第18話:君のため何ができるだろう

好花「里奈は今日、ここには来ません」


里奈の姉である好花が口にした言葉は応援部全員を動揺させた。

喉に負担を掛けすぎたせいで大きな声が出せなくなった里奈は自分を責め続け、部屋に閉じこもってしまったのだ。

好花は何度も部屋をノックして試合会場に向かうよう説得を試みたが、とうとう里奈が部屋から出てくることはなかった。


好花「本当にごめんなさい。だけど、里奈を責めないであげてほしいの。この日を誰よりも楽しみにしていたのは、きっと里奈だと思うから」


未来虹「けど、応援はいつも里奈さんが先陣を切ってくれていました。里奈さんが居ないのに、私たちだけでどうやって…」


玲「ひかるさん、どうしますか?」


ひかる「どうしよう…まつりの代わりなんて…」


全員が意気消沈していると、試合会場に続々と他の生徒たちが集まり始めた。

その中には生徒会の面々やチアリーディング部の部員たちも混ざっていた。


柚菜「あれ?里奈が居ない…」


レイ「里奈って、応援部のleaderさんだっけ?どうしたんだろう。緊張してお腹でも痛くなったのかな。What's happen!?」


レイは周りをキョロキョロと見渡した。


レイ「あ!かっきーだ!お~い!かっきー!come on!」


遥香「ちょっと、生徒会長!大きい声で呼ばないでください」


レイ「応援部のleaderが居ないみたいなの。どこかで見かけなかった?」


遥香「里奈が?」


柚菜「もうすぐ試合が始まるっていうのにどこにも居ないのよ」


遥香「私には関係ないわ」


柚菜「1年前のことまだ怒ってるの?あれはもう終わったことなんだから」


遥香「・・・」


遥香が黙り込むと、柚菜たちの元に聖来が慌てた様子でやって来た。


聖来「大変や!大変や!里奈ちゃんが声出んくなったらしくて、ここに来てへんらしいねん」


柚菜「声が?そんな…あんなに頑張ってたのに」


聖来「それで、すっかり落ち込んでしまってな。部屋から出てこんくなったんやって。応援部のみんなも困ってたわ。この日のために里奈ちゃん毎日頑張ってたのに、悲しいよな」


すると、それを聞いた遥香が会場の出口の方へと突然走り出した。


柚菜「遥香!どうしたの?」


遥香「連れてくる」


柚菜「え?」


遥香「私が里奈をここに連れてくる」


柚菜「私も行く!」


遥香「柚菜はここに居て!柚菜まで居なくなったら応援はどうするの?ここは柚菜に任せるから」


遥香の真剣な表情に柚菜は黙って頷いた。

それに答えるように遥香も頷くと、里奈の家に向かって走り始めた。


柚菜「遥香、頼んだよ」


すると、遥香を見送る柚菜の背後から、声を掛けてくる2組の女性が現れた。

それは、菅井理事長の娘である友香と麗奈の姉である茜だった。


友香「こんにちは。坂女の生徒さんですよね?」


柚菜「え?あ、はい。そうです」


友香「私たち、坂女のOBなんです。友人が野球部の監督をしているので応援に駆けつけたんですけど、何かありましたか?さっきの子、ものすごい勢いで走っていきましたけど」


柚菜「ええ、ちょっと、応援部のことで色々ありまして」


茜「応援部?詳しく聞かせてくれないかな。私の妹も応援部の部員なの」


柚菜は2人に里奈のことについて話した。


友香「なるほど。それで、遥香さんが里奈さんを連れてくるために走って行ってしまったんですね」


柚菜「そうなんです。だけど、今から行って間に合うかどうか…」


友香「そういうことなら私が力になります!今すぐ馬で…と言いたいところですが、今日は連れてきてはいないので、車で遥香さんを追いかけて里奈さんのお家までお送りしますね。じいや!じいや!」


友香が専属の執事を呼ぶと、会場前に大きなリムジンが現れた。

遥香は颯爽とリムジンに乗り込むと手を振りながらその場から去っていった。


茜「相変わらずやることがいちいち派手なんだから。さて、わたしは応援部の激励にでもいこうかしら。柚菜さん、ありがとう。あなたも頑張って!」


柚菜「はい!ありがとうございます!」


茜は応援部の居る方に向かいながら、使い古されたハチマキを取り出し、きつく結んだ。


麗奈「え?あれ?お姉ちゃん!?」


茜「話は聞かせてもらったよ。あんたたち、何しけた面してるんだい?もうすぐ試合が始まるんだよ!この日のために必死に練習したんだろ?根性出しな!全員、気合い入ってるか!?」


全員「お、押忍!」


茜「本当に入ってんのか!?」


全員「押忍!!」


茜「気合いだー!!!」


全員「押忍!!!」


茜「気合いだー!!!!」


全員「押忍っ!!!!!!」


茜「うるせーーーっ!!!!」


全員「!?」


麗奈「もう!お姉ちゃん!ご、ごめんね、みんな。ここまでがお姉ちゃんの気合い入れセットなの」


茜「けど、声出したら少しは不安な気持ち吹き飛んだんじゃない?」


ひかる「確かに…そうですよね!ここまできたらやるしかないですよね!私、やるわ!まつりの代わりにみんなを引っ張ってみせる!」


麗奈「ひかるさん…」


ひかる「まつりにはたくさんの大切なものをもらったし、まつりが隣にいてくれたからここまでやって来れたんだもん。今度は私たちが返す番だよ。だけど、私一人じゃ戦えない。頼りないかもしれないけど、みんなも付いてきてくれる?」


未来虹「そんなの、当たり前じゃないですか」


玲「大好きなまつりさんのためですからね」


その場にいた全員が頷いた。


ひかる「ありがとう…みんな…」


茜「よく言った!私も後ろから一緒に声出すからさ、頑張りな!」


ひかる「はい!」


麗奈「お姉ちゃん…ありがとう」


一方、その頃。

友香の乗るリムジンに拾われた遥香が里奈の家の前に到着した。


遥香「友香さん、ありがとうございます」


友香「待ってるから。頑張って里奈さんを説得してね」


遥香は深々とお辞儀をすると、里奈の家のインターフォンを鳴らした。

しかし、その音には誰も反応しなかった。


里奈(みんな、ごめんなさい…ごめんなさい…)



続く。

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