第42話:インフルエンサー

今の世の中、数字が全てだ。

より多くの数字を手に入れた者が勝者となる。

『フォロワー数』、『再生数』、『いいね』など、いかにSNSで数字を稼ぐかが鍵を握っている。

そして、その数字を多く集めることができる者、存在するだけで影響を与えることができる特別な者たちを、世間では『インフルエンサー』と呼ぶのだ。


冨里奈央は動画投稿サイトにアップロードした動画の再生数が伸びないことに悩んでいた。

それは芸能人のモノマネというありふれた内容であり、そのクオリティも決して高いと言えるものではなかった。


奈央「広瀬すずです…うーん、これじゃあダメだよね。もっと何かインパクトのあることをやらなくちゃ」


茉央「どうしたの、なおなお?」


奈央「え?いや、なんでもないよ。へへへ」


茉央「それでね、やっと部員が集まってヒーロー部が出来たんだ」


茉央は奈央にヒーロー部のことを熱心に話していた。


奈央「そうなんだ。でもさ、そのヒーロー部って具体的に何をする部活なの?」


茉央「うーん、それは茉央にもよく分からないんだけど、ヒーローだから人助け…とか?そういえば、一ノ瀬さんは守りたい人がいるって言ってたかな。たしか、小川彩さんとかって」


奈央「小川彩…小川…彩。彩ってこの字?」


茉央「私も会ったことないから分かんないけど…なおなお、何やってるの?」


奈央「ん?何ってネット検索だよ。坂女って過去にもモデルや女優を何人も輩出してるって噂でしょ?3年生の金川沙耶さんもモデルじゃん。もしかしたら、その小川さんって芸能人だったりしないかなって」


茉央「そんなわけ…ないと思うけど」


奈央「うーん、特にそれっぽい人はヒットしないみたい。ま、それもそっか」


茉央「あんまりよくないと思うよ、そういうの」


奈央「インフルエンサーになる一番の近道はインフルエンサーと知り合いになることだと思うんだよね。そのための情報収集なのさ」


茉央「もう、なおなおってば。あ、そういえばもう一人いたっけ。守りたいって言われてる子」


奈央「そうなんだ。なんていう子なの?」


茉央「たしか、渡辺莉奈さん…だったと思う」


奈央「渡辺…りなってどの字だろう?ひらがなでいっか」


奈央は検索バーに『渡辺りな』と打ち込むと、えいっと検索ボタンを押した。


奈央「結構、ヒットするなあ。やっぱりひらがなまと関係ない人たちもたくさん表示されちゃうもんね…あ!そっか、年齢で絞ればいいんだ」


奈央はさらに検索を続ける。


奈央「おっ、ヒットした。同い年の『渡辺』…えーと、『莉奈』!子役だって!ほら、見て見て!」


茉央「そんな、同い年だからって、そんな…あれ?私、この子見たことあるかも」


奈央「え?」


茉央「どこだっけな…たしか、坂女で見たような」


奈央「本当!?だとしたらインフルエンサー近くにいるじゃん!」


奈央は居ても立ってもいられず、茉央の腕を掴むと校舎に向かって走り出した。

2人は1年生の教室を一つ一つ見て回った。

そして、1年E組の教室を覗いたとき、クラスメイトと談笑している莉奈の姿を捕らえたのだった。


奈央「あれが…インフルエンサー」


茉央「どうするの?声掛けてみる?」


奈央「いや、今は止めとく。それより、面白いこと思いついたかも」


茉央「面白いこと?」


奈央(小川彩と渡辺莉奈…ヒーロー部は一体、誰からこの2人を守ろうとしている?そこをもう少し深掘りできれば…いける!この企画、面白くなるはずだ!)


茉央「なおなお?ねえ、なおなお!」


奈央「はっ!こうしちゃいられない!こうなったら部活の先輩たちも巻き込んで…」


茉央「ちょっと、なおなお~!授業始まっちゃうよ~!」


奈央は茉央の忠告も聞かず、どこかに走り去っていった。


奈央「るるる先輩!」


奈央が訪れたのは2年生の教室だった。

大声であだ名を呼ばれたことに焦って振り向いたのは『おもろい部』の林瑠奈だった。


瑠奈「ちょっ、なんや冨里か…その呼び名、恥ずかしいからやめろって言ったやろ」


奈央「そんなことより!おもろいこと考えたんです!聞いてくれますか?」


瑠奈「なんやいきなり…あと10分で1限目始まるで」


奈央「…じゃあ、聞かなくていいです!」


瑠奈「待てい!聞くにきまってるやろ。その代わり、おもろなかったら即却下や。分かってるな?」


奈央「もちろんです。題して…」


奈央はニヤリと笑みを浮かべて頷いた。


奈央『僕たちの戦争』



続く。

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あの坂へと続く道 @smile_cheese

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