第20話 大体の高校生にとっての災厄とは(哲学)

 高校生にとっての身近な絶望といえばなんだろうか。


 絶望の原因は多々あれど、やはり一番絶望するのは…。


「よーしお前らー!再来週から1学期中間テストだからとりあえず部活は停止なー。」


 そう、定期テストだ。


「遥眞~!ちょっとノート見せてくんろ~。おらやばいのだ~。」


 変になまりながら縋り付いてくるのは悠真だ。


「遥眞~私もちょっとノート見せてほしいよ~。」


 すごい照れたようにお願いしてきて可愛いのは唯音だ。


「お姉ちゃんにも見せて~!後生だから!なんでもするから!」


 なりふり構ってないのは千春だ。


 この三人、本当に成績が悪い。


 千春は普段部活が厳しくて勉強する時間が取れないから(本人談)、悠真は崇高な目的があって忙しいから(本人談)、唯音は小説家の仕事が忙しいから。


 それぞれの理由でまったく勉強してないのである。


「お前ら…。またかよ…。」


 高1の頃から繰り返してるこの茶番。


「あっ!お姉ちゃんいいこと思いついた!みんなで勉強会するのってどう?」


 おそらく千春の言う勉強会とは、粛々と勉強する会ではなく集まってだべってたらいつの間にか帰る時間になってる会だろう。


「いいなそれ!やろーぜ!」


「楽しそうだね俺もやろうかな。」


「私も~勉強会したい~。」


 皆口々に賛同してしまった。


「遥眞は?どうする?」


「みんなが行くなら行こうかな…。」


「よーし決定!どこでやる?」


 だが、五人が話しながら長い時間いることのできる場所なんて限られてくる。


「あ!じゃあ俺の家はどう?」


 ここで出てきたのが暁人だ。


 暁人の家はすごい特殊なのだがまあ見ればわかるだろう。


「いいね!じゃあ暁人の家に決定!おじさん元気?」


「ピンピンしてるよ。」


 

 放課後、俺たちは勉強道具と手土産を持って暁人の家に来ていた。


「やっと着いたぜ!いやー何回見てもここ凄いなあ!」


 そう言って悠真が見上げた先には…。


 ものすごい大きい昔ながらの和風の門がそびえたっていた。


 白塗りの塀に瓦の屋根。


 門の奥には日本庭園が広がっている。


 そして視界にちらほら映る黒のスーツにサングラスをかけたいかにもヤが付くクザみたいな人。


 そう、暁人の実家天堂家は天堂組という日本最大級のヤーさんの総長の家である。


 まあここにいる人、そんなに怖くないしめっちゃ優しいんだけど…。


「おかえりなさい若!そして、若のご学友ですな!ようこそいらっしゃいました。」


 この屋敷のなんというかハウスキーパーみたいな役職である柳泰清やなぎたいせいさんが出てきた。


「ただいま。これからちぃたちと勉強会するから部屋を一個用意してくれる?」


「かしこまりました!ささっこちらへどうぞ。」


 柳さんに案内されるがまま家の奥へと足を進める。


「総長!若とそのご学友が参りました!」


 一番奥にある、すごいいかめしい部屋に入ると…それはそれは何回見ても飽きない派手な旗と、木製の大きな机、椅子そしてその椅子にすごいダンディな親父さんがいた。


「おう暁人おかえり!そして千春ちゃん唯音ちゃん悠真くん遥眞くんもよく来たな。まあ何もないけどゆっくりしてってくれ。がははは。」


「親父。俺たち勉強会するから。こないだみたいに乱入してこないでよ?」


「がはははっ。まあ考えとく。」


「はあ…。行こうか皆。」


 この迷路のように入り組んだ家、一度道を間違えると大変なことになるので暁人を見失わないように頑張って追いかける。


 数ある部屋の中の一室に入る。


 木を基調とした調度品の数々はいかめしさを感じさせるとともに安心感を感じさせる。


「よしじゃあ勉強会始めようか。好きなとこ座って。」


「おー!よし!遥眞と暁人勉強教えて!」


 思ってたのとは違い意外にもちゃんと勉強をする赤点ズ。


「なんだ?お前らがちゃんと勉強するなんて明日は雪か?」


「いやぁ…ちゃんとやんねえとうちの母親がキレるから…。やんねえとなぁって。」


「ふーん。まいいや。ここはこうやって解くんだよ。」


 なんか暁人と千春はイチャイチャしながら勉強してるので、必然俺は悠真と唯音の勉強を見てる。


 唯音は小説家らしく現代文と古文は得意なのだが…それ以外が本当に壊滅的だ。


 対して悠真は全体的に得意な教科もないがきわめて点の悪いものもなといった感じである。


「いやーすげーわかりやすいぜ!ありがとな!」


「ここまで進級できたのは遥眞のおかげだよ~。ありがとう~。」


 なんか突然こいつらがごまをすり始めた。


「褒めても何も出ないぞ。何企んでるんだか…。」


「いやぁそのね、ちょっと宿題もついでに手伝ってほしいというかなんというか…。」


 しょうもないことだった。


 まあこいつらにとっては死活問題なんだろう。


「唯音は可愛いからいいけど、悠真はなぁ…。」


「そこを何とか!今度駅前のラーメンおごるから!」


「まあいいでしょう。」


 悠真とばかなやり取りをしてる間、唯音の反応が消失していたのでちらっと見てみると…顔を真っ赤にして口をパクパクさせながらこっちを見ていた。


 それを見た悠真は…。


「ははーん。」


 と言いながらにやにやしてて顔がうざかったので頭をはたいてやった。

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