第12話:車輪が軋むように君が泣く

応援部が正式な部活として認められてからしばらく経ったある日の放課後。

麗奈たちが練習のために屋上へ向かうと、里奈とひかるがいつになく真剣な顔付きで待ち構えていた。


麗奈「何かあったんですか?」


里奈「これから活動していくにあたって、君たちに話しておかなければいけないことがあるの」


未来虹「どうしたんですか、改まって」


里奈「私たちは応援部として越えなければいけない壁がいくつかある。それを1つずつクリアにしていくためにも君たちには知っておいてほしいの」


ひかる「応援団がどうして解散したのか」


麗奈「応援団…」


里奈「君たちが入学する前の話だから、結果的にはいざこざに巻き込む形にはなってしまうけど。それでも付いてきてくれる人だけ残って」


麗奈たちは誰もその場から離れはしなかった。


里奈「みんな、ありがとう」


軽く頭を下げると里奈はゆっくりと順を追って話し始めた。


坂之上女子高等学校の入学式では応援団による新入生激励という催しが毎年行われていた。

1年前の入学式の日、里奈は目の前の光景に心を奪われた。

学ランを着て新入生を激励する先輩たちの姿に惹かれた里奈は、その日の内に応援団に入団することを決意した。

そこで出会ったのがひかるだった。


里奈「入団したのは私とるんちゃん、そして、遥香の3人だけ」


麗奈「え?遥香さんって、副会長のことですか?」


里奈「そうよ。遥香は応援団のことを口にするのも嫌だろうから知らないのは無理もないわね」


3人はすぐに打ち解けて仲良くなり、応援団としての活動も順調に思えたが、その年の夏に事件は起きた。

それは野球部が初の全国大会出場を懸けた地方予選の決勝でのことだった。

当時のレギュラーは2、3年生のみで構成されており、試合は途中まで坂女が1点をリードしている状態であったが、1つのエラーがきっかけで逆転されてしまい予選敗退となってしまった。

選手たちは皆、落胆していたが、なぜかその怒りの矛先はエラーをした選手ではなく、応援団に向けられた。

応援団の大声が原因で試合に集中できなかったと言い出したのだ。

もちろんとんだ言いがかりではあるのだが、反論したところで選手たちは聞く耳を持たず、一方的に応援団を悪者に仕立て上げたのだった。


そのことがきっかけで応援することが馬鹿馬鹿しくなった先輩たちは応援団の解散を口にし始めた。

先輩の意見に黙って従うしかないと思っていたひかると遥香だったが、里奈だけは最後まで抵抗していた。

そして、周囲の反対を振り切って、野球部に発言の撤回と謝罪を申し出に言ったのだ。

そのとき、里奈の付き添いとして一緒に居たのが共に野球部を応援していたチアリーディング部の柚菜だった。

柚菜もまた、野球部の言い分には納得が言っておらず、一人で戦おうとしていた里奈に味方する形で野球部のグラウンドへと付いていった。

しかし、事態は最悪な方向へと転がってしまう。

野球部のキャプテンに抗議していた里奈たちだったが、バッティング練習をしていた真佑の打った球が運悪く柚菜の頭に直撃してしまい、そのまま病院に運ばれる事故へと発展してしまった。

そして、この事件が引き金となり、応援団は解散し、里奈も孤立するようになったのだった。


玲「そんなことがあったんですね…」


ひかる「私、後悔してるの。なんであのとき、孤立してしまったまつりにもっと早く手を差し伸べてあげられなかったんだろうって」


里奈「るんちゃんは戻ってきてくれた。それだけで十分だよ。本当はね、何度も諦めようとしたんだ。諦めて、みんなに謝ったら楽になれるのにって」


少しずつ沈んでいく夕陽が屋上をオレンジ色に染めていった。


里奈「けどね、出来なかった。私は誰かを応援したい。やるしかないって!だから、信じるまま、思うままに車輪を回そうと思ったの」


麗奈「里奈さん…」


里奈「私たちが越えなければいけない壁は3つ。もう一度、野球部の応援をすること。そして、チアリーディング部に協力してもらうこと。最後は、遥香に応援部の活動を認めてもらうこと」


ひかる「最後のは本当に個人的なことなんだけどね。生徒会の承認がもらえたとはいえ、遥香はきっと私たちのことを認めていない。遥香は柚菜の親友だから…」


里奈「もちろん全て私が招いたことだから、越えるのは私の役目。だから、君たちには見ていてほしい。私が逃げ出さないように、背中を押してほしい」


里奈の声は震えていた。

ひかるはそんな里奈の肩をそっと抱き寄せた。

しばらく沈黙が続いたが、何かを覚悟したような顔で麗奈が立ち上がった。


麗奈「フレー!フレー!里奈さん!」


麗奈の精一杯の声に未来虹と玲も立ち上がった。


未来虹「頑張れー!頑張れー!里奈さん!」


玲「好きです!好きです!里奈さん!」


ひかる「ちょっと!それは応援じゃないから」


屋上に笑い声が響き渡った。

里奈だけが泣きながら何度も何度もありがとうと繰り返し言っていた。

そして、里奈はこのメンバーでならどこまででも走れるはずだと思った。


??「話は聞かせてもらったわ」


その場にいた全員が声のする方へ振り向くと、教師とはまた違った大人の女性が立っていた。


??「野球部の件、私に任せて」


高身長でまるでモデルのような体型をしている声の主は拳を高らかに掲げた。

その姿はまるで『きりん』のようだった。



続く。

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