第7話:ナゼー
なぜ、花は咲くのだろう。
なぜ、蝶は飛ぶのだろう。
なぜ?
上村ひなのは頭の中でたくさんの『なぜ』を考えながら校庭を歩いていた。
「テニス部に入りませんか?」
「もう何部に入るか決めた?」
「よかったらこの後、見学に来てみない?」
次々と声をかけられ困惑するひなの。
気がつくと鞄の中は部活勧誘のチラシでいっぱいになっていた。
なぜ、風は吹くのだろう。
なぜ、誰に何のために。
なぜ、鞄はチラシでいっぱいなのだろう。
なぜ?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
綺良と瑠奈は『おもろい部』の部員を集めようと教室で策を練っていた。
綺良「校舎の壁にでっかく部員募集って描いたらええんちゃいます?」
瑠奈「一発で退学やな」
綺良「じゃあ、放送室に立て籠って…」
瑠奈「真面目に考えようや」
綺良「そんなこと言うなら、何か案を出してくださいよ」
瑠奈「入部届に架空の名前書いて提出しても案外バレへんのとちゃう?」
綺良は呆れた様子で深くため息をついた。
綺良「それ、おもろくないですよ」
瑠奈「相方が否定すんなや」
不毛なやり取りだけが続き、時間だけが過ぎていく。
すると、頭を抱える二人の元に一人の生徒が近づいてきた。
茉里乃「綺良ちゃん、何してるん?」
声を掛けてきたのは綺良の幼なじみである幸阪茉里乃だった。
綺良「あ、まりのん。どうしたん?」
茉里乃「部活、何入るか決めた?うち、まだ迷ってて」
綺良「どことどこで迷ってるん?」
茉里乃「何も入らんか帰宅部か」
瑠奈「同じやないかーい!」
瑠奈が茉里乃に勢いよくつっこんだ。
三人しかいない教室は静まり返り、一瞬の静寂が流れる。
茉里乃「え?誰?」
綺良「こちら、今日から相方になりました。林瑠奈さんです。一緒に『おもろい部』を立ち上げてん」
茉里乃「『おもろい部』?それって、おもろいの?」
綺良「もちろん。けど、部員をあと3人集めないと部として認めてもらえへんらしくて」
茉里乃「うちも入れたらあと2人やん」
瑠奈「ちょっと、ちょっと!なに勝手に決めてんねん。誰でも入れるわけちゃうで」
茉里乃「うるさいで、林」
瑠奈「距離感おかしくない!?え?初めましてですよね?なんなん、この子」
綺良「まりのんはおもろい子やから大丈夫ですよ。今は一人でも多くの部員が必要ですし、入部してもらいましょうよ」
茉里乃「そういうわけやから。よろしくな、林」
瑠奈「だから、距離感!」
初対面の相手からの雑な扱いに戸惑った瑠奈だったが、不思議と悪い気はしなかった。
綺良は茉里乃にどうやったら部員が増えるのか相談を持ちかけてみた。
茉里乃は悩むことなく即答した。
茉里乃「チラシ配ったらええやん」
綺良&瑠奈「その手があったか!!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ひなの「(このチラシどうしよう…)」
大量のチラシを手に取り、ひなのは途方にくれていた。
ひなの「(お鍋で煮込んでジャムに出来たらいいのにな)」
なぜ、星は輝くのか。
永遠の宇宙の中にヒントはあるんだ。
なぜ?
再びたくさんの『なぜ』を考え始めたひなのに新たなチラシを渡そうとする手が伸びる。
綺良「おもろいことしませんか?」
ひなの「おもろいこと?」
綺良「チラシ、いっぱいですね。どの部活に入るか決めたんですか?」
ひなの「いやー、なんというか…えへへ」
綺良「私も1年なんですけど、一緒のクラスではないですよね?林瑠奈って子、知ってます?幸阪茉里乃とか」
ひなの「ちょっと存じ上げないかな~」
綺良「そうですか。6クラスありますもんね。うちの部活は来るもの拒まずなんで、どうですか?」
ひなの「どんなことする部活なの?」
綺良「おもろいことです」
ひなの「おもろいこと…」
綺良「おもろいことです。おもろくないことはやりません」
綺良の自信に満ち溢れた表情には何か惹かれるものがあった。
なぜ、こんなにもワクワクするのだろう。
なぜ?
ひなの「ナゼー!?」
突然、目の前で叫んだひなのに綺良は驚いた。
何事かと瑠奈と茉里乃も駆け寄ってくる。
瑠奈「どないしたん?おい、増本。なんか変な事言うたんちゃうやろな。あんた、大丈夫か?」
ひなのは首を大きく横に振った。
ひなの「大丈夫。驚かせちゃってごめんなさい。私も…おもろいことできるかな?」
そう言うと、ひなのは真っ直ぐな目で綺良たちを見つめた。
綺良「え?それって…」
ひなの「私、『おもろい部』に入部します!」
一瞬、時間が止まったかのように固まる綺良たちだったが、我に返ると両手を挙げて喜んだ。
そして、少し落ち着いたタイミングで四人は自己紹介を始めた。
綺良、茉里乃、瑠奈の順番に紹介が終わると、いよいよひなのの番となった。
ひなの「初めまして。2年B組、上村ひなのです」
三人「え?」
上村ひなのは2年生だったのだ。
なぜ、2年生なのに勧誘されてしまうのだろう。
なぜ?
三人「え~~~~~!?」
綺良たちはオーバーすぎるリアクションをしながら驚いた。
綺良「なんでもっと早く言うてくれなかったんですか」
ひなの「さて、なぜなんでしょう?」
続く。
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