第33話:ブルーベリー&ラズベリー

"二人って似てるよね"


"ブルーベリーとラズベリーみたい"


誰かが言ったこの言葉が嫌いだった。

どっちがブルーベリーで、どっちがラズベリー?

そんなことはどうでもよかった。

別に"あいつ"のことが嫌いなわけじゃないけど。

似ていると言われることが気にくわない。

私は私、"あいつ"は"あいつ"、ただそれだけ。


清水理央は幼なじみの石塚瑶季と比べられることに嫌気が差していた。

決して仲が悪いわけではないのだが、子供の頃からいつも一緒に行動しているため、周囲からは事あるごとに能力を比較されてきたのだ。

その事をお互いを高め合う『ライバル関係』としてポジティブに捉えていた理央だったが、『個性』を意識するようになってからは『似ている』という言葉に強く嫌悪感を抱くようになっていった。


そもそも、どうして比べなくちゃいけないの?

似ているってことは個性がないってこと?


そんなことを思いながら、理央は『坂女祭』を訪れていた。

理央は坂女を志望校にしているが、瑶季も同じく坂女を志望しているため、別の高校を受験しようか悩んでいるところだった。

瑶季と距離を置けば比べられることもないからだ。

しかし、理央にはその決断に踏み切れない理由もあった。

理央はチアリーディング部の部長である柴田柚菜に憧れていたからだ。

坂女を志望した理由も柚菜の存在があったから。

もしも、理央が坂女に入学することが出来れば、一年間は柚菜と学園生活を送るチャンスが生まれる。

そのチャンスを手放してでも、瑶季と別の高校を選択するべきなのか自らと葛藤しているのだった。


瑶季「あ、いたいた!理央、おはよう!」


理央「げっ。お、おはよう…」


瑶季「さすが理央!こんな時間から最前列を確保してるなんてね。よいしょっと」


理央「ちょっと、なんで当たり前のように隣に座ってんのよ」


瑶季「え?別にいいじゃん。一緒に柴田様のチア見ようよ」


理央「こんなところ同じ学校の子たちに見られたら、またブルーベリーとラズベリーが一緒にいるってからかわれるじゃない」


瑶季「え?理央、そんなこと気にしてるの?別にいいじゃん。理央がブルーベリーで私がラズベリー。もしかして、ブルーベリー苦手だった?代わろうか?」


理央「そんなことはどうでもいいのよ!私たちが似ているって言われてることが嫌なの。私は私、瑶季は瑶季、ちっとも似てないじゃん。それなのに、一体誰がブルーベリー&ラズベリーなんて言い出したのよ」


瑶季「え?それ最初に言ったの私だけど」


理央「はあ!?」


瑶季「あれね、私たちのことを似てるって言う子たちに向けた皮肉なのよ。ブルーベリーとラズベリーって、似てるようで全然似てないの。そんな違いも分からない子たちへの逆いじりなんだ」


理央「そんな分かりづらい…誰も違いなんて気にしてないわよ」


瑶季「私たちが分かってればよくない?周りが何か言ってきても、ぐうの音も出ないくらい私たちが個性的で魅力的に成長すればいいだけの話だし」


理央「それは…確かにそんなこと言われたら、ぐうの音も出ないわね」


瑶季「でしょ?だから悩むだけ損、損!」


理央は瑶季の言葉に救われた。

それと同時に悩んでいた自分が恥ずかしくなった。

チアリーディング部のパフォーマンスを見ている間、二人は特に言葉を交わさなかった。

二人とも一秒たりと見逃さないぞと言わんばかりの真剣な表情でパフォーマンスを見つめていた。

そして、チアリーディング部のパフォーマンスが全て終わると、柚菜についての感想を口々に話し始めた。


理央「けどさ、柴田様もすごかったけど…」


瑶季「他にも気になる人、いたよね?」


二人「「松尾様!!!」」


二人とも、一年生の松尾美佑のパフォーマンスに心を奪われていた。


瑶季「やっぱり私たちって似てるのかもね」


理央「えー、嫌だな~」


瑶季「あんた、それ本気で言ってんの?」


理央「本気なら十年も仲良く幼なじみやってないでしょ」


二人「ふふふっ」


二人はその後もチアリーディング部の感想などを語りながら坂女祭を後にした。


瑶季「あと半年もしない内に卒業式なんだね」


理央「うん」


瑶季「坂女、受けないんでしょ」


理央「え?」


瑶季「知ってるよ。前に願書書き直してるところ見ちゃったんだ」


理央「そうなんだ…」


瑶季「………」


理央「ごめんね」


二人「………」


長い沈黙が続いた。

目の前の踏切のカンカンという音だけが鳴り響いている。

すると、瑶季が踏切の手前で立ち止まった。


瑶季「………」


瑶季が何かを言いかけたその瞬間、電車が勢いよく通りすぎていった。

瑶季の声は電車の音で掻き消されてしまったが、理央には瑶季の次の言葉が分かっていた。


『似て非なる愛こそ全てだ』


それは瑶季がよく口癖のように言っていた言葉だった。

おそらくは瑶季にとって最大級のエールを送っているのだろう。

その想いは理央にしっかりと届いていた。


理央「ずるいよ…こんなの離れられるわけないじゃん」


瑶季「え?何か言った?」


理央「うんうん、教えてあげなーい!」


理央は帰宅すると、願書を書き直した。

志望校にはしっかりと『坂之上女子高等学校』と書かれていた。



続く。

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