第40話:嫉妬の権利

入学式の翌日、莉奈が教室に入ると、クラスメイトの視線が一斉に莉奈に向けられた。

どうやら昨夜の唯衣や天とのやり取りを目撃した生徒がいたらしく、莉奈が上級生たちに絡まれて連れ去られてしまったという噂が流れていたのだ。

あながち間違ってはいないのだが、噂というのは広がれば広がるほど悪い方向に誇張されていくものであるため、クラスメイトたちは莉奈がひどい目にあったのではないかと心配していたのである。


瑶季「りなっぴ~!良かった~、無事だったんだね。怖かったよね、よしよし」


莉奈「え?何?どうしたの?」


瑶季「怖い先輩に脅されて、お金盗られちゃったんでしょ?今日のお昼ご飯、私が奢るから心配しないでね」


莉奈「怖い先輩…?ああ、あのことか。あれはね、ダンス部の先輩で…別に脅されてたわけじゃないの。まあ、そう見えなくはないけど。大丈夫だから。お金も盗られてないし」


瑶季「そうなの?なら良いんだけど。何かあったら私に言うんだよ。よしよし」


莉奈「あ、ありがとう…」


そんな二人の会話をところどころ盗み聞きしていた海月は、動揺を隠せなかった。


海月(入学初日にカツアゲ?坂女って不良学校だったの?それにしても石塚さん、いつも距離が近すぎじゃない?私の人魚姫、怖がってない?)


莉奈の周りには危険が溢れていると思った海月は居ても立ってもいられなかった。


海月(守らなきゃ…)


一週間後、海月は1年A組の教室へと駆け込んだ。

それは風の噂でとある部活の存在を知ったからだった。

海月は元々チアリーディング部に入部するつもりでいたが、莉奈を守らなければというお節介な使命感がその足を動かした。


海月「あ、あのっ!」


果歩「え?」


陽子「お友達?」


果歩「いや、初めまして…ですよね?」


海月「私、ヒーロー部に入りたいんです!」


果歩「え!本当に!?」


海月「この学校は危険です!カツアゲやハラスメントが横行しているんです!私の人魚姫を危険な目に遭わせるわけにはいかないんです!」


果歩「落ち着いて!落ち着いてください!に、人魚姫…?」


陽子「なんだか、よく分からないけど本気度は伝わってくるね」


海月(守らなきゃ…!)


果歩「そうだね、やる気はあるみたいだし、私たちは大歓迎だよ!」


海月「ありがとうございます!」


陽子「あ、でも、私たち入れてまだ3人だから、あと2人足りないよね」


海月「足りないとは?」


陽子「ヒーロー部が部活として認められるには最低5人は部員が必要なんです。だから、あと2人は勧誘しなくちゃいけなくて」


果歩「1人は当てがあるんだけどね」


陽子「それって村山さん?本当に入部してくれるのかな?私たちのファーストコンタクト、最悪だったけど」


果歩「一応、和解はしたはず…なんだけどね」


海月「とにかく、あと何人か必要なんですね!すぐに探してきます!」


そう言うと、海月は教室を飛び出していった。


果歩「ちょ、ちょっと!せめて、名前だけでも…行っちゃった」


陽子「変わった子だったね」


果歩「けど、名乗らないところなんか、ヒーローの素質あるかも!」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


中西アルノは日向の楕円の外には出ないよう、アスファルトに立って考え事をしていた。

別に悲しい事があるわけではないが、アルノの心は曇り空だった。


アルノ(今、あなたはどこにいるの?誰と何をしているの?)


アルノはクラスメイトの彩に好意を抱いていた。

入学式の日から彩のことが気になって落ち着かない毎日を過ごしていた。


アルノ(会いたい…会いたい…会いたい…ダメだ、今の私はウザい。けど、会いたい…あーや、私のあーや)


アルノは彩と撮ったツーショット写真を眺めていた。

けれど、そのツーショットの後方に写り込んでいる22人組の存在がアルノの心を曇らせていた。


アルノ(藤嶌果歩と一ノ瀬美空。この2人、あーやと仲が良いのよね…うらやましい。いいな、いいな、いいな…)


アルノは果歩と美空に嫉妬していた。

特に彩に対して過剰なスキンシップを謀る美空のことは敵対心さえ芽生えるほどだった。

これまで誰かに嫉妬することなどなったアルノだったが、切なさは人を別人へと変えてしまうのだ。

アルノはそんな自分のことが好きになれなかったが、この気持ちは誰にも止めることは出来なくなっていた。


アルノ(守らなきゃ…)



続く。

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