第35話 戦いの兆し

「ね…ねえ西彦寺くん。」


「ん?」


「あの…機織さんと付き合ってるって本当なの?」


「え?なんで?いやまだ付き合えてるわけではないんだけども…。」


「あ、そうなんだ…。」


「お…おう…。」


 なんだなんだ?


「おい!遥眞!」


「ん?」


「お前これ見てないのか?」


 そう言って悠真が差し出してきたのは…校内新聞。


 うちの新聞部は…週刊誌の記者予備軍といっても過言ではないほどにスクープに貪欲で、なんていうか怖いくらいだ。


 その新聞の大見出しになんか唯音の名前があった気がして…よくよく見てみると…。


『大スクープ!我らがアイドル2年の機織唯音さんについに彼氏が!?お相手は同じクラスの西彦寺遥眞さん!』


 なんてこった。


 大スクープされてた上に、付き合ってないのに付き合ってることにされてる。


 まあこちらとしてはうれしくなくもないような気がするけど…。


 ただ、唯音としてはそんなにうれしくない…んんん?


 なんでだ?


 いつかの唯音とのデートの写真がある…。


 え?俺誰にも言ってないし、たぶん唯音もデートのこと誰にも言ってない。


 途中亜美たちに会ったりしたけど…たぶん亜美たちじゃない。


 え?


 ストーカー?


 すごい、隠し撮りみたいなアングルで撮られてるのでいやでも疑いが出てしまう。


 自意識過剰みたいだが、誰かのうすら寒い悪意に晒された気がしていやな気持ちになる。


「おーい遥眞?」


「ああ。ごめん。ちょっと考え事してた…。」


「なあなあ遥眞。これがち?」


「俺と唯音はまだ付き合ってないよ。でもここだけの話告ろうかな…とか考えてたりもする…。」


「お!まじ?その時は結果教えてくれよな!」


「まあいいけど…。」


 とりあえず隠すこともないけど写真については悠真たちには話さないことにした。


 やがて唯音がやってきたが…唯音も新聞を見たらしく少しこわばった顔でやってきた。


「唯音…。」


「うん…。」


 どうやらあっちも同じ結論に至ったようだ。


 とりあえずまだ実害はなさそうだから放置しよう。




~放課後~


 体育祭の練習やらなんやらががあって非常に疲れた。


 みんなが部活に行ったり帰ったりする中俺は教室でだらだら携帯をいじっていた。


(さて帰るか…。)


 立ち上がったすきに机に足をぶつけて机が倒れて中身が散乱する。


(やっちまった……。ん?)


 散らばる教科書やノートの中に見慣れない手紙みたいのが…。


(なんだこれ?)


『オマエノチチオヤノアクジヲセケンニバラサレタクナカッタライマスグココニコラレタシ』


 何かの暗号……?


 よくよく見ると『お前の父親の悪事を世間にばらされたくなかったら今すぐここに来られたし』って書いてある。


 え、こわ。


 突っ込みどころ満載なのだがとりあえず怖い。


 まず別に父親の悪事ばらされても…困らないことはないと思うけど別にばらしたきゃばらせばいいと思う。


 つぎに・・・ここってどこだよ!


 こことしか書かれておらず…場所がわからない。


 恐怖は大きかったが、俺の心は凪いでいた。


 すると突然開いていた窓から紙飛行機が…。


 もうビンビンに怪しい。


 しかもこの紙飛行機……犯人はこの学校の生徒ってほぼ断定できちゃうじゃん。


 ここは3階なので下からじゃ到底届かないのだ。


 つまり、この学校の3階か4階からしか紙飛行機は入ってこないのだ。


 そのうえ、俺の親父が西彦寺グループ総帥あいつってことを知ってる奴なんて、唯音達を除けばあの人しかいない。


 どうせ朝の新聞の写真もその人だろうな…。


 四階に行って確かめてもいいが…今吹部とかがいて多分見つけられないだろうな…。


 紙飛行機を開くと地図が乗っていてに〇が付いていた。


 宣戦布告の腹積もりか、西彦寺グループが展開するホテルだった。


 まったく、こんないたいけな高校生をそこまでして闇に引きずり込みたいかな。


 さっさと終わらせて寝たいな…。


 もうすでに相手に対する恐怖はなくなっていた。


 この間のデートでこっそりとった唯音の写真で気持ちを奮い立たせて歩き始めた。




~ホテル内にて…~


「ようやく、ようやく手に入る…。待っててね…。遥眞君…。」


 その人影は手に持った写真を破り捨てるともう一枚あった写真にキスをしてそっとテーブルの上に置き静かに部屋を出て行った。

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