第51話『未成年、主張控えめ』

 十文字家を後にして、疲れた僕らは公園で休むことにした。

「蒼空、いつの間にか1話終わってたよ。そろそろ決着をつけよう」

「そうだね」

 しかしどうやって収拾させればいいのかと悩んでいると、ポケットのスマホが鳴った。

「あ、仁からだ」

『市東、すぐ戻れ』

 ふむ、戻れだってさ。

「怪しいね。せっかく逃げたのに。偽物がスマホ奪ってかけてきた説はない?」

「でも、声は間違いなく仁のそれだった」

 敵陣に、探偵スキル持ちだけでなく、科学スキル持ちもいるなら別だけど。もしそうなら、腕時計型麻酔銃も警戒した方が良さそうだな。

「なるほど。じゃあ戻る?」

「そうだね。そろそろ決着つけないと、読者さんに怒られちゃうもんね」


 家の周りにはまだ人が群がっていたので、僕たちは出ていった時と同じ方法で家に入った。

 彼は無傷で、玄関の前に立っていた。

「あ、仁くん無事だったんだね」

「仁、突然帰れってどういうこと?」

「市東。悪いな」

 すると、彼は僕の手を引くと、同時に玄関の鍵をあけた。

「「えっ⁉︎」」

 鍵があいた扉は、外にいる同級生の手によって簡単に開け放たれ、僕の体は彼らの波に吸い込まれていった。

「仁くん…何のつもり?」

「作者の命令だ。恵良は自分の部屋からベランダに出てくれ」

「え? ベランダ?」


「おい市東、言いたいことがたくさんあるけどな! とりあえずここ座っとけ!」

「座れ座れ!」

「誰か押さえつけとけ」

「は? やだよ。見れなくなるじゃねぇか」

 話し合った結果、僕は誰が用意したのかわからない『椅子付きの神輿的なやつ』にガムテープで無理やり繋がれた。痛い痛いもっと優しくしろ!

 ていうか、え? どういう状況? これ。

「役者が出揃ったところで、始めさせていただきます。はじめまして実況は、羽生はぶ理夢りむが担当させていただきます♪」

「「「キャー! 理夢ちゃーん!」」」

『みんなー、応援ありがとう! スタメン目指して頑張ります♪だから、これからもよろしくね〜!』

「「「はーい! 理夢ちゃーん!」」」

『じゃーあ、早速行くよ〜みんなで名前を呼んでみよう! 菫ちゃーん!』

(ヒーローショー?)

「は、はいっ!」

 声を上ずらせながらベランダから出てきたのは、我が同棲相手である恵良菫その人。

 手には何やら怪しい紙を持っている。

 一体、何が始まるんやら…

『じゃーあ、菫ちゃんが出てきた所で質問いっくよー! 菫ちゃんの方が、理夢より可愛いって思う人ー?』

「「「はーい! 理夢ちゃーん!」」」

「(ちっ、○○○○○○○自主規制が入るほどの罵詈雑言)」

「理夢ちゃーん。なんか言った?」

「な、なんでもないよー? じゃーあ、もうこれ以上イライラするのも嫌だし、始めちゃおっか。やっちゃっていいよー、菫ちゃーん♪」

「い、いきますっ!」

 すると、菫は元気よく手の紙を読み始めた。

「きょ、今日は、みんなに言いたいことがありますっ!」

「「「「「「「なーにー?」」」」」」」

(あ、これ未成年の主張だ)

「実は、この中にすっ、好きな人がいます!」

「「「「キャー!! だーれー?」」」」

「う、嘘です! やっぱり無理だよ仁くんっ!」

 あ、逃げた。

『はぁ、しゃーない。実は、恵良が伝えたいことがあります』

「「「「「「「なーにー?」」」」」」」

(前代未聞だ!)

『この中に、恵良の好きな人がいます』

「「「「「「「だーれー?」」」」」」」

『それはな…』

『仁くんにやられるなら自分でやるっ! それは、そ、それはっ…』

 全員が息を呑む。緊迫した空気が場を支配する。

『好きな人は、それは、そ、そ、そ! 蒼空! 市東蒼空ですっ! よかったら、付き合ってくださいっ!』

 おおっ! という声をみんなが漏らす。そして、それが止む頃には、みんなの視線が僕に集まっていた。菫は泣きそうな目でこちらを見ている。ああ、あれね。やりますよ。あれ。


『市東蒼空の選択肢』

1.「いーよー!」

2.「ごめんなさいっ!」

3.「自主規制が入るほどの罵詈雑言」


 選ぼうとして選び損ねる1。良心と本心と下心が喧嘩して、喧嘩して、戦争した。考える時間が永遠にあるんじゃないかと思わせるほどに場は静まり返っていて、でも、選ばなきゃいけない。

 だからと焦って選ぶ2。涙とその他諸々の感情がごちゃ混ぜになって現れる菫の顔。想像でも辛い顔で、自分のせいでそうさせてしまうと思う胸が痛む。

 3は論外。うん。論外。

 僕は、僕はっ! 僕は?

 本当は何を望んでいるんだ?

「い、今決めなきゃだめ?」

「は⁉︎ 何言ってんだよ。つまんねぇなー」

「そーだそーだ! それ見に来たんだからな!」

「早くしろよ! 返事! どっちでもいいからさ!」

『い、いーよーっ!』

 本来なら僕がいうべきだった言葉を誰かが叫んだ。

 みんなが天を仰ぐ。

『い、いいよっ! わたし待つから。ちゃんと考えて、返事してほしい』

 菫の目は、真っ直ぐだった。

 ちょっと濡れていて、キラキラしてて、僕を捕らえて離さなかった。

 逃げる切ることは許されない。

 でも、逃げる猶予をもらった。

「恵良がそう言うなら…」

「市東、学校でなんつったか教えろよ」

「絶対だぞ。絶対!」

「よしお前ら、帰るぞー!」

 ようやく僕は椅子から降ろされ、みんなは帰っていった。例外はいたけど。

『次は理無ねー。実は、みんなに言いたいことがあります♪』 

「「「なーにー?」」」

『この中に、理無を好きな人がいまーす』

「「「だーれー?」」」

『ここにいるみーんなです♪』

「「「キャー!!!」」」

「おい女子共、急に金切り声出すな。うるさいんだよ。よし、男子共! 使えない女子共はさておいて働け! 撤収するぞ!」

「「「分かりましたっ!」」」

『男子のみんなも、理無のこと、だーいすきだよねー?』

「うっせぇんだよ羽生はふ!」

『はっ? テメェこそ黙れよクソが』

「嘘、理夢ちゃんがそんな汚い言葉を使うわけない…」

「幻覚よっ!」

「お願い。夢なら、覚めて」

『そうだよっ! 幻聴幻聴! 明日からも一緒に帰ってね? ね⁉︎』

 みんなを追いかけるように例外も帰る。


 そして、道には僕だけが残った。

 家の中から仁が出てくる。

「一旦家入れ。俺は帰る」

「うん」

 ギー、ガチャン

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