第15話 オリエンテーション旅行⑤

 唯音を背負って自然の家の前の広場へと向かう。


 いろいろ当たってる気がするが俺は星の数を数えることによりその感触を遮断していた。


 正直俺の鉄の意志をだれか褒めてくれていいと思う。


 そんな葛藤をしていることを知ってか知らずか唯音はさらに体を密着させてくる。


(くっ…。誰か俺を殺してくれ…。)


 やがて広場のキャンプファイヤーが見えてきた。


 やっぱり恥ずかしかったのか唯音は顔を赤くしながら俺の背から降りる。


「遥眞…。ありがとう…。」


 羞恥心や恐怖心が残ってるのかまだ唯音の口調は神妙だ。


「おうよ。じゃあとっとと戻ろうぜ。」


 いまだに大きく燃えているキャンプファイヤーに向けて歩を進める。


 後ろについてくる唯音は一言も発さない・


「おー遥眞戻ってきた!」


 ずっと周りをきょろきょろしていた悠真がこちらをいち早く見つけ無邪気な笑顔で駆け寄ってくる。


「なんでそんなに遅かったんだよ~!」


 さて、この質問にはどう答えるべきか…。


 唯音のほうを見ると小さくフルフルと頭を振っていた。


「いや、ちょっと途中で転んじまって…。」


「まじ!?遥眞はドジだなあ。」


「ドジですんませんね。」


 唯音のメッセージを受信できた俺は唯音をかばう。


「唯音?おーい生きてるかー?」


 悠真は唯音にも声をかけてるが、当の唯音はなんかこっちを見ながらぼーっとしている。


「唯音?そんなにこっち見て俺の顔になんかついてる?」


 今俺の顔を凝視してたことに気付いたらしい唯音は顔を赤くしながらプルプルと顔を振っている。


「まあいいや、こっから風呂入ってそんまま就寝だってよ。」


 何かを察したらしい悠真が強引に話を打ち切り今後の予定を話し出す。


「わかった。じゃあとりあえず部屋戻るか。あれ?暁人は?」


「あー暁人はあっちで千春とイチャイチャしてる。」


 なんともうらやましい限りだ。


「じゃ置いてくか。よし悠真帰るぞ。」


「へいへーい。あ、やべ!ランク戦の時間だ。」


 実は悠真はとあるゲームの最上位ランカーなのである。


 部活とゲームのランク戦で忙しい彼は千春並みに成績が悪かったりする。


「ゲームもいいけど勉強しろよ。お前やばいんだから。」


「なんでえ。お前もうちの母親みたいなこと言い始めるのか…。」


 悠真を連れて部屋に戻る。


「じゃあ唯音お休み。寒くならないうちに部屋に戻りなよ。」


「う…うん。悠真も…遥眞もお休み~。」


 ようやくいつもの調子が戻ってきたらしい唯音はそういうと千春ともう一人のルームメイトを探しに歩いて行った。


「なあ遥眞。」


「ん?」


「おまえってさ、好きな人とかいないの?」


「え?いないと思うけど。」


「彼女とかも?」


「今までで一回もいたことねえわ!年齢=彼女いない歴ですけど何か!?」


「そうなんだなー!遥眞モテそうなのに…。」


「モテたことないわ!なんでお前はそう人の心抉りに来るんじゃ!」


「なははっ。すまんすまん。」


「まあいいけどさ。」


 いや俺だって彼女とかほしいよ?


 でもいろいろあって忙しいからできないだけなんですぅ。


 ガチだょ?



~その日の夜 唯音たちの部屋~


「千春さー暁人君とどこまで進んだの?」


 乙女の秘密の会合の火蓋を切ったのは千春と唯音のルームメイトの佐々木麗奈ささきれなだ。


「えぇー。内緒ー。それよりもさ麗奈と唯音にそういう話無いの?」


「私は、ねえ。ないけどねえ。唯音は?」


 話を振られた唯音はぽーっとどこかを見つめていた。


「唯音?どうしたの?}


「んあっ?な…何でもないヨ~あはは…。でなんだっけ~?」


「おーっと?怪しい反応だあ!唯音もしかして好きな人できた?」


「にゃ!?そ…そんにゃ人いないよ…。」


「なんでそんなに驚いてんの?もしかしてマジ!?だれ?だれなんじゃ?」


「あの唯音にやっと好きな人が…。お姉ちゃんうれしいよ…。」


 唯音の反応を見て千春と麗奈は興奮していく。


「その…笑わないで聞いてくれる…?」


 押しに弱い唯音は白状してしまった。


「実は最近…遥眞のこと見ると…なんか体が熱くなって…つい見とれちゃうの…。」


「そそそそれって恋じゃないすか姉御!それにしてもあの西彦寺かー。」


「え?あのって何?」


 動揺したのか今までの幸せそうな表情から一転無表情になる唯音。


「え?西彦寺普通に女子に人気だからさ。だってあそこの天堂と野坂と西彦寺普通に優良物件じゃん。」


「あーくんはお姉ちゃんのだからね?」


「はいはい。で、野坂はまだおちゃらけてて話しやすいけど西彦寺はなんというか周囲に壁があるっていうか話しかけづらいじゃん。だから話しかけるのを躊躇してる人たちがいるんだけど。話しやすいってわかったら一気に人気が爆発するだろうね。」


 そこまで聞いた唯音の顔は真っ青になっていた。


「そんな…。遥眞が人気だなんて…。ど…どうしよう私に勝ち目あるかなあ…?」


「なんでそんなに卑屈になってんの。唯音は可愛いよ。何なら最近話題の『星栄三大美人』の一人だし。」


「なにそれ?初めて聞いた!お姉ちゃんにもっと詳しく!」


「えーとね、機織唯音と、天川千春と、あと一年の西彦寺亜美って子が三大美人。二人ここにいるし亜美って子たぶん西彦寺の妹だよね。」


「お…お姉ちゃんも入ってるの!?」


「あたりまえでしょうが!そんなにかわいい顔して!」


「にゃはは!こんどあーくんに言ったらどうなるかな?」


「と、このように唯音はめっちゃ可愛いからたぶん勝てるよ西彦寺レースに!」


 しかし、ここまで何の反応もしなかった唯音はというと。


「遥眞が人気…。遥眞が人気…。私負けちゃう…。勝たないと…。」


 と、うわごとのように言っていた。


「これは重症だな…。じ、じゃあ唯音私たちが手伝ってあげるからさ!頑張って告ってみなよ西彦寺に!きっと成功するって!」


「麗奈ちゃん…。」


「そうそう。お姉ちゃんも助けてあげるから元気出して!」


「千春…。」


「だから頑張って!」


「うん!ありがとう~私がんばる~!」


「それでこそ唯音だよ!」


 と、このように乙女たちは結束しながら夜を明かしていく…。


~遥眞~


「はっくちゅん!だれか噂してるかも…。」

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