第三話『この部屋を男女の部屋とする。異論は認めない』

 今日は、新居に荷物の搬入がされるからお互いのお母さんを連れてその見学に来た。二人のお母さんも同伴だ。なんか数年ぶりに会うとかでちょっと前からウキウキしてた。

 午前に搬入は終わり、今日からわたしたちはこの家に住むことになる。

蒼空そらのこと、よろしくね。すみれちゃん」

「はい。お母義かあ…蒼空のお母さん」

「こちらこそ。菫が迷惑をかけちゃうと思うけど、仲良くしてね」

「h…」

「そんな〜。菫ちゃんはしっかりしてるから平気よ。そんなことより、蒼空が家事を押し付けたりしないか心配で。菫ちゃん。もし、蒼空がそんなことしてきたらおばさんに言ってね。蒼桜あおをそっちによこすから」

「母さん、多分今僕の番…」

「は、はい。ありがとうございます」

 なるほど、蒼桜ちゃんはお母さん似なのか。

「さてと。親としてはもう少しいたいけど、ここは若い二人に任せて、私たちはお茶でもしない?」

「いいね。それじゃあ菫、蒼空君。頑張ってね〜」

 と二人は帰っていった。

「何を?」

 さあ? 勉強じゃない?

「外にいるのもなんだし、入ろっか」

「うん」


「「おぉ」」

 前に顔合わせの時に来たけど、家具があるとまた違った印象を受ける。なんか、家が生きている感じ。

 イケメンじゃない転校生が、イメチェンしてイケメンになったみたいだ。

 今日からこの家に住めると思うとワクワクする。

「でもまだ少ないな」

「うん。家に余ってた物を片っ端から持ってきたけど、流石にテレビとかリビングテーブルとかはなかったから、今度買いに行こうよ」

「じゃあひとまず、部屋に行こうか。雑貨が入った段ボールが届いてるはずだから」

「うん。荷解き、今日中は無理でも、早いうちに終わらせたいもんね」


 話し合いの結果、二階の二つの部屋は、わたしが手前。蒼空が奥を使うことになった。

 お互いの部屋で作業をする。

 えっと、この恋愛小説は、本棚。このカップルうさぎのぬいぐるみは、ベッドの横。あと、この化粧用品は…化粧台!

 持ってくる家具を探して物置を漁ってたら、昔お母さんが使ってた化粧台があったんだよね。あんまり使わないかもしれないけど、なんかあると✨イケてる✨女の子って感じがするからもらっちゃった。

 えっと、この本は…

「ん?」


 コンコンコン

 この扉の向こうは、蒼空の部屋。

 いや、ななに気にしてるのわたし。別にやましい理由なんてないもん。ないもん!

 こちとら一人っ子だし、男の子の部屋なんて入ったことないもん。だからやましいとかそんなんじゃなくて、初めてで緊張してるというかなんというか…

 ガチャ

「ん? どうした。何か用?」

「は、初めてなので優しくしてください」

 ……………

「えーっと、何を?」

「さあ? 勉強じゃない? ははは…」

「それで、要件は?」

「あ、そうそう。このダンボール、蒼空のだよね。こっちに混ざってたんだけど」

 中には知らないタイトルの本が入ってた。『キ○○旅』ってどんなラブコメなんだろ。

「ありがと…」

「えーっと、ここでいい?」

 ダンボールを受け取ろうとするモーションをいち早く察知したわたしは、それを無視して部屋に入る。何もないところにダンボールを置くと、チラッと部屋を観察する。

 ああ、これが男子の部屋か。うわっ。本、多い。男子の部屋ってもっとフィギュアとかポスターとかで散らかってるのかと思ってた(偏見)。

 あ、でも待って。蒼空がこの部屋に来てまだ一日も経ってないんだし、わたしたちの前に住んでた女の人(という確証はない)の方が長いんだから、ここを男子の部屋と呼ぶのはまだ早いんじゃないかな。

「ああ、ごめん。こっちも、何か混ざってたら持ってくよ」

「うん。あ、そうだ! 男子と女子を混ぜて男女の部屋って呼ぶのはどう?」

「? う、うんいいんじゃないかな…」

(何がどうしてそうなった?)


 そして、荷物を渡して戻って荷造りを再開。

「あれが、わたしの好きな人の部屋。蒼空の部屋〜///」

 結論から言うと、全然進まなかった。

 だってしょうがないじゃん。ね? ほら、好きな人の部屋入ったら多分そうなる。わたしだけじゃないはず。恋愛小説『坂に愛された町』の町田ちゃんも坂田くんの家に行った時こうなってたもん。

 ワタシワルクナイ。

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