第三十話『さまーばけーしょん』
早くも七月は終わり、八月がやってきた。夏休みは七月から始まってるけど、ここからが本番だと感じる。そんな日の夕方、チャイムが鳴った。
「はーい」
そこには、体に不釣合いなほど大きなリュックサックを背負った、
「いらっしゃい」
「久しぶり、エロいお姉ちゃん。これからしばらくよろしくね!」
彼女は今日から三週間、我が家に泊まる。
「久しぶり円花ちゃん」
少し遅れて蒼空が階段を降りてきた。
「うん、おにぃ達と毎日遊べて嬉しい」
「僕もだよ。とりあえず上がろっか。何か飲み物いる?」
「お薬入りのお酒。あるこぉる濃度高いやつ!」
「麦茶でいいね」
「言うこときかねぇと、あの写真、ネットにばら撒いてやるかんな!」
「どこで覚えたの…」
円花ちゃんに変わりはなさそうだ。
わたしは部屋を出て、小姑気分の少女に電話をかける。
「円花ちゃん来たよ」
『ああ、着きました? じゃあ、これからしばらくよろしくお願いしますね』
「うん。それで、この前の話の続きしてよ。今蒼空いないから」
どうして円花ちゃんをうちに来させたのか、その理由をまだ聞いていない。
『はい。わかりやすく言うなら、刺激が欲しかったんですよ』
「ていうと?」
『考えてみてください。あの下ネタマシンガンの円花ちゃんですよ? どうなると思います?』
きっと四六時中そういう会話になるんだろう。蒼空はツッコんで、わたしは苦笑い。そんな中で時々爆弾を放ってきて、それに流されるままわたしと蒼空が…
「まさか、これも蒼空の『卑猥』の克服のためだって言うわけ⁉︎」
『正解です。百点あげます』
「いらないから。何に使えるのかもわからないし…」
『千点貯めるごとに蒼空兄の性癖を一つ公開します』
「やっぱ欲しい」
性癖ポイントが百貯まった。
『では、話を元に戻すとですね。せっかく円花ちゃんが下ネタ爆弾を投入してくれるんですから、菫さんにはそれに乗っていただきたいというのがこちらの考えです』
たしかに、そうすれば何もないということはないだろう。
『蒼空兄の「卑猥」克服に間接的に影響するだけではなく、あわよくば直接的にも影響してもらいたいんですけどね。そこは円花ちゃん次第なので期待はしてないです』
「直接ってことは…まさかそういうこと⁉︎」
「いいこと教えてあげますね。円花ちゃんは蒼空兄の従兄妹。4親等目の傍系血族です」
「『民法第734条』か…」
『えーっと、私も詳しい数字までは知らないですけど、多分それです』
【民法第734条】
直系血族又は3親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。
裏を返せば、4親等外の傍系血族とは婚姻ができる。つまり
「それは分かったけど、聞いた話じゃ妹みたいな存在だって…」
『まぁ、おにぃって呼ばれるくらいですからね。本人は意識してないでしょうが、それは全人類に言えることです。蒼空兄が意識している異性なんていません』
た、たしかに…!
「で、でも。たとえ結婚できる範囲内だったとしてもだよ。蒼空が、まだ小学三年生の子を好きになるなんてある?」
それもわたしを差し置いて。
『逆に訊きます。蒼空兄が、
「え、聞いたことな…」
『私知ってますよ。菫さんが蒼空兄のロリコンを疑ってた事も。寝る前にいつもやってる事も。お風呂でどこから洗うのかも』
「それはもうストーカーだよっ! それに、あれはちょっとズレてたし」
あれはロリコンというよりむしろ、
『とにかく! もっと危機感持ってくださいね。円花ちゃんに負けちゃったら、蒼空兄とは結婚できないんですからね』
と揶揄うように言い残して電話が切れた。
んー。この夏休み、少しくらい本気を出すべきなのかな? 目指せ、打倒円花ちゃん!
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