第38話体育祭①(悠真の弱点は…)
どどーん。ぱんぱーん。
体育祭の開始を告げる控えめな花火の音が響き渡る。
グラウンドは熱気に満ちていて皆の顔には活気があふれてるようだ。
「いやー遥眞!体育祭楽しいな!」
そういう悠真の顔も晴れやかだ。
「…亜美と一緒に入れるからってテンション高いな…。」
「なはは!」
唯音が空き巣被害にあってから二日。
鍵の修理業者も呼び唯音は自分の部屋に戻った。
唯音が帰った時はなんか喪失感が大きくて自分でも戸惑った。
もう自分の気持ちは隠せないけど、でも告白と化する勇気が出ない。
あっちから告ってくれるんじゃ?とか都合のいいことを考えながらひたすら待ちに徹していた。
我ながら小心者だ。
そんな葛藤があった翌々日、わが校の体育祭の日である。
この学校は体育祭にも力を入れていて結構規模が大きい体育祭になっている。
競技に出ること、競技場内に立ち入らないことさえ守れば何でもありって感じだ。
そのため、暁人は千春とイチャイチャ見てるし、悠真は委員の仕事をしつつ亜美と仲良く見てるしで俺は独り身だった。
唯音を誘おうにも、彼女は普通に人気者なので俺が入り込む余地がなかった。
「ねえねえ遥眞君!一緒に見ない?」
そんなときに誘ってくれたのは秋帆であった。
あの日からはじめて会うけど何の気負いも感じさせない態度であった。
「あ、ああ。見よう…。」
二人より添って行われてる競技を見る。
「遥眞君はさ、なんでそんなにお人好しなの?」
「え?お人好し?」
「うん。だって、ひどいことした私にも優しくしてくれるじゃん。」
「ん~俺としては別段お人好しってわけでもないと思うけど…。」
「けど?」
「でも、ひとに優しくありたいとはおもってる。」
「そのさ、理由が何だか聞いてもいい?」
「理由、か。」
「うん。」
「なんかさ、俺が小っちゃいころによく遊んでた女の子がいたんだ。」
「うん。」
「その子とさ、本当に些細なことで喧嘩してそれっきり。あのときこうすればよかったって後悔があったんだ。だからかな…?」
「…。」
「なんか陳腐でごめん。」
「ううん。そんなことないよ。話してくれてありがとう。」
「お…おう。あ。」
自分語りしてたら忍び寄っていた陰に気が付かなかった。
「遥眞?ずいぶんと与野さんと仲がよさそうだね?」
「い…いやこれは…んむ?」
「そうなの。私たち仲がいいんだ~。」
「ふ~ん。わたし、与野さんには聞いてないけど?」
「あっ。ごっめーん。なんか私たちの仲を嫉妬してるのかな~って思って牽制しちゃった。」
「へ~。牽制しなきゃいけないなんて大変だね~。」
世にも恐ろしい戦いが勃発した。
俺にはとてもとても止められない。
片や獲物に襲い掛かる虎のように無慈悲な眼光を放つ秋帆。
片や生き物の帝王たる龍のように泰然自若と構える唯音。
俺はその二匹の争いに巻き込まれた兎みたいなものだ。
こそーっとここを離れて、逃げる。
逃げた先には…暁人と千春が…。
本当に人目を気にせずいちゃついてるので胸焼けしてしまいそうだ。
どうにも気まずくなってそこも逃げ出したのだが…逃げ出した先にいるのがこれまたいちゃついてる亜美と悠真が…。
仕方なく離れようとするも…亜美に捕捉された。
「お兄ちゃん!聞いて聞いて!私ね、悠真先輩と付き合うことにしたんだ!」
「お、おうよかったね。じゃあ。」
がしっ。
「なんだよ…。」
亜美だけじゃなく悠真も俺の腕を浮かんできた。
「なあ遥眞。おまえ友達だよな?」
「そうだけど…。」
「俺の母ちゃんが亜美ちゃん連れて来いってうるさくて。」
「ならつれてけば?」
「連れてったら絶対母ちゃんに絡まれるよ亜美ちゃん。」
「そうだな。お前の母さんテンション高いもんな。」
「だからさぁお前もついてきてくんね?」
「なんでやねん!なんでわざわざデートについていかなあかん!あれか?見せつけてんのか?あ?」
思わず興奮してしまった。
「そうだよな…。でも亜美可愛いから絶対母ちゃん興奮するんだよなあ。」
あれっすか?
相談風自慢ですか?
惚気てるんですか?
焼いてもいいですか?
そんな気持ちを込めて悠真の脇腹をくすぐった。
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!やめろ!ヒャヒャヒャくすぐってえって!」
悠真はくすぐりにめっぽう弱いのだ。
「そんなん亜美の意思確認してから連れて行きゃいいだろ!亜美は行きたいの?」
「行きたい!」
「ならそれでいいやんけ!」
「言われてみれば!ありがとな遥眞!」
「おうともよ。……お前らどこまで行ったの?」
「あー気になっちゃう?」
「なんかうざいからいいや。ばいばい。」
「あー遥眞ー!待てって!」
体育祭もこいつらとの日々も楽しいなぁ。
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