第17話:声の足跡
応援部とチアリーディング部で野球部を応援することが決まり、練習により一層力が入る中、里奈にはまだ心に引っ掛かっていることがあった。
それは、応援部として、いや、里奈個人として越えなければならない最後の壁である、遥香に応援部の活動を認めてもらうことだった。
自分たちの声は果たして遥香の耳に届いているのだろうか。
そして、里奈の真の叫びは遥香の心に届いているのだろうか。
そんなことを想いながら一人屋上で空を見上げていると、真っ青な空に飛行機雲がまっすぐに横切っていった。
里奈(大丈夫。届いてるよね、きっと)
里奈が練習を続けていると、屋上に一人の生徒がやって来た。
??「あのー、ここって応援部の部室…部外(ぶそと)で合ってはりますか?」
里奈「あ、はい。私、応援部です(部外?)」
??「良かった~。私、おもろい部の弓木奈於っていいます」
里奈「おもろい部?(なんか麗奈ちゃんから聞いたことあるような…)」
奈於「私たち、お笑いさんのコントをやろうとしてるんですね。それで、お題が『応援団』に決まりまして。だったら応援部に根掘り葉掘り、包み隠さず?お話を聞いたらいいんじゃないかっていうことになりまして」
里奈「コント?お題?ちょ、ちょっと話が見えないんだけど…」
奈於「ああ、お気になさらずで結構ですよ。簡単な話なんです。おもろい部も応援部に入れてもらえないかなと思いまして」
里奈「え?入部希望ってこと?どういうこと?」
奈於「うちの高校は2つまでなら部活を掛け持ちしても大丈夫らしいんですね。なので、コントのためにおもろい部全員で応援部を掛け持ちしたらおもろいんちゃうかっていう話です」
里奈「意味がわからないけど…とにかく入部してくれるってことね?」
奈於「はい!喜んで!」
すっかり奈於のペースにハマった里奈はおもろい部の5人が入部することをあっさりと受け入れた。
里奈(なんだかよく分からないけど、一気に部員の数が倍になっちゃった)
数日後。
綺良「応援部の練習って思ったより体力使うんですね」
麗奈「ふふ。そうでしょ?」
瑠奈「けど、なんでうちらこんなことしてるんやろ」
茉里乃「林が奈於ちゃんを連れてきたからでしょ。奈於ちゃん、コントで応援団やるって言ったら急に張り切りだして。まずは応援団のやみつきちゃんにならないとって飛び出していったんやから」
瑠奈「いやー、昔から変なとこあんのは知っててんけどな。応援部に入るっていう発想はなかったわ」
茉里乃「はんなりしててお笑いとは真逆な子やなと思ってたけど、まさか一番ぶっ飛んでたとはな」
綺良「まあ、おもろそうやしええんとちゃいますか?ひなの先輩も楽しそうですし」
瑠奈「それはそうやねんけど。なんで、あの人だけ学ラン用意してんねん。ハチマキまでして、誰よりもやる満々やん」
弓木「ほら、そこ!私語は勤しむ!」
瑠奈「それを言うなら慎むな」
ひなの「うふふ」
こうして10人になった応援部は大会の日まで毎日厳しい練習を重ねていった。
そして、月日は流れ大会前日。
里奈「みんな、今日までよく頑張ったね。明日は朝早いから、今日はゆっくり体を休めて。以上!」
全員「押忍!」
部員が次々に帰宅していく中、里奈は最後まで屋上に残っていた。
ひかる「まつりはまだ帰らないの?」
里奈「うん。もうちょっと練習していこうかなって」
ひかる「部員のみんなには早く帰れって言ったくせに。明日、寝坊したって知らないわよ」
里奈「そうなんだけどね。やっと私の願いが叶うって思うと、じっとしていられなくて」
ひかる「気持ちは分かるけどね。じゃあ、私は先に帰るけど、あんまり無理しないようにね?」
里奈「うん。ありがとう」
ひかるが帰ると、里奈は一人で練習を再開した。
里奈「フレー!フレー!坂女!」
この声は風に乗って遥香に届いているのだろうか。
里奈「フレー!!フレー!!坂女!!!」
里奈はさらに大きな声で叫んだ。
里奈「フレー!!!フレッ、ゲフッ。ゲホッ、ゲホッ。あ、あれ?声が…フ、ブデ、ゲホッ、ゲホッ」
里奈の血の気が一気に引いていく。
大会が近づくにつれ、体に鞭を打って叫びすぎたせいで里奈は声が出なくなってしまったのだ。
里奈(どうしよう…私、声が出なくなっちゃった…)
大会当日。
集合時間になっても里奈は姿を現さなかった。
麗奈「里奈さん、どうしたんでしょう」
ひかる「本当に寝坊したのかしら」
玲「まさか、事故にあったりしてないですよね?」
ひかる「電話にも出ないわ…」
そのとき、音信不通の里奈に不安になる一同の元に駆け足で向かってくる女性がいた。
その女性は息を整えながら深くお辞儀をした。
??「応援部のみんなだよね?初めまして。松田里奈の姉の好花です」
続く。
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