第13話 オリエンテーション旅行③
(肝試し~肝試し~肝肝だめだめ肝試し~。)
さて皆さんに問題です。
俺はなぜこんなにご機嫌なんでしょう?
答えはCMの後でなんて言わずに今出します。
正解は…肝試しがもともと好きだっていうのと女子と二人で行くゆえにその…ラッキーな何とかも起こる可能性があるからです。
と、非常に煩悩にまみれたことを考えながら俺は肝試しのコースに目をやる。
この学校はこういう行事に信じられないほど力を入れているためこの肝試しも相当凝っているそうだ。
さっきから悲鳴が響き渡っている。
(いやあ本当に肝試し楽しみだなあ…。)
「遥眞!さっきからご機嫌だな!そんなに唯音とペアだったのがうれしいのか?」
さっきから肝試しのことしか考えられ無くて頭の回ってなかった俺は悠真の質問に変な答え方をしてしまった。
「うん!めっちゃ楽しみ!」
傍から見れば唯音への愛を叫んでるように見えただろう
「ほほー…。そこまで言うとは…。お姉ちゃん見くびってたわ…。」
「遥眞…お前男だな!」
「遥眞も成長したなぁ…。」
そして唯音といえば…。
「ふぇ!?は…遥眞!?そ…その楽しみってどういう…?」
顔を赤くしてわたわたしていた。
俺は自分が何言ったか気づいてなかったので、みんなが変な反応していることをすごい疑問に思った。
「皆どうしたの…?」
と、そこに先生の号令が入る。
「おーいD組そろそろだからペア順に並べー。」
悲嘆の声を上げるものと楽しそうに叫ぶものとで阿鼻叫喚状態になっていた。
「遥眞…?その…抱きついちゃったりしちゃったらごめん…。私…怖いのちょっと苦手で…。」
いつもはぽわぽわしている唯音も真剣な声で、悲壮な決意を決めていた。
「おーしじゃあ6番ペア行ってこい!」
俺にとっては解放宣言唯音にとっては死刑宣告の言葉が響く。
「ほら唯音行くぞ。」
「ま…待って…。おいてかないで…。」
「そんなに怖がらなくても大丈夫やて。」
「で…でも…。」
「そんなに怖いなら手ぇ繋いどくか?」
俺はこれを唯音の緊張をほぐすために言ったんです。
決してやましい気持ちがないとは言わないけど少なかったんです。
本当だからね???
そしたら唯音が…おずおずと俺の左手を握ってきた。
(にゃんじゃと!?冗談のつもりだったのに…。)
だがここでその冗談でした…みたいなこと言ったらもうそいつは社会的に生きていけなくなってしまう。
ゆえに仕方なく本当に仕方なく唯音の小さな手を握り返した。
(すげえええええ!女子の手って柔らけえよ…。)
まあ正直2,3日に一回この人の下着を見せられてる身としてはそれ以上の興奮はやってこなかったものの、女子と人生初手をつないだこの日のことを俺は永遠に忘れないだろう。
忘れるかもしれんが…。
肝試しのコースは大きく分けてうっそうとした森林ゾーンと自然の家の裏手の廃墟みたいな倉庫ゾーンがある。
田舎のほうなので星がきれいである。
「ほら唯音星がきれいだぞ。」
そう声をかけても俺の左腕にほぼ抱き着いた状態でプルプル震えている。
その…何がとは言わないが当たってたりもする。
しかしめっちゃ怖がっている唯音の姿があまりにもかわいそうだったのでいい気分とかになったりはしなかった。
「そんなに怖いなら戻ってリタイアすっか?」
「い…いやそれはいや…。」
「そ…そうか…。やめたいときにやめたいって言えよ?」
こくっこくっ
唯音の小さなうなずきが返ってきた。
と、次の瞬間。
右の茂みから、だれか出てきた(俺の主観)。
右の茂みから、この世のものとは思えないおぞましい音を出しながら悪魔のようなものが躍り出てきた(唯音の主観)。
二人の認識には若干ではない齟齬があるものの悪魔のコスプレをした音楽教師の
「二人ともあんまりいちゃいちゃしてると食べちゃうぞー!」
セリフに魂がこもってたのは気のせいだろうか。
「斉木先生…。悪魔のコスプレって…。いくら行き遅れそうだからって…。」
そこまで言ったら本当に人を殺しそうな視線をした先生と目が合った。
「は…ははっ…。じ…冗談ですよ…。先生おきれいですから…。」
「命拾いしたわね。それよりも唯音ちゃん大丈夫?」
隣を見ると地面にへたり込んでる唯音がいた。
「唯音…もしかしなくても腰抜かしちゃった?」
「あ…。あ…。」
「唯音戻ってこーい!おーいおーい。」
魂の抜けたような顔でへたり込んでる唯音。
どうにかしようととりあえず唯音の頭を撫でてみる。
「ほ~らこわくない~こわくない~。」
その甲斐もあってかだんだん再起動し始める唯音。
「ふぇ!?わ…私…い…いやあの悪魔は…?」
「悪魔なんてもういないよ。ほら次行こう。もしくはやめとく?」
「い…いや行く…。」
そういうと唯音は俺の左腕に縋り付きながら恐る恐る歩き出した。
さっきから唯音が可愛すぎである。
が、それを言うのはまだ恥ずかしいというかなんて言うか。
上を見上げるとやはり星がきれいであった。
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