第28話 あ、あるぇ?
きーんこーんかーんこーん。
鐘の音が響き渡り、一斉に紙をめくる音とシャーペンを走らす音が聞こえてくる。
今は模試のお時間である。
俺は今回の模試で絶対に全国一桁台に乗らなければならない。
いずれグループを乗っ取った時に、文句の言われないようにだ。
1教科目は数学だ。
数学は5科の中では一番苦手なのだが今回の手ごたえは結構上々だった。
社会系と理科と国語はもうそれはそれは得意なので何の問題もない。
英語に関しては、ちょっとリスニングで躓いてしまったものの何とかなった。
ただ、なんか今日はこころが浮足立っている。
それはなぜか。
実は朝、下駄箱に手紙が入っていたのだ。
『今日のテストが終わった後、屋上に来てください』
これはもうあれでしょ、告白でしょ。
そんな感じでテストには影響なかったと信じたいが、俺の心はもう屋上へと飛び立っていた。
まあそりゃ人生初告られとか寝れなくなってもおかしくないのだ。
「遥眞かえろーぜ!」
遥眞が誘ってくるが…。
「悪い。今日はちょっと用事があってだな…。」
「そっかー。残念。じゃあなー!」
屋上へと向かい際、なんか唯音の不安そうな顔が頭をよぎったが、それもこれからのイベントで忘れた。
はやる気持ちを抑えて、スマートそうな顔を作りながら(できてないかもしれないが)階段を上る。
屋上の扉を開けると…そこには、えーとたしか5組の与野さん。
同じクラスになったことはなく苗字しか知らないけれど…。
性格とかもわからんが、見た目はお姉さんって感じの美人…んん?
なんかすごい既視感が…。
ただどこで見たかは思い出せない。
「西彦寺くん。来てくれてありがとう。」
「はぁ。それで、何の用だ?」
「え…えっと…。」
なんだか息が苦しくなってきた。
ものすごい緊張感である。
告白されるのはうれしいが…まあ返事は決まってる。
「まずは!お…お友達からで…!」
「は?」
あ…あるぇ?
こういうときって告白じゃないの!?
詳しく話を聞いてみるとこうだった。
彼女は与野秋帆。
聞いて驚け、彼女はあの父親が提示してきた結婚相手だった。
彼女の家は西彦寺グループと対をなす巨大企業与野ホールディングスであり、彼女が彼氏ほしいわ~って呟いたら重度の親ばかだった父親が先走って俺との婚約までこぎつけたそうだ。
なんてアグレッシブな父親だろう。
既視感とはこういうことだったのか…。
一回写真見せられたからだ…。
相手を知らされたとき、同じ学校の俺だということがわかり、なんだか申し訳なくなってきて呼んだ。
そういう話だった。
だけどここから運命の歯車が回りだす。
どうやら、与野さん…さっき秋帆って呼べって言われた…はまんざらでもないそうでとりあえずお友達になりたいなあってことになったそうだ。
すごい、好きな人いるって言いづらい空気だ。
「でもさー遥眞くん好きな人いるんでしょー。」
「ほえ?えええええええええ?」
「そんな驚かないの。オリエンテーション旅行の時からバレバレだったじゃない。」
「あっさいですか。」
いつの間にか呼び方が遥眞君になっているが…まあいいでしょう。
しかし、旅行の時にそんなにばれてたとは…はずかしい…。
「だからね、私はとりあえずただの友達として遥眞君を助けるよ。まず、わたしのお父さんにちゃんと話してみるからね。」
どうやら秋帆はこちらの事情もある程度わかってるようだ。
流石大企業の娘といったところか。
なんか俺の意見も聞かずに話を進めるその実行力もすごい。
まあ俺と考えてることが同じだったので言えなかったというのが本音だが。
なんか結構頭を悩ませていた結婚の件がすんなり解決して拍子抜けだ。
とりあえず、秋帆とSINEを交換して今日はお開きになった。
(はあ…。なんか疲れたな…。ん?)
校門を出る直前なんか視線を感じた。
あたりを見渡すと…なんとなんと唯音がこっちをじとーっと見ていた。
「おわあ!唯音いたのか。なんで帰ってないんだ?」
「遥眞と一緒に帰ろうと思って。だめだった?」
「いやいいけど…。」
なんか心持ち顔が膨らんでる気がする。
まあ気のせいだということにして、唯音と一緒に帰る。
「遥眞って本当に彼女とかいないんだよね?」
「いないよ、できたこともない。」
そういうとなんか雰囲気が柔らかくなった…気がする。
ちょっと夜ご飯の材料が心もとなかったので唯音を伴いスーパーによる。
「今度作ってほしいのとかある?なんでもいいけど。」
「ん~?じゃあすき焼き!」
「暑いのにすき焼きたべるん?まあいいけど…。」
「わーい!」
子供のようにはしゃぐ唯音。
マンションにつき、そんな唯音と別れて部屋に入ると…亜美がいた。
「お前また来たのかよ…。」
「お帰りー!やっと帰ってきた!」
「何のようだよ、」
「お兄ちゃんに聞きたいことがあって」
「はぁ…聞いたら帰れよ」
「お兄ちゃんって唯音先輩と付き合ったりしないの?」
「あ?え?な、なんで?」
「だって2人でデートとかしてるくらいだし!」
「あーとな…。」
夜はまだ長そうだった。
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