第36話 展開が読めない…。

 西彦寺グループが展開するこの高級ホテル。


 荷物を一回家において、ボイスレコーダーとか仕込んでからここに来た。


 このホテルに来るのは久しぶりだ。


 大きな自動ドアを抜け、ふかふかのカーペットの上を歩く。


 ここに来いとは言われたけど何すればいいか何も聞いてないからとりあえず突っ立っていた。


「西彦寺遥眞様ですね?」


 不意に隣から声をかけられた。


 横を向くと…すごい執事って感じのおじさんが感情を排した目でこちらを見つめていた。


「そうですけど…。」


「こちらへ…。」


 エレベーターに乗り最上階へ。


 このホテルの最上階はスイートになっていて一部屋しかない。


(はあ…。めんどくさいな…。)


 やがてエレベーターが到着しゆっくりと扉が開いていく。


 すごい豪華なスイートの一番奥に一人の人影が…。


「やっぱりおまえだったんだな…。」


「あら。ばれてたの?サプライズしたかったのに…。」


「与野…秋帆…。」


「そんな怖い顔でにらまないでよ~。」


「なんだ…その…唯音の写真は…。」


「え?あぁこれね。こんなごみ、どうでもいい。」


 唯音の写真が見せしめのようにずたずたに裂かれていた。


「で、要件をさっさと終わらせてくれると助かるんだが。」


 内心は煮えたぎっていたが心に蓋をして話しかける。


「え~ゆっくりしていこうよ~。どうせ2時間後には私の飼い犬になってるんだから。」


「そののらりくらりとしたしゃべり方がうざいんだよ。」


「あせらないの~。焦ってもいいことないよ~。」


「それには同感だが別に焦ってるわけじゃない。めんどいから早く帰りたいだけなんだよ。」


「こんな美少女がこんなにエッチな姿してるのに早く帰りたいの~?」


「普通に制服着てるだけじゃないか。」


「まったく…ノリ悪いな~遥眞君は~。」


「要件話さないなら帰る。」


「ん~?遥眞君はそんなことできる立場かな~?」


「別に親父をだしにされようが俺は何も思わないからな。」


「勘違いしてるね~。あんなおっさんどうでもいいんだよね~。やっぱり遥眞君が一番従順になりそうなのって、ねぇ。」


「おまえ…まさか唯音に手ぇ出すつもりか?」


「にゃはははは。遥眞君こわ~い。」


 本当にイラつかせるやつだ。


「……お前の要求は何だ。」


「お、やっと話し合いに参加する気に?」


「茶化すな。唯音に手を出されたらかなわないからな。」


「むふふ~。唯音ちゃんには手は出さないよ~。遥眞君が私の従順なペットになってくれるならね~。」


「あ?ペットだあ?そんなもんペットショップにでも行って買って来いよ。」


「私がその気になったら唯音ちゃんを地獄のどん底に突き落とすこともできるんだよ?」

 

 一瞬殴りそうになったが、そんなことをしたらもれなくこいつのペットに成り下がりそうでやめた。


「なら、質問を変えようか。なんでそんなに俺に首輪をつけたがる?」


「別にそれ言う必要なくない?」


 空気が変わった。


 いままでのおちゃらけた雰囲気ではなく、突き刺すような冷気と重圧を感じる。


「ふん。まあいいだろう。お前の要求はとりあえず俺に首輪をつけたい。ならその見返りは?」


「ん?唯音ちゃんの安全じゃだめ?」


「論外。」


「それ、遥眞君がいえる立場じゃなくない?」


「そんなことよりおまえは誰だ?」


「え?与野秋帆…」


「ちげえよ。おまえはなんなんだ?」


「え?知りたい知りたい?なら交換条件でいいけど~?」


「なんだ。」


「もちろん私のペットになること!」


「理解に苦しむな。」


「だってだって…遥眞君全部完璧じゃん。そしてかっこいい上に同年代。そんな男の人ほしいのが普通じゃない?」


「欲しいってところが致命的に普通じゃない。」


「私のほうが昔から…遥眞君に目付けてたのに…あのぽっと出の機織唯音…。」


 だんだんわかってきた。


 こいつ…重度のこじらせ初恋ヤンデレ少女だ!


「おまえ……もしかして、現当主だったりするのか?」


「あの女…あの女…。ん?そうだよ~。」


 そのうえ精神的に相当不安定な感じだ。


 そう考えるとまったく怖くない。


 むしろ可愛いとさえ感じる。


「いいか、秋帆。」


「は…はい!」


「別にな恋しちゃダメなんて言ってないんだけど、やっぱり相手の人を縛ってるとかわいそうじゃない?」


「うん!」


「秋帆は好きな人の辛そうな顔を見たいの?」


「見たくない…。」


 こいつがM体質なのが助かったかも…。


「やっぱり好きな人の笑ってる顔が見たいよな。」


「うん!」


 そのうえ幼児退行を起こしている。


「じゃあ今の秋帆がやってることってどう?」


「よくない!」


「そうだな。正解だ。えらいぞ。」


「むふふふ。もっと撫でて~。」


 おそらく…こいつは…。


「別に学校で話しかけるなと言ってるわけじゃない。むしろ話しかけてこい。友達も増やせ。そうしたら毎日が楽しくなるから。」


「わかった!」


 家族にないがしろにされて家族愛に飢えていたって感じか?


 まあとりあえず一件落着かな?

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