第13話:誰よりも高く跳べ!
突如として麗奈たちの目の前に現れた長身の女性は坂女OBの佐々木久美だった。
久美は元野球部員だったこともあり、監督として雇われたのだと言う。
久美「さっきの激励、すごく良かったよ!あなた、お名前は?」
麗奈「あ、あの…守屋麗奈と申します」
久美「守屋?勘違いだったらごめんなさい。あなたって茜っていうお姉さんいる?」
麗奈「え?お姉ちゃんのこと知ってるんですか?」
久美「やっぱりね!茜さんは1個上の先輩なのよ。私たちの代で茜さんを知らない人はいないと思うわ」
麗奈「お姉ちゃん、何かやらかしたんですか?」
久美「ははは…そうじゃなくてね。茜さんから何も聞いてないの?」
麗奈「は、はい…」
久美「茜さんは元応援団の団長だったのよ」
麗奈「え~~~~~!?」
麗奈は目を丸くして驚いた。
久美「本当に何も知らなかったんだね。伝説の団長とまで呼ばれてたのに。言っちゃまずかったのかな?てっきり、茜さんの影響で応援部に入ったんだと思ったけど、どうやら違ったみたいだね」
麗奈はあまりの衝撃に固まってしまった。
里奈「あ、あのー。部長の松田里奈と言います。久美さんはどうしてここに来たんですか?どうやって応援部のことを…」
久美「あー、ごめんごめん。話が脱線しちゃったね。松田さんはこの学校の理事長の名前って知ってる?」
里奈「え?確か…菅井理事長ですよね」
久美「そう。その理事長の娘さんがね、茜さんと同じく私の先輩なの。菅井友香っていう名前、聞いたことない?私はゆっかーって呼んでるんだけど」
里奈「すみません、存じ上げないです」
久美「じゃあさ、生徒手帳って真面目に読んでみたことあるかな?そこに明らかに変な校則が1つだけあるんだけど分かる?」
その場にいた全員が生徒手帳を取り出した。
ひかる「あ!見つけました!」
ひかるが勢いよく手を上げ、みんなの前に生徒手帳を広げて見せた。
そこにはこう記されていた。
『本校への登下校には自転車、または、馬の利用を許可する』
未来虹「馬…?って、あの馬ですか?」
久美「そうなの。おかしいよね、こんな校則」
里奈「あ、そういえば聞いたことあります。この学校にはかつて馬で登下校していた生徒がいたって。単なる冗談だと思ってましたけど、もしかして…」
久美「それがゆっかーなの。始めて見たときは本当に驚いたわ。だから、そんなおかしい校則が出来たのよ。でね、そのゆっかーから頼まれたの。坂女の野球部を助けて欲しいって。応援部のことはそのときに聞いたわ」
里奈「そうだったんですね。でも、どうして菅井さんは応援部のことを知っていたんでしょう。正式な部活になったのもつい最近のことなのに」
久美「うーん、詳しくは知らないけど、1年生にお友達がいるみたいなことは言っていたわ」
友香に応援部のことを話した人物は野球部マネージャーの茉莉だった。
菅井家と森本家は昔から家族ぐるみで交流があり、友香と茉莉は頻繁にお茶会を開いてはおしゃべりを楽しんでいるのだ。
野球部のキャプテンである真佑についての噂話を聞いてしまい悩んでいた陽世の異変に気づいた茉莉は、陽世から野球部と応援団の間に起きた事件について聞き出した。
野球部の応援には応援団やチアリーディング部の存在が欠かせないと思っていた茉莉は事の重大さを知ったのだが、自分たちが入学する前に起きた事件であったため、どう行動するのが正しいのか分からなかった。
そこで、坂女のOBであり、理事長の娘でもある友香に相談してみることにしたのだ。
相談を受けた友香は適任者がいるから任せるようにと言うと、その場で久美に電話をして交渉した。
久美「とにかく、野球部と応援部の間には解決しなければならない問題があることは分かった。だったら、やることは1つだよね」
里奈「何をやるんですか?」
久美「今日はもう遅いから、明日、グラウンドに行って野球部を応援するの!」
全員「え~~~~~!?」
久美「なにか問題でも?これは避けることができない壁なんでしょ?だったら迷っている暇なんてないよ。みんなで正面突破するしかない!」
里奈「で、でも…」
久美「大丈夫。きっと太陽が照らしてくれるから」
久美の背中はとても大きく、その言葉には不思議と説得力があった。
里奈「分かりました。やりましょう!」
久美「よし、そうと決まれば気合いを入れるために全員で高くジャンプしよう!」
里奈「えー、なんでですか~?」
未来虹「良いですね!私、そういうの好きですよ」
麗奈「私もやりたいです!」
ひかると玲もやれやれといった感じで目を合わせて軽く頷いた。
久美「よーし!それじゃあ、応援部のみんな~?いけんのか~!?」
全員「おーーー!」
久美「声が小さいぞ~!いけんのか~!?」
全員「おーーーーー!!!!」
久美「いくぞ~?全員で、跳べーーーーー!!!!」
夕日に照らされた6人は、精一杯の助走をつけて誰よりも高く跳んだ。
予想もつかないような明日を信じて。
続く。
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