第10話 あ…亜美さん…?

 この学校の新入生歓迎会の司会進行は結構大役である。


 というのも、この学校大学付属としてエスカレーター進学できるので

行事に力を注いでいるからだ。


 もちろんそれは新入生歓迎会も然りである。


 舞台裏にいる俺はそんなことを考えながら横にある鏡をちらっと見た。


 その鏡には……中性的な顔立ちのが映っていた…。


(どうしてこうなった…。)





 悠真を誘うことのできた翌日先生に報告しに行った。


 先生はあとは任せるの一点張りではあったが断られるよりはましである。


 次にじゃあどういう風に司会するかということが話題に上った。


 ここで悠真のミラクル発想力が火を吹いた。


「あ、じゃあ、遥眞に女装させてみれば?」


 当然のごとく、却下しようとしたのだがここにいるのは発案者の悠真と悪ノリ女王の先生である。


「西彦寺、民主主義の基本の多数決だからな。あきらめろ。」


 そうこうしてあれよあれよという間に女装が決定していた。


 以上が経緯である。


 女装用の道具を持ってないから断ろうとしたのだが翌日俺の机の上にこんもりと女装用道具が乗っていた。


 どうやらクラス全員から道具を徴収したらしい。


 徴収というか皆我先に提供していったそうだ。


(なんでそんなに女装させたいねん…。)


 もともと中性的な顔立ちと線の細い体格が女装に拍車をかけて本当にイケメン女性みたいになってしまった。


 


 まず、吹奏楽部の演奏とダンス部のダンスで新入生歓迎会は幕を開ける。


 吹部の圧巻なパフォーマンスとダンス部の息の合ったダンスは新入生の心をつかむことに成功したようだ。


 ここで、俺と悠真が舞台中央に出る。


「はーい!吹部とダンス部の皆さんありがとうございましたー!」


 悠真が話している間、たくさんの男子からの視線を感じる。


(おい、男子諸君!俺男だからな?わかってるよな?俺男だからな!?)


「そして~本日司会を務めるもう一人は~この人だー!西彦寺遥眞!」


「今日の新入生歓迎会の司会を務めさせていただく西彦寺遥眞です。よろしくお願いします。」

 

 俺の声は男子の中では結構高いほうなので声が低い女子で通すことも可能なのである。


 きれいな所作でぺこりとお辞儀をする。


 その瞬間とある一か所からものすごい圧の視線を感じた。


 そこを見ると……鬼の形相(に見えた)をした亜美がいた。


 そこから会が終わるまでの2時間、視線が絶えることはなかった…。


 ちなみに名前を言っても俺が男だと気づく人はだいぶ少なかったらしく会が終わった後チャラそうな見た目をした男子生徒からナンパされた…。


 真実を言った後の男子生徒の反応は驚きつつも笑って受け入れてくれた男子聖徒と、言った後でもそんな目で見てくる男子性徒に分かれていた。


 この精神的に疲れる大役を演じきった俺は先生にギャラを要求するつもりであった。(本当に)


 会も終わり後処理も終わったので帰ろうとしたときに悠真にカラオケに誘われた。


「なあなあ遥眞!この後カラオケに行かね?」


「ほかに誰かいるのか?」


「誰もいないぞ!」


「じゃあ行こうかな…。」


「よっし、やりい!」


 悠真に半ば引きずられるように校門を出るとき悠真に捕まってないほうの腕をガシッと捕まえられた。


 驚いてそちらを見ると…般若がいた。


「お兄ちゃんー?ねえねえなんで女装してたのかなー?前に女装したとき攫われかけたからもう二度としないって約束したよね?しかもあんな可愛いお兄ちゃんをほかの子にも見せて!めっでしょ!」


「いやー…仰ることはごもっともなのですがクラスメイトの圧がすごくて…。」


 独占欲の塊である。


 おそらく昔さらわれた云々は怒ってる理由の一割にも満たず、九割がた独占欲が怒ってる理由になるのだろう…。


 だが、こうなった時の亜美は言葉に表せないほどめんどい。


 ヤンデレレベルでめんどい。


 というかもはやヤンデレである。


 これを俺はブラック亜美と呼んでいる。


(ダサいとかは言わないでくれ…。これが一番亜美を形容できてるんだ…。)


 故に亜美の言葉を全肯定するに限るのだ。


「あ…亜美ちゃん…?」


 亜美の病のオーラを感じたのか恐る恐る悠真が声をかける。


「あ、悠真さんこんにちは!そういえば悠真さん今日の司会かっこよかったですよ。後面白かったです。ところで、何されてたんですか?」


「ありがとう…。実はこの後遥眞とカラオケに行こうかなって…。」


「わあ!いいじゃないですか私もカラオケ行きたいです!」


「は…遥眞どうする…?」


 悠真は俺に伺いを立ててくるが全肯定botと化した俺には了承するしか選択肢がなかった。


「じ…じゃあ亜美ちゃんも一緒に行こうか…。駅前のカラオケだけどいい?」


「もちろんです!」


「な…なら出発。」


 さっきのブラック亜美がまだ怖いのか悠真はおびえている。


「ほらお兄ちゃん!早くいくよ!」


 俺は急かされるまま悠真と亜美の後ろについていくのであった。


(ブラック亜美怖い…。)

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