第37話 おつかれ…えぇ?

 さて、話を整理しよう。


 こいつは与野ホールディングスの現当主(本人談)の与野秋帆。


 どうやら、亜美なんて目じゃないほどのヤンデレっぽい。


 それで暴走しかけたが、褒めておだてたら無邪気な子供のようになった。


 とりあえずこの暴走が結構やばかった。


 事の始まりは10年ちょっとさかのぼる。


 まだ、俺が父親についていってた頃だ。


 そのとき、パーティー会場かなんかで秋帆は俺に一目ぼれしたらしい。


 激甘な父親にねだれば何でも手に入ったころ、俺を所望したがさすがに無理だったそうで…。


 どう、俺を自分のものにするかとか考えていたらしい。


 怖いわ。


 で、俺の父親の弱みを握って俺を蔑ろにさせて、そこに天女の顔をした秋帆が優しくすることで心も体もゲット!


 そういう筋書きだったらしい。


 のに、唯音が出てきて俺は立ち直っちゃったしそのうえ俺が唯音に惚れててやばいと思った秋帆は今回の暴挙に出たらしい。


 なるほどねぇ…。


 とりあえず暴挙の内容がやばい。


 ま、まあこいつなりの愛情表現って考えればまだその怖くないうん。


 でもこれでいろいろな問題が一気に解決した。


 親父はどうやら演技してただけらしいし、なら別に下克上しなくてもいいや。


 ずっと胸につっかえていた問題が一気に解消してすごいすっきりした気分になる。


 何とか無事に家に帰ってこれた。


 行く時は結構いろんな覚悟してたんだけどそれもいらなくて本当に良かった。


 帰るときにお母さんと亜美に親父はもう大丈夫とだけ話してきた。


 二人とも喜んでるようだった。


 なんだか感慨深い気持ちでエレベーターに乗り部屋を目指す。


 ってあれ?


 なんか唯音が俺の家のインターホンを連打してる。


「おーい唯音どうした?」


「うにゃ!?あっ…は…遥眞!どっか行ってたの!?」


「お…おう。どうした?」


「その…これ見て…。」


 そう言って唯音が見せてきたのは…何かが暴れたとしか形容できないほど物が散乱した唯音の部屋だった。


「え?お前まさか…。」


「違うの!何もしてないのに…こうなってたの…。」


「え?」


 唯音が何もしてないとなると…空き巣とか?


 せっかく大きな問題が片付いたのにまた面倒が…。


「何か盗られたものとかある?」


「まだわからない…。」


「おおう。」


 とりあえず管理人さんに監視カメラ見せてもらうと案の定すごい怪しい三人組が…。


 でもどうやらここの住人ではなさそう。


 なんか見たことあるような雰囲気だ。


 いや…まさかな……。


 あそこまでして反省してないとか…。


 流石にそれはないか…。


「まあとりあえず被害届出しな…んん?鍵壊されてるやん。」


「そうなの…。」


「やべえなそれは…。」


 鍵壊れてると安心して生活できないだろう。


「今日はうちに泊まってく?」


 もう何回かお泊りしているので心理的ハードルは低い。


「うん…。そうしたい…。」


「わかった。」


 やっぱり鍵がかからない場所で寝るのは怖いらしい。


 念のため電気をつけたままにしておいた。


 もうご飯は食べたらしく、テレビを見ている。


 俺も今日は作る元気が出なかったのでカップ麺で済ませた。


『では次のニュースです。今東京では空き巣の被害が増えています。いずれも3人組の同一犯と見られています…』


 すごいタイミングだ。


 もしかして唯音もこの犯人達に狙われたのか…。


 見た感じ相当被害が大きそうだったけど…。


 隣を見ると蒼白な顔で俯く唯音の姿が…。


 思わず唯音の頭をよしよしとなでてしまった。


「ふにゃ!?は…遥眞?」


 構わずなでる。


 唯音も気持ち良くなってきたのか抵抗せずにされるがままの状態だ。


「大丈夫、大丈夫。」


「遥眞?私のこと子供扱いしてない?」


「まさか。気のせい。」


 お隣からいい匂いが…。


 変態とかじゃなく本当にいい匂いするんです。


 別に嗅ごうとしてるわけじゃあない。


 半強制的に鼻にきてるだけで…。


「唯音、夜も遅いしお風呂に入ってきなよ。」


「わかった…。」


 なにやら決意を感じさせる瞳で頷く唯音。


「ど、どうした?」


「なんでもないよ。」


 勝手知ってる俺の家、唯音は迷うことなくお風呂に向かう。


「遥眞、覗いちゃだめだからね?」


「な、なんで今更…。覗かないから安心しな。」


「う〜!そう言うことじゃないのに…。」


「なんやねん。のぞいてほしいってか?」


「は…遥眞のえっち…。」


「期待してる目で見るな!」


 唯音もだんだん元気が出てきたようだ…。


 一人になってようやく頭が働いてきた。


 関係者各位にお知らせしないとなぁ…。


 特に曳地さん。


 おそらく娘さん(異母妹)もこれで助かるだろう。


 よかったよかった。







 この時の俺はまだ知らなかった(当然)。


 まだこれが長い闘いの本の序の口にすぎないなんて…。


 

 ガチャ


「む〜!」


「どうした?」


「べっつに〜。」


 女の子はよくわからない。

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