第8話:ときめき草

入学式から数日が経ったある日。

麗奈と未来虹は里奈の誘いを受け、校内を案内してもらっていた。


里奈「私たちの活動はタイミングが大事だからね。私たちが応援したいと思っても、相手にとってはお節介に感じることもあるの。まずは応援して欲しい人を見つけるところからだね」


髙橋「需要と供給が一致しないと応援とは言えないってことですね」


里奈「その通り!未来虹ちゃん、分かってるね」


最初は非公認の部活に警戒していた未来虹だったが、里奈の持ち前の明るさにすっかり心を許していた。


麗奈「けど、応援して欲しい人って、どうやって見極めるんですか?」


里奈「それはね、私にもまだよく分かんないの」


里奈の表情が一瞬、曇ったように見えた。


里奈「前に失敗しちゃったことがあってね。私もまだまだ勉強中なんだ」


髙橋「応援するって奥が深いんですね。ちょっとやる気出てきたかも!」


里奈「おっ、いいねえ!その気持ちが大事だよ!」


里奈は再び校内の案内を始めた。

里奈の案内を聞きながら、麗奈がふと校庭に視線を向けると、うずくまっている生徒がいるのが見えた。


麗奈「里奈先輩、あそこ!」


麗奈が指差す先を見た里奈は直ぐ様、その生徒のところに向かって走り出した。

麗奈と未来虹も慌ててその後を追った。


里奈「大丈夫ですか!」


里奈が大きな声で呼び掛けると、声を掛けられた生徒はゆっくりと振り返った。


玲「え、私ですか?」


大園玲は不思議そうな顔で里奈を見上げた。


里奈「こんな所にうずくまってどうしたの?お腹でも痛いの?」


すると、玲はキョトンとした表情で首をかしげた。


玲「いえ、大丈夫です。この子とお話ししてたんです」


玲の視線の先はただ雑草が生えているだけの地面だった。


里奈「この子って…誰も居ないけど」


里奈は少し引きつった顔で問いかける。


玲「居ますよ、ちゃんと」


玲が指を差した先には小さな雑草が生えていた。


玲「誰にも見てもらえないって寂しそうにしていたので。この子だって、こんなにも一生懸命生きてるのに。知っていますか?道端に咲いてる雑草にもちゃんと名前があるんですよ」


里奈「それって、二人セゾン?」


麗奈「(やっぱり。里奈先輩、欅坂46が好きなんだ)」


麗奈は入学式の日に里奈が屋上から『世界には愛しかない』と叫んでいたことを思い出していた。


玲「誰にも気づかれず、名前も呼んでもらえない。とても寂しいけど、それでも強く生きていかなければならないんですよね」


まるで独り言かのように物悲しそうに話す玲。

それは、自分と雑草を重ねているようにも聞こえた。

そんな玲を黙って見ていた里奈が両手を後ろに組んで体を後ろに沿った。


里奈「フレー!フレー!雑草ちゃん!」


里奈の叫び声が校庭に響き渡った。

突然のことに玲は目を丸くする。


里奈「あなた、名前は?」


玲「大園…玲です」


里奈が麗奈と未来虹に目配せすると、二人も何かを察して小さく頷いた。


里奈「フレー!フレー!玲ちゃん!」


三人「フレー!フレー!玲ちゃん!フレー!フレー!玲ちゃん!わ~~~~~!」


麗奈と未来虹にとってはこれが初めての応援だった。

里奈は優しく玲に手を差し伸べた。


里奈「大丈夫、私たちが気づいたよ。大園玲ちゃん」


その瞬間、玲は大きな目いっぱいに涙を溜めた。

引っ込み思案の玲は入学式でも誰とも話すことが出来ず、未だにクラスの空気にも馴染めずにいた。

自分は誰の視界にも映っていないのではないかと思うようになり、道端に咲いている雑草に自分を重ねるようになっていたのだった。

そんな自分に気づいてくれた人が現れた。

そのことが玲には何よりも嬉しかった。

そして、微笑む里奈にハッした玲は、これまで感じたことのないような初めての感情が胸の奥で揺れていることに気がついた。


里奈「玲ちゃん、その雑草の名前は何て言うの?」


それは玲にも分からなかった。

玲はとっさに浮かんだ言葉を口にする。


玲「ときめき草です」



続く。

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