第23話 準備
「遥眞…一晩経って考えは変わったか?」
「はい。変わりました。」
「そうか。ならいい。曳地、先方に伝えておけ。」
「かしこまりました。」
相も変わらず温かさを感じない部屋に、濁ってる(ように見える)瞳。
本当にここには人が住んでるのか?
「ならもう用はないだろう。家に帰りなさい。」
「わかりました。」
何とかこの人外魔境から逃れると、その足で暁人の家に向かった。
重厚な門に対して、蟻のように見えるインターホンを鳴らすと…柳さんが出てきた。
「はい?あ、遥眞様。どうなされました?」
「すいません。暁人か当主の玄瑞さんはいませんか?」
玄瑞さんとは、暁人の父親だ。
「若は今学校に行ってていませんが…総長ならご在宅です。面会できるか聞いてまいりますので少々お待ちいただきたい。」
「わかりました。」
待つこと10分…。
「総長の許可が出ましたので、どうぞお入りください。」
「お邪魔します。」
門が開き、迎えに来てくれた柳さんの後についていく。
「して、本日はどのようなご用件で?」
「ちょっと玄瑞さんに頼みたいことができまして…。」
「了解です。」
やはりこの家は…あの西彦寺本邸と違って人情味にあふれてる。
とても気持ちが温かくなる、そんな感じだ。
「総長!遥眞様がいらっしゃいました!」
「入ってもらいなさい。」
「はっ。失礼します!」
「よく来たな遥眞君。暁人なら今いないが…何の用だい?」
「申し訳ございません玄瑞さん…。できれば人払いを…。」
「大事な話かね?わかった。おいお前ら!ここはしばらく立ち入り禁止だ!」
鶴の一声でこの部屋にいた人たちが一斉に出ていく。
「さて、人払いも済んだし…何の用かな?」
「率直に言います。西彦寺へのボディーガードの派遣を中止していただきたいです。」
この言葉で玄瑞さんはすごい驚いた顔をした。
「なぜ…なぜ君がそれを知ってるのかね?だいぶ極秘に派遣したつもりなのだが…。」
玄瑞さんにこれまでの経緯と俺の目的を語る。
「ううむ…。なるほど…。しかし契約を途中で打ち切るのは…。」
「そこで提案なんですが………」
こうして俺と玄瑞さんの密談は終わった。
現在俺は猛烈に感動している。
あの人外魔境西彦寺本邸から、落ち着ける我が家に帰ってこれたことが…。
落ち着ける場所というものはやはり大事だ。
さて、じゃあちょっと休んだら追い落とす準備をするか…。
俺の作戦というのはこうである。
とりあえずお母さんに話を伺う。
次にあいつの犯罪の証拠を集める。
そして、俺が複数の優秀な成績を収める。
そうすれば人望が集まってハッピーエンドそういう筋書きだ。
ちょっといろいろありすぎたからか、知能指数が低くなってる気がする。
まあ、このような作戦で行こうかなって思ってる。
なので、お母さんにSINEでそちらの家に行ってもいいか聞いてみる。
お母さんは現在亜美と二人で暮らしている。
お母さんはめっちゃ仕事ができる人で、とある会社の社長にまでなっているので、この二人暮らしには支障がない。
ものの数分で返事が返ってきた。
『いいよー。夜ご飯準備して待ってるね!』
お母さんたちの家はここから歩いておよそ10分といったところにある、タワマンだ。
そのタワマンにつくと、下で亜美が待っていた。
「お兄ちゃん!今日はどうしたの!?あのてこでも家から動かないお兄ちゃんが!」
「なんだその言い方。まるでニートみたいじゃん。誤解されるだろ…。」
「まるでっていうか学校と友達に呼ばれたとき以外、外に出てる?」
「さて、上に行くか。」
「ちょっとお兄ちゃん!聞いてる?」
「ほら、亜美おいてくぞ。」
「ちょ、ちょっと待って!」
やっぱり亜美はまっすぐで元気ないい子だ。
調子に乗るから本人には言わないけど…。
そして、あの家庭環境の中ここまで純粋に亜美を育てたお母さんには頭があがらない。
「あーら遥眞!いらっしゃーい!」
今日は珍しく仕事がないらしい。
「うんただいま。今日来たのはちょっとお母さんに聞きたいことがあって…。」
「なにかしらー?って聞きたいところだけどとりあえずお夕飯にしましょうか。」
「わかった。」
お母さんのご飯はとてもおいしかった。
やはりたまに食べたくなるおふくろの味というのは本当らしい。
亜美も美味しそうにあむあむ食べている。
「本当に美味しかったよ。ごちそうさま。」
せめて食器を片付けて、洗い物をする。
「それで、話ってなにかしら?」
お茶を用意して座っているお母さんの対面に座る。
「実は、かくかくしかじかでね…。」
「なるほどね…。私は…あなたを応援したいけど…。でも、失敗した時のデメリットが大きすぎると思う。それでもやると言うの?」
「うん。もう我慢するだけなのは嫌だ。」
「そう。わかったわ。こちらは任せなさい。あなたはあなたの好きなように、ただ周りには迷惑をかけないようにしなさい。それだけね。」
「うん。ありがとう。」
やはり、母という生き物は強いのだ。
その事を感じさせられたひと時であった。
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