバンからポケットサイズのメモ帳を取り出した。通称メタメモ。

「終盤で出すなよ…」

「じゃあ、今から沢山メタるね」

「それもやめてくれ」

「でもぶっちゃけ、今話あんま面白いとこなくない?」

 ネタ要素がゼロだ。

「ネタと言ったらパロかメタ。パロがないならメタを喋ればいいじゃない」

「マリーアントワネット⁉︎」

「まぁとりあえず、楽しかったね遊園地」

「それはよかった。次はもっと沢山の人を連れて行きたいな」

「そうだね。蒼桜ちゃんにクラスの友達、あとはじんくんも誘おっか」

「なんで君が仁を知ってる」

 あれ、まだ出てなかったっけ?

「じゃあ、今のがメタってことで」

「メタに逃げるな」

 逃げなくちゃ駄目だ。逃げなくちゃ駄目だ。逃げなくちゃ駄目だ。

「パロに走るな」

 夕闇の帰り道、蒼空すきなひとと過ごす休日のひととき。

 さっきのは嘘だ。次は、二人きりで…

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