あの坂へと続く道
@smile_cheese
第1話:世界には愛しかない
全力で走ったせいで、息がまだ弾んでた。
自分の気持ちに正直になるって清々しい。
僕は信じてる。
世界には愛しかないんだ。
スマートフォンから鳴り響く音楽が朝を告げる。
守屋麗奈は手探りでアラームを止めると、そのまま起き上がることなく再び眠りについた。
茜「麗奈!いつまで寝てるの?遅刻するわよ!」
姉の茜が呆れた様子で麗奈の部屋の扉を開ける。
麗奈「うーん、あと5分だけ。いや、あと10分…」
茜「ダメに決まってるでしょ!初日から遅刻なんてお姉ちゃん許さないからね」
そう言うと、茜は麗奈の体を無理矢理起こした。
麗奈は寝ぼけた様子で渋々洗面所へと向かい顔を洗った。
麗奈は高校生になるタイミングで茜が一人暮らししているマンションに転がり込んだのだが、何から何まで茜に頼りっきりだった。
今日は大事な入学式なのだが、マイペースな麗奈はあまりその実感もなく、のんびりと準備をしていた。
麗奈「あれ?お姉ちゃん、お弁当は?」
茜「今日は入学式だけなんだから午前で終わりでしょ。お友達とどこかで食べてきたら?」
麗奈「そっか。うん、そうするね」
茜「とにかく遅刻だけはしないようにね。私、もう行くから」
麗奈「はーい。行ってらっしゃい」
アルバイト先に向かう茜に軽く手を振ると麗奈は制服に着替え始めた。
新品の制服は高校生になることを実感させるには十分だった。
麗奈(私、今日から高校生なんだ)
期待とほんの少しの不安を抱きながら、麗奈はマンションを出てバスに乗り込んだ。
麗奈はバスに揺られながら学校へと続く道を眺めていた。
何もかもが新しい風景を映しながら、バスは桜並木の坂道へと差し掛かる。
バスが坂道を登り切ると麗奈の目に『坂之上女子高等学校』の文字が飛び込んできた。
麗奈は制服のリボンを正すと、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
いよいよ麗奈の高校生活がスタートするのだ。
バスを降りると麗奈に声を掛ける生徒が二人。
麗奈の幼なじみである髙橋未来虹と松尾美佑だ。
未来虹「おはよう、麗奈」
麗奈「あ、おはよう。みくにん、みゅうちゃん」
美佑「おはよう。って、あんたまだ寝ぼけてない?どうせ今日もギリギリまで寝てたんでしょ」
麗奈「あはは、バレた?」
美佑「まったく。あんまり茜さんに迷惑かけないようにね」
未来虹「まあ、いいじゃん。そんなことよりさ、クラス分け見に行こうよ」
美佑「もう、みんな麗奈に甘いんだから」
そんないつものやり取りをしながら、三人はクラス分けの表を見に行くことにした。
美佑「えーと、あ!未来虹、私と一緒だよ」
未来虹「え、ほんと?良かった~。初めてのクラスって緊張するからちょっと安心」
美佑「麗奈は…あ、違うクラスになっちゃったね」
麗奈「がーん!どうしよう、急に不安になってきた」
美佑「大丈夫でしょ、あんた可愛いし。すぐ友達出来るよ」
麗奈「ちょっと~、なんの根拠もないじゃん」
未来虹「まあ、ぼっちになりそうだったらうちらのクラスに来なよ」
麗奈「うん、そうするね」
美佑「未来虹ったら過保護なんだから」
三人がそれぞれのクラスに移動しよう校内に入ろうとしたその時だった。
何やら周囲がざわつき始めたかと思うと、みんな一斉に屋上の方を指差していた。
三人が視線を屋上へと向けると、そこには学ラン姿の生徒が腕を組んで仁王立ちしていた。
みんなの視線が自分に集まっていることを確認した学ラン姿の生徒は、両手に持っていた扇子を開くと大きな声で叫んだ。
里奈「フレー!フレー!新入生!頑張れ、頑張れ、新入生!頑張れ、頑張れ、新入生!おーーーっ!」
突然のことに生徒たちは混乱した様子だった。
生徒たちの反応を屋上から見ていた松田里奈はにやりと微笑むとさらに大きな声で叫んだ。
里奈「僕は信じてる!世界には愛しかないんだ!」
聞き覚えのあるフレーズに麗奈はハッとした。
それは麗奈が目覚ましとしてアラームに使っている大好きな曲の歌詞だった。
里奈はさらに応援を続けようと構えたが、騒ぎを聞きつけた教師が現れたのを見て、慌てた様子でその場を去っていった。
美佑「え?何だったの、あれ」
未来虹「応援団…かな?」
麗奈(応援団…)
里奈の目的が何だったのかは定かではなかったが、混乱していた生徒たちは駆けつけた教師たちに誘導されるがまま、自分たちのクラスへと移動していった。
そして、まるで何事もなかったかのように席の近い生徒同士で雑談を始めたのだった。
そんな中、麗奈だけは自分のクラスに移動した後も先程の光景が頭に浮かんで離れずにいた。
麗奈「世界には愛しかないんだ」
続く。
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