第5話 唯音の生態と事件の始まり
唯音の家の扉を開けて中に入りたい…。
入りたいのだが…。
「足の踏み場がない!この間掃除してあげたばっかじゃん!」
女子の家がきれいで女子っぽくてなんかドキドキするというのは幻想というか、一般的にはそうなのかもしれないが唯音の部屋はいつ物に引っかかって転んでしまうかという別のことにドキドキしてしまう…。
流石にごみ屋敷ということはないが、物の海状態になっている。
「気づいたらこうなってて…。遥眞、掃除も手伝ってくれる?」
流石に危機感を抱いたのかはわからないけど口調も神妙になっていてしおらしい。
すこしだけしおらしい唯音が可愛いと思ったのは内緒である。
「まあバイト代もらっているしそれぐらいはやるけど…時間かかるから明日帰ってきてからでもいい?」
ちょっと今から片付けるのは自信がない。
「うん~。ありがとう~。」
「うん。じゃあとりあえず水回り片付けて洗濯物を洗うか。…一応聞いておくけど下着等自分でやったりは…?」
最後の希望にかけて聞いてみる。
やはり家族でもない同年代の異性の下着というものはちょっと目に毒である。
「遥眞に頼みたいかな~。」
「さいですか…。」
だめでした。
まず、流しにこれでもかというほどに積まれた食器類を何とか片付けて、唯音のためにお風呂を入れる。
で、唯音がお風呂に浸かってご機嫌な時に目を回しそうな量の洗濯物を種類別に分けて洗濯機に入れて回す。
唯音は長風呂派らしくお風呂に入ったら最低でも50分は出てこない。
(神様というものはなんて残酷なのだろう…。容姿や小説に対しては溢れんばかりの才能を与えているというのに生活力に対しては見向きもされていないって…。これが俗にいう公平ってやつですか?)
洗濯機が回っている間そのようなことをぼーっと考えていた。
「遥眞~?こんなところでぼーっとしててどうしたの~?」
「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
考えていたら驚かされた。
「?」
このぽわぽわ姫は俺のことを え?こいつ頭大丈夫なんか? みたいな目で見ていた。
(お前が原因じゃ…本当にびっくりした…)
このようにこの唯音という人物はダメなところといいところのギャップがすごすぎて疲れたところに不意打ちで驚かしてくるという凶悪コンボを有しているのだ(なお本人に悪気や驚かしているという認識は一切ない模様)。
「いや、なんでもないよ…。じゃあ唯音一応洗濯と食器洗いやっといたからまた明日ね…。お休み…。」
「帰るの~?そっか~おやすみ~遥眞ありがとう~。」
「うん。」
この一言で報われたななんて思ってしまうあたり我ながら単純だと思う。
この日は疲れ果ててお風呂入ったら寝てしまった。
翌日、またも暴風のような亜美が家に襲来してきた。
「お兄ちゃん!早くいくよ!」
「相変わらずうるさいじゃないか…。静かにしろ…。」
「むむ?お兄ちゃんの家からほかの女のにおいがする!誰?誰を連れ込んだの?」
妹が恐ろしいのは気のせいだろうか。
「え?き、昨日皆来てたしその匂いじゃないすか…?」
「えぇーそうかなー?なんか敵の予感…」
「何の敵だよ…。」
「秘密!」
今日も今日とて馬鹿話をしながら学校へ向かう。
悠真とも合流し学校にも着いた。
悠真が道中 「何か起きそうな予感がするぜ!」 と騒いでいたが華麗にスルーする。
昨日という日が結構濃かったからか、気の疲れが取れなくて注意が散漫になってしまう。
1時間目の前のショートホームルームにて担任の鳥原先生が何か言っていたがちょっと考え事しているうちに聞き逃してしまった。
(後で暁人に聞こう…。)
先生が出て行ってから暁人にホームルームに先生が言ってたことを聞くと思わぬ答えが返ってきた。
「オリエンテーション旅行(2泊3日)行くから5人班を作れって言っていたよ。」
大事件であった。
「5人班?男女別?混合?」
「男女混合だって。あと旅館の部屋割り決めろってさ。」
「班は組めそうだね…。部屋は何人部屋?」
「3だって。」
「ピッタリじゃないですか。」
「そうだね。ということで、遥眞、悠真部屋一緒でいい?」
「俺はもちろん!」
「俺もいいぜ!」
部屋割りはやすやすと決まった。
しかし、波乱はここからであった。
俺らが唯音と千春に声をかけようとしたとき、教室の後ろのドアが乱暴に開けられて、いかにもヤンキーですみたいな顔をした3人組が入ってきた。
「このクラスに天川千春と機織唯音がいるって聞いたんだがどこにいる?」
(う、うわぁ…。なんだあのやばそうなオーラがプンプンしているのは…。すごい偏見だけど後先考えない感が…。)
「私はここにいるけど?何の用?」
そういって千春は前に出た。
「おい、天川おまえオリエンテーション旅行俺たちの班な。」
一応班はクラス違う人でもありとされているのでいいのだがこの言い方はあまりにも自己中すぎてクラス皆がこいつマジかみたいな顔でみている。
「え?いやだけど?」
「ぶふっ。」
(やべ、思わず吹いてしまった…。目付けられるかな…?まあでもこいつらあほそうだし唯音と千春にヘイト向くよりはこっちに矛先が向いたほうがいいかも…。)
「おい、てめえ今笑いやがったな?」
「いや、だって笑うなというほうが無理じゃない?精一杯かっこつけて千春を班に入れようとしたのに即答で拒否られるって(笑)。ダサくて笑ってしまうでしょ。」
「てめえ、言わせておけば…。」
「知ってた?てめえって手前のことで自分のことを指すんだけど。誰としゃべってんの?」
「おい、調子乗んなよ?」
「あなたの威勢は口だけですか?これ以上恥晒す前に自分のクラスに逃げ帰ったら?」
このころにはクラスにいるみんなが笑っていた。
それで居心地悪くなったのか、ヤンキーたちは逃げ帰る。
「ちっ、覚えてろよ?」
「わかった。お前らの恥晒し劇しっかりと覚えておくよ。ありがたく思いな。」
彼らは何も言い返すことなく教室を出ていく。
一応俺は幼稚園からこの星栄学園にいるが、彼らの顔は見たことないので高校から入ってきてはめ外しちゃったパターンだろうと推測できる。
これでもう来ないだろうとたかを括っていた俺はこの後この選択肢を後悔することになる。
いつだって手負い(?)の獣は恐ろしいのだ…。
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