第17話 オリエンテーション旅行⑦

 えー現在私たちは宿泊施設の近くにある牧場にきております。


 空は快晴、雲一つない天気であります。


 目の前には厩舎がございまして牛たちがたくさんいます。


 思わず実況風になってしまったがここの牧場はものすごく大きい牧場であり、とにかくたくさんの動物たちがいた。


 そして今は牛の乳しぼり体験を行っている。


 牛の乳しぼりっていうのは結構力が必要で意外に大変な作業である。


 乳しぼり以外にも、乗馬体験をしたり(馬の背は結構高くて怖い)、ヒヨコを触ってみたり(めっちゃ可愛いけどついばまれて痛い)、濃密な3時間を過ごすことができた。


 しかもここで、新鮮なミルクをつかったとてもおいしいソフトクリームを食べることができたからなおさらだ。


(あのアイス…とてもおいしかったなあ…。もう1個食べたかった…。)


 未練たらたらなのは仕方ないうまかったんだから!


「おーしじゃあ帰るからバスのってけー。」


 アイスへ思いを馳せていたが先生の声で急に現実に引き戻された。


(くっ…アイス・・・。)


「おーい遥眞ー?はよ行くぞー?」


 悠真にもせっつかれたので渋々バスに乗る。


 俺の席に行くと隣にいたのは悠真ではなく唯音だった。


「あれ?俺、席間違えてたっけ?あっそっか。唯音と悠真席変わってたのか!」


「は…遥眞…。」


「ん?なんだ?悠真と佐々木さんうまくいくといいな!」


「う…うん…そうだね…。」


「よーしじゃあとなり失礼しまーす。」


 唯音は窓側に座り俺は通路側に座る。


「ね…ねえ遥眞~。」


 無理やりいつも通りの調子にしたような声で唯音が問う。


「遥眞ってさ~その…か…彼女とかいたりするの~?」


「いるわけないじゃん。というか彼女いない歴=年齢の人だぞ俺。」


「あ…そうなの?なら…好きな人とかはいる~?」


「ん~今いないなあ。なんでそんなこと聞くの?」


「ん~内緒~。」


 何やら元気になった唯音。


 オリエンテーション旅行の間少し元気がなくて心配だったのだが、これなら大丈夫そうだ。


 隣を見ると嬉しそうにスマホをいじっている唯音。


 その奥には高速道路と車と山や谷で構成された雄大な自然が映る。


(やっぱりすごいなあ自然。スケールがでかい…。)


 こういう景色を見ると毎回思う、自然は偉大だと…。


「ねえねえ遥眞~。」


 感慨にふけっていた俺に唯音が声をかける。


「今度の土曜日って暇だったりする~?」


 上目づかいでこちらをチラチラ見ながら問う唯音はとてもかわいかった。


「お…おう空いてるけど…。」


「じ…じゃあさ…その…二人で出かけない…?」


「おういいぜ。」


「本当?」


 了承したときの唯音の表情の変化と言ったらもう早送りの花が咲く映像みたいに劇的だった。


 こんなに喜ぶさまを見ていると…どうにも勘違いしそうになる。


 唯音は天然なのでそのような意図はないはずだが…ここまで喜ばれるとあれ?唯音は俺のこと好きなんじゃ…って思う。


 思ってもいいよね?


「で、どこに行くの?」


「えっと~例えば映画とか~お買い物とか~?」


「なるほど…いいぞ!」


 まるで都市伝説に聞くデートのようだ。


 と、ここでバスの中のみんながこちらを見てることに気が付いた。


 先生もにやにやしながら口を開く。


「おー?お前ら?こんなとこでデートの約束かぁ?お熱いことだな。」


 バスの中がどっと沸く。


「あ…いや~あはは…。」


 唯音に矛先が向かないようにか悠真が言う。


「おい遥眞!お前男前だな!こんなとこで誘うって!」


「うっせー!宿題2度と見せんぞ!」


「申し訳ございません~遥眞様!どうかお許しを~!」


 何とか話を逸らすことに成功したが、とても恥ずかしかった。


 唯音のほうを見ると…。


「デート誘っちゃった…。デート誘っちゃった…。」


 何やら顔を赤くしてブツブツ呟いてるが声が小っちゃくてよく聞こえなかった。


「唯音…?」


「ふぁっ?な…何?」


「さっきからなんかブツブツ言ってるけど大丈夫?」


「う…うん。大丈夫~!」


「それならいいんだけど…。」


 少し唯音の精神が心配である。


 …俺はその後寝てしまった。


 気づいたら学校についていた。


 バスの中で流れていたビデオはなんと、今一番はやっている恋愛映画だったというから(悠真談)見たかった。


 2泊3日のオリエンテーション旅行、とても濃い内容で疲れた時もあったけど楽しい旅だった。


 しかも唯音が可愛い旅であったから満足感はなおさらだ。


 そう思いながら家のドアを開けるとそこに…。


「お兄ちゃんお帰りーーーー!」


 不審者(?)がいた。


「うわああああああ!って亜美かい!驚かすなよ!」


「えへへー。お兄ちゃんが帰ってくるのが嬉しくて…。」


 そう言いながら抱き着いてくる亜美。


「ほら、はなれろ。夕飯作るんだよ!」


「お兄ちゃんのご飯食べる~!」


「母さんの許可はもらったのか?」


「もらったよ!」


「じゃあいいか…。ならソファーでおとなしく待っとけ。」


「はーい!」


 久しぶり(3日ぶり)に会ったからか亜美の愛情表現も鬱陶しく感じない。


 むしろうれしく感じながら夜ご飯を作る俺であった。

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