第35話:銭湯ラプソディー
五百城茉央は銭湯が大好きだ。
今日は茉央にとって特別な日であるが、いつものように早朝からやっている行きつけの銭湯の暖簾をくぐると、のんびりとひとっぷろを浴び始めた。
疲れたとき、悲しいとき、泣きたいとき、いつだって銭湯は垢と一緒にマイナスな気持ちを洗い流してくれる。
けれど、今日の茉央はどちらかと言えばポジティブな気持ちで溢れていた。
今日は高校の入学式。
茉央は坂之上女子高等学校の生徒になったのだ。
風呂から上がり、時計を確認した茉央は思っていた以上に時間が経っていたことに気がついた。
慌てて着替えを済ませると、茉央は腰に手を当てながら瓶牛乳を一気に体に流し込んだ。
茉央「おばちゃん、ありがとう!今日も良いお湯でした!」
茉央は急いで家に戻ると制服に着替えて、坂女へと向かうバスに飛び乗った。
??「茉央、おはよう!今日もギリギリだったね」
茉央に挨拶した生徒は中学からの友人である冨里奈央だ。
茉央「あ!おはよう!ちょっと銭湯でのんびりしすぎちゃった」
奈央「こんな日にまで銭湯行ってたの?どんだけ好きなのよ」
茉央「特別な日だからこそ行くんだよ。今日から新しい学園生活が始まるんだから。心も体も綺麗に洗い流した状態で入学式に備えないと!」
奈央「気合いの入れ方がなんか間違ってる気がするけど、茉央らしいから別にいっか」
茉央「あ!見て見て!校門が見えてきたよ!」
バスがゆっくりと坂女の校門前に停車する。
既に大勢の生徒たちが校内に集まっているようだった。
茉央「あれ、みんな新入生かな?」
奈央「どうだろう?先輩たちもいるんじゃない?部活の勧誘とか」
茉央「なんだかワクワクしてきちゃった!私たちも早く行こ!」
茉央は奈央の手を引っ張ると勢いよく校門をくぐり、校内へと入っていった。
すると、何人かの生徒が屋上の方を指差しているのが見えた。
屋上には学ラン姿の生徒数名が腕を組んで上から生徒たちを見下ろしていた。
それは二年生となった髙橋未来虹が部長を務める『応援部』だった。
麗奈「僕は信じてる!世界には愛しかないんだ!」
副部長の守屋麗奈が大声でこの言葉を叫ぶと、応援部一同は未来虹に続き一斉に声を上げ始めた。
未来虹「フレー!フレー!新入生!」
一同「頑張れ、頑張れ、新入生!頑張れ、頑張れ、新入生!おーーーっ!」
昨年の松田里奈による暴走とは違い、今年は応援部として正式に許可を取って新入生を応援することしたのだ。
奈央「なんか凄い迫力だね」
茉央(かっこいい…)
奈央「茉央?どうかしたの?」
茉央「え?あ、うん。なんでもない」
茉央の心には応援部の声が届いているようだった。
一方で応援そのものとは別の理由で応援部に興味を持った生徒もいたようだ。
表情一つ変えず屋上を見つめる生徒、それが小西夏菜実だった。
夏菜実(あの背の高い人、モデルやってたりするんやろか?お洒落な服とか似合いそうやし、お近づきになりたいわ~)
どうやら夏菜実は応援部ではなく、未来虹に興味を持ったようだ。
夏菜実(かっこええなあ…)
茉央(かっこいいなあ…)
今年も応援部の新たな青春が静かに動き出そうとしていた。
続く。
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