第6話 余韻と千春の提案
ヤンキーのような彼らが出て行った後でも教室の中はざわめいていた。
「遥眞…。大丈夫…?その…ヘイト買ってくれてありがとう…。」
あの千春にしてはめずらしくしおらしい態度で謝ってくる。
「いやいいけど…。あんなにきっぱりと断るの珍しいな?お前いつも告白とかやんわり断ってるじゃん。」
千春は心根が優しいからきっぱりしっかり断ってしまうと罪悪感を覚えてしまうようだ。
しかし、今日みたいに取り付く島もなく断るのは初めて見た。
「その…後ででもいい?ここでいうことじゃないから…。」
「そうだな…。ごめん。」
確かにここでいうことでもないので謝って引き下がる。
「はーるーまー!なんだよお前ー!かっこいいじゃねえかー!俺なんて怖くてちびりそうだったぜー。」
微妙な空気になったのを察したのだろうか、悠真がくねくねしながら近づいてくる。
悠真のこういうところに何回も助けてもらってる身としてはいくらお礼を言っても足りないくらいだ。
素かもしれないけど…。
「遥眞。ごめん。そしてありがとう。」
暁人は簡潔にだけどしっかりと謝意を述べてくる。
「いいってこと。お互い様だし。」
「遥眞~大丈夫?かばってくれてありがとう。」
最初千春が前に出たからヤンキーたちの興味の矛先が向かなかった唯音は少し震えている千春をやさしく抱きしめながらお礼を述べてきた。
「いや、いいんだけど…。千春大丈夫か?」
いまだ唯音の腕の中で震えている千春に声をかける。
その千春が話そうとしたときに教室前方のドアが乱暴に開く。
反射的に身構えるも入ってきたのは鳥原先生であった。
「お前ら~一時間目の数学始めるぞ~ってみんなで集まってどうかしたのか?」
一瞬言葉に窮するも、千春は毅然とした態度でこういった。
「なんでもありません。」
ちょっと千春の迫力がすごかったのか、それとも何かを察したのか先生は首をかしげながらも何も言わずに教壇に上る。
この日は何も起きなかった。
しかし、重大な何かを忘れている気がする。
夜、唯音のお世話も終わり、自室にてくつろいでいるときに千春からSINEでメッセージが来た。
『今、電話してもいい?』
なんだ?と思いつつも返信する。
『いいぞ』
するとすぐにスマホが震えた。
通話開始のボタンを押して耳に当てる。
『もしもし?こんな夜遅くにごめんね?話したいことがあって。』
『おう、なんだ?』
『今日の朝の事件についてあーくんと話したんだけど。』
『うん。』
『あーくんが遥眞にも相談したほうがいいっていうから…。』
『何流れるように彼氏の職務放棄してるんじゃあいつ…。』
あまりにも空気がシリアスだったので何とかもみほぐそうと冗談を言ってみる。
『ふふっ。あーくんもいろいろ動いてくれるみたいだけど。それでね、相談したいことっていうのは実は朝の三人組と面識があるの、一年の頃から…。』
『そうか。』
『遥眞。ちょっとリアクション薄くない?あーくんでさえ、えっ?本当に?って取り乱してたのに。』
『いや、朝の会話から面識あるんだろうな~っていうのは想像ついてたから。さらに言うなら、告白を断ったし彼氏いるって言ったのに付きまとってくるみたいな感じか?』
『……遥眞には何も隠し事できないね。その通り…。』
『それで俺に何を頼みたいんだ?』
『実は…あれから一人で帰るのが怖くなっちゃってあーくんについてきてもらったけどあーくんと時間合わない日もあって…。』
『そうだな、で?』
『あーくんがいない日に家までついてきてほしいというかなんというか…。』
『……それ、暁人に了承もらっているのか?俺だって男だし、二人きりで楽しく帰っているうちに俺が恋に落ちる可能性も否めないぞ?』
千春はちっこくて可愛いのでなおさらだ。
『実はあーくん今後ろにいて…。変わるね?』
『もしもし遥眞?俺からも頼む…。ちぃと一緒に帰ってくれっ。』
『おまえがそんなに感情的になるなんて珍しいな?そんなにあいつらやばいのか?』
『とりあえず知ってる限り、ストーカーと脅迫、暴行。この辺をやらかしている。』
『なんでそれで捕まらんのだ?』
『親が結構大物らしく握りつぶしているらしい。』
『おうおう黒すぎん?まあいいけど…千春も暁人も友達だし。』
『すまない…。恩に着るよ…。じゃあちぃに戻す。』
『そういうことで、よろしくお願いします。』
『わかった。詳細は今度でいい?』
『うん。ありがとう…。』
『おうよ。じゃあおやすみ。暁人にも言っておいて。』
『お休み…。』
電話がやっと終わった。
(ほんとに何か忘れてるような…。あっ、行動班組むの忘れてた!)
思い出すことに成功した俺はさっそく五人のグループSINEにメッセージを送る。
ついでに明日明後日の土日のどちらかにみんなで買い物に行かないかも聞いてみる。
それらを送った直後、思いついたように疲れがどっと出てしまった俺は風呂に入ってそのまま返事を確認せずに寝てしまった。
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