第9話 あれ先生それってパワハr…

 翌日の月曜日。


 本日は学校である。


 昨夜、唯音と別れてから悶々と眠れない夜を過ごした。


 あれは何だったんだろう…。


 唯音に何かあったのか…?


 電車の時は元気だったのに…。


 そのような疑問が湧いてきては頭の中でぐちゃぐちゃと混沌の様子を呈している。


 何を食べたのかわからないまま朝食を詰め込み、何をしたのか記憶のないまま学校の準備をする。


 襲来した亜美との会話も上の空で亜美にも心配された。


 学校についてからも心ここにあらずな状態で机のことを見つめてたら先生にからかわれた。  


「おーい西彦寺なんで机とキスしようとしてんだー?」


 教室がどっと沸く。


 その声に顔を上げた俺は隣を見てぎょっとした。


 なんと唯音が来ていたのである。


 つまり、学校に来てからおよそ40分間俺はぼーっとしていたことになる。


「ゆ、唯音…。」


「ん~?遥眞おはよ~。」


 対する唯音は昨日何もなかったようにぽわぽわしていた。


「お…おはよう。」


「どうしたの~?」


「い…いやなんでもない。」


(昨日のことをこんなに引きずって馬鹿みたいだ…。よし!いったん忘れよう…。)


「お!遥眞が復活した!なあなあ遥眞宿題見せて!」


 早速とばかりに悠真がたかりに来る。


「はいはい。ほら。」


「おーセンキュー!」


 一応、そのあとは何事もなく過ごすことができた。


 気が付けば放課後。


 皆部活に行き一人帰りの準備をしていた俺は先生に呼び出された。


(なんだ…?面倒事じゃなければいいけど…。)


「おい西彦寺。お前、なんかあったのか?」


 朝のあの状態は相当に目も当てられなかったらしく心配された。


「いや、なんでもありません。大丈夫です。」


「そうか。まあいいや。でだな、お前ってさ成績も優秀だし、品行も方正だし、面倒見がいいし、やさしいだろ?」


 突然に持ち上げられ始めた。


 なにか途轍もなくいやな予感がする。


「い…いやぁそんなことないと思います。はい。ではこれで…。」


 逃亡を図るも先生にガシッと肩をつかまれ座らせられる。


「で、そんな素晴らしいお前を見込んで頼みがあってだな…」


「お断りしたいんですけどどうせさせてくれないんですよね。」


「そんなことないじゃないか。いつも誠意を見せて頼んでるだろ。」


「その誠意がどちらかというと威圧的っていうかなんて言うか…。」


「で、頼みたいことというのはだなふたつあって…。」


「多い!図々しい!」


「そんな褒めんなって。で、一つは新入生歓迎会の司会進行を頼みたい。で、二つ目は次の生徒会会長に立候補してくれ。」


「褒めてないし願いがめんどい!」


「やってくれるよな?」


「先生それパワハラっていう気が…。」


「やってくれるよな…?」


「…………………。」


「な?」


「まあ司会進行はまあいいですけど…。」


「お!ありがてえ。」


「生徒会はちょっと…。」


「実はだな…ここだけの話なんだが…機織が生徒会に立候補しようとしていてだな…。」


「は?」


「彼女の家って相当に特殊な家じゃないか。」


 それは知っている。


 唯音が家事出来ないのに一人暮らしをしているのは実はそれが理由だったりする。


「で、私は機織のことを応援したいんだよ。」


「そうすか。」


「だからお前も生徒会に送り込んで機織はハッピーそういうシナリオだ。」


「先生そのシナリオ穴だらけじゃないですか!」


「え?どこが?」


「まず、唯音の気持ち考えてないところが論外です。次に俺の都合を考えてないところも論外です。」


「実は機織にはもう聞いている。西彦寺が一緒に生徒会に入ったらどうかってな。」


「なぬっ?」


「もうめっちゃ喜んでいた。」


「お前の都合は、なあ。悪かったとは思ってるけど、お前なら受けてくれると思ってたんだ…。」


「ぐっ…。良心に語り掛けてくるとは卑怯な…。」


「これは誠意というんだぞ。」


「くっ…。考えさせてください…。」


「おう。ありがとな!」


 それはそれはもう殴りたくなるほどの満面の笑みでお礼を言われる。


(まあこれ最終的に選択肢一つしかなくなってしまうパターンだけどまあいっか。)


 この先生にうまく丸め込められたけど不思議と忌避感はなかった。


(生徒会それも面白そうだな…。)


 この選択が今後どれだけの波乱を巻き起こしていくかはまだ誰も知らない。


 夜、新入生歓迎会の司会進行をするときとある人物の協力を仰ぐためにSINEにて電話をかける。


『もしもし?』


『ん?遥眞?この時間に珍しいな!』


 われらが元気印悠真である。


『実はだなかくかくしかじかで…。』


『なるほど!よーくわかった!いいぞ!』


『お!一緒に司会してくれるか!』


『おーよ。なんか面白そうだし!』


『わかった。恩に着る。』


『ん!それだけ?』


『おう。助かったよ!じゃあな!』


『あーい。お休みー!』


 協力者一名確保である。


 これで司会進行に活路を見いだせた。


 こういう場だとこいつがいるだけで盛り上がる。


 来るべき新入生歓迎会に思いを馳せながら眠りについた。

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