第11話 オリエンテーション旅行①

「ひゃっほーい!山だぜー!」


 悠真の元気な声が響く。


 周りには呆れた顔をしている千春、暁人、唯音の顔も見られる。


 周囲を見渡せば自然が織りなす雄大な景色、空気はおいしくマイナスイオンも感じられる。


 そう俺たちは今、オリエンテーション旅行で静岡県のとある山に来ているのだ。


「おい、お前ら!元気ねえな!ほらもっと元気出せよ!」


「あんたが元気すぎてお姉ちゃんたちの活力が吸収されてるのよ…。」


 疲れた顔で千春が言う。


「だってテンション上がるだろ!こんな景色いいんだからさ!」


「おい、野坂うるせーぞ。」


「す、すいません。」


 しまいには先生にまで注意されてる。


 だが、気持ちはわからなくもない。


 この開放感あふれる景色に囲まれるとテンションが上がるのはみんな一緒である。


 だからこそ危険な時もあるのだが…。


「じゃあまず、荷物を割り振られた部屋においてから……」


 先生の話を聞きながら俺はあの日以来絡んでくる不良3人組の顔を思い浮かべようとした。


(あれ!?あんなに絡んできたのにあいつらの顔が思い出せない!?)


 事件である。


 一日に複数回因縁つけてきたのに顔も思い出されないとかあまりにもかわいそうである。


 その3分後には思い出そうとしたことも忘れて部屋で悠真とはしゃいでいた。


(なんか忘れてるような…まあいっか!)


「遥眞ーこの後何するんだっけ?」


「えーと昼ご飯食べてからハイキングしてそのあと夜にバーベキューだった気がす…。」


「おっけー!バーベキュー楽しみだなあー!」


 本日の昼ご飯はカレーである。


 実は俺あまり好き嫌いないのだが、この世で福神漬けとオクラだけが何をしても食べられない…。


「おい悠真…。福神漬け頼む…。」


「あ、そっか。おまえ福神漬け無理だったな。いいぜ!」


「すまん…。」


 福神漬けを悠真に押し付け…もとい託してすっきりする。


 福神漬けなんで毎回カレーに入ってるの事件こそあったもののその後はつつがなく昼食を終えることができた。


(福神漬けとかほんとに要らない…。)


「よーし!ハイキングじゃ!で、遥眞さん?何するんでしたっけ?」


「まったくお前は…。確か山の上にあるセーブポイントでハンコもらって降りてくるだった気がする。」


「なるへそねー!じゃあ行こうぜ!」


 この自然豊かな山を自然を感じながら登るというのが今回のハイキングの趣旨らしい。


「おー見ろ!あそこに湧水が!」


「なあなあ遥眞!見たこともねえ虫いるぜ!」


「あの木、形が変だな!」


 さっきから自然じゃなくて悠真しか感じられないのは気のせいだろうか。


「やっと頂上についたー!」


 悠真の言うことに相槌うったりしているうちに自然を感じる暇もなく頂上についてしまった。


 だがやはり、森林などの自然の中を歩くということは気分のリフレッシュにもなるので、行きと比べても気分がいい。


 帰りはみんなと雑談しながら自然を感じることができた。


「この次はバーベキューか!遥眞に任せとけばめっちゃうまいやつ作ってくれるだろう!ということで遥眞!頼む!」


「へいへい。じゃあ悠真にはパプリカだけあげる。」


「肉も、肉も頂戴よ~。」


「前向きに考慮しといてあげるよ。」


「頼んだからな!」


 暁人と千春は終始イチャイチャしててそれを見て少しイラっとしたのは内緒である。


 夜、外にて、結構大掛かりな装備の元バーベキューが始まる。


 前方のステージでは有志による出し物が行われていて、現在悠真が同じ部活の友達とコントを行っている。


 が、絶妙につまらない。


 なんというかすごいつまらないわけでもないのに面白くもなく一番見る気がなくなる面白さであった。


 後は歌を歌う人が現れたり、ダンスしてたり、挙句の果てに告白大会まで開かれた。


 告白大会に出たのは5人だったが全員振られていた…唯音に…。


 そう、全員唯音に告ったのである。


 唯音は個人的に見ても世間一般的にもとてもかわいい…。


 何やら最近はファンクラブまでできたらしい。


 何が言いたいかというとめっちゃモテるのである。


 俺が聞いただけでも40人は振ってるらしい…高校だけで…。


 告ったことも告られたこともない俺には到底わからぬ話ではある。


 おそらく、俺が誰かに告られたら、相当に性格に難があるとかじゃなければうれしすぎてだれでもオッケーしそうである。


 話を唯音の告白祭に戻そう。


 中にはサッカー部の超イケメンもいた。


 俺は唯音が告られたときはとてももやっとしたし唯音が振った時はスカッとした。


 世間の人たちはこんな状態のことを恋しているというのかもしれないが…恋愛経験のない俺にはこの感情が何なのかわからなかった。


 俺がこの感情に気付くのはもう少し先の話であった。

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